業務で作成したソフトウエアの著作権は誰にあるのか?――退職社員プログラム持ち出し事件「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(20)(1/2 ページ)

東京高等裁判所 IT専門委員として数々のIT訴訟に携わってきた細川義洋氏が、IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は、自分が作成したソフトウエアを持ち出して起業したエンジニアが、元職場に横領罪で訴えられた裁判を解説する。

» 2015年09月07日 05時00分 公開

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「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説

連載目次

 IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。前回はプログラムの著作権が認められるための要件と、プログラムの「盗用」を防ぐ方法を解説した

 今回は、業務で作成したソフトウエアの著作権は会社とエンジニアのどちらにあるのかを解説し、それを知らなかったがためにエンジニアが「横領罪」で訴えられた裁判例を紹介する。

 読者の中には、IT企業から転職した経験がある方や転職を考えている方も多いかと思う。IT企業でなくても、ソフトウエアを作成する仕事をしていた人間が他社に転職する場合にぜひ、注意していただきたいのが、前職で作成した成果物の著作権の問題だ。今回はこの著作権をめぐって元社員が刑事告訴された事例を紹介する。

 退職者が軽い気持ちで行ってしまったかもしれない行為が重大な結末を迎えた事件、心して読んでほしい。

著作権をめぐって元社員が刑事告訴された事件

東京高裁 昭和60年12月4日判決より抜粋して要約

 ある大手鉄工所でCAD(Computer Aided Design)システムを開発した複数の社員が退職して自分たちのソフトハウスを設立する際、鉄工所で自分たちが開発したソ−スコード、モジュール、その他資料を鉄工所に無断で持ち出した。これを知った鉄工所は、この行為が、業務上横領に当たるとして社員たちを刑事告訴した。

 先に結論を書いてしまうと、元社員たちに業務上横領罪が適用された。元社員たちは犯罪者になってしまったのだ。

 会社の仕事で作ったものを勝手に持ち出して次の仕事に利用するのはアンフェアであり、常識的に考えて妥当な判決であろう。

 しかし、ソフトウエアは形がなく、持ち出しても発覚しにくいことや、「自分こそがソフトウエアの制作者である」という自負があることなどにより、退職時にプログラムや設計書を持ち出すエンジニアが現実には一定数存在する。USBやインターネット経由で会社のPCからデータを持ち出すのは、それほど難しい作業ではない。ある意味、気軽にできてしまうことでもある。

 しかし、「行為」は気軽でも「結果」は重大である。上述のように刑事罰が課されるし、民事で損害賠償を請求されることもある。ここは、あえて声を大にして

 退職者は、手ブラで会社を去らねばならない。

 と申し上げておく。

仕事で作成したソフトウエアの著作権は誰のもの?

 この裁判で興味深いのは、被告である元社員が著作権法第15条を持ち出して反論した点である。まずは、法律の条文をご覧いただこう。

著作権法第15条

1.法人その他使用者の発意に基づきその法人などの業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く)で、その法人などが自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成のときにおける契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人などとする。

2.法人などの発意に基づきその法人などの業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成のときにおける契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人などとする。

※太字は編集部が追加

 簡単に言えば、「プログラム以外の成果物について著作権を主張するには、成果物にコピーライトなどを記述して公表する必要がある」ということだ。

 確かにこの事件では、成果物は会社名義の下で公表はされていなかった。そこを捉えて元社員たちは、以下のような主張を行った(ただし、プログラムについては、そうした公表がなくても著作権は法人にあるとしているので、その点については、元社員たちの主張は不利だと言わざるを得ない)。

東京高裁 昭和60年12月4日判決より抜粋して要約

 著作権法15条によれば、会社が著作権を主張するには、著作物が会社名で公表される必要があり、今回の持ち出しは著作権を侵害していない。

 条文をその通りに読めば、確かにこの主張も一理あるように思える。しかし……

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