AWSのセルフサービスBI、「Amazon QuickSight」とは何かアナリティクス トレンド ピックアップ(1/2 ページ)

Amazon Web Services(AWS)は2015年10月7日(米国時間)、「re:Invent 2015」で、BIサービス「Amazon QuickSight」のプレビュー提供を開始したと発表した。これは、企業の一般ユーザー向けの、セルフサービスBIツールだ。同社にとっては、WorkSpacesやWorkMailと同様な意味も持つ。この新サービスを紹介する。

» 2015年10月15日 05時00分 公開
[三木 泉@IT]

 Amazon Web Services(AWS)は2015年10月7日(米国時間)、同社の年次イベント「re:Invent 2015」で、BI(Business Intelligence)サービス「Amazon QuickSight」(以下、QuickSight)のプレビュー(限定提供)を開始したと発表した。これは、企業の一般ユーザー、つまり商品企画、マーケティング、営業、カスタマーサービスなど、ビジネス部門のあらゆる人々のための、セルフサービスBIツールだ。データ分析を高速化するためのインメモリデータベースエンジンとともに提供される。

 こうしたツールをAWSが遅かれ早かれ提供するであろうと想像するのは、難しくはなかった。セルフサービスBI(「データディスカバリ」「データビジュアリゼーション」とも呼ばれる)は、ビッグデータ/IoTのトレンドと絡み合って、その利用は大きく広がろうとしている

 一方、AWSはデータストリーミング、データウエアハウス/データベース、Hadoop、機械学習、モバイルSDK、そしてre:Invent 2015で発表した「AWS IoT」など、従来型BI/ビッグデータ/IoTの分野で多数のサービスを提供するようになった。このビッグデータ/IoTに関する一連のプロセスを、AWSとして完結させるという観点から、まだ欠けていたものの一つがセルフサービスBIだ。

 これまでのところAWSは、従来型BI/ビッグデータ活用における分析の部分を、Tableauやマイクロストラテジーなどのツールに依存してきた。Amazon RedshiftのデータをTableauで分析するユーザー組織は非常に多い。今後もゲームサービスのエンジニアや、一般企業のデータサイエンティストなどは、これらのツールを使い続ける可能性がある。

 一方で、今後広がってくるのは、マーケティング部門や営業部門などにおける一般ユーザーのデータ活用だ。新サービスは、この部分をカバーしようとしている。

専用エンジン「SPICE」で分析を高速化

 QuickSightは、ユーザーがデータを視覚化して活用できるようにする「セルフサービスBIサービス」と、「分析を高速化するデータベースエンジン」に分離されているが、基本的には一体として提供される点に特徴がある。

 AWSが「SPICE(Super-fast, Parallel, In-memory Calculation Engine)」と呼ぶQuickSight専用のデータベースエンジンは、インメモリのカラムナーデータベースで、セルフサービスBIツールによるデータローディングを高速化できる。単一のダッシュボードを多数のユーザーが共有する場合にも、パフォーマンスは維持されるという。この高速性は、新サービスの重要な特徴の一つ。

 QuickSight自体はもとより、Tableauなどの他社セルフサービスBIツールからも、データソースとしてSPICEを指定し、分析の高速化を図れるとAWSは強調する。これにより、同社は他のセルフサービスBIツールベンダーを排除するつもりがないことを明確化しようとしている。

 ただし、SPICEだけを使って他社セルフサービスBIツールによる分析の高速化を図りたいユーザーでも、QuickSightのフル料金を支払わなければならないため、割高になることは否めない。

 SPICEは、複数のデータソースを統合する機能を果たし、インメモリとの相乗効果で分析のためのデータアクセスを高速化する。とはいえ、データソースとライブ接続する場合、SPICEが介在することで、リアルタイム性が多少の影響を受ける可能性がある。というより、QuickSightでは、いわゆるライブ接続が可能なのかどうか、はっきりしていない。同サービスの説明には、「スケジュール設定に基づく差分データロードが可能」という記述はあるものの、「データベースなどへのリアルタイム接続によるデータ更新が可能」とは書かれていない。

 データソースとして対応するのは、まずはAWSのデータ関連サービス。同一AWSアカウントにひも付けられたデータを、(アクセス権限に基づいて)自動的に探索して選択肢として示すため、ユーザーは簡単に利用できるという。その他に、Amazon EC2上でユーザー組織が運用するデータベースや、オンプレミスのデータソースもSPICEに接続して利用できるという。また、CSVなどのテキストファイルを、ユーザーがQuickSightのWebに直接アップロードできる(各種Excelフォーマットの直接サポートはない)。Salesforceなどの他社サービスに接続するためのコネクターも用意されるという。

QuickSight のBIは一般社内ユーザーのためのもの

 QuickSightのセルフサービスBIツール部分は、データ分析の素人でも、データを活用できるような設計になっている。ユーザーは、Webブラウザー、あるいはスマートデバイスのネイティブアプリで、このサービスを利用する。

 ユーザーがQuickSightにログインし、示されるデータソースのリストから望みのものを選ぶと、このデータソース上で利用できるテーブルの選択肢が示される。いずれかを選ぶだけで、これを対象としたデータの視覚化が始められる。「Prepare Data」というボタンを押すことで、不要行の削除など、簡単なデータ準備作業も自動的に実行されるという。

 選択したテーブルで、自分が見たいデータの列項目、行項目を選べば、適切なグラフ形式がQuickSightによって自動的に選択され、画面に表示される。グラフ形式の変更や項目のフィルター、ドリルダウンもその場でできる。QuickSightには、「次に選択されたテーブルのどの項目を使って視覚化を行うべきか」を推奨する機能もあるという。

QuickSightでは、ツリーマップを含む多様なグラフ形式で、データを視覚化できる

 現状では、QuickSightの機能は視覚化にとどまっているようだ。予測に関する機能の説明は見られない。

 視覚化されたダッシュボードは、他のユーザーとストーリーボードとして共有できるという。「ストーリーボード」は、複数の視覚化画面を、ストーリーとして紙芝居のように見せられる機能。共有ダッシュボードは、同ツールからだけでなく、Webサイトに埋め込むこともでき、共有されたユーザーは、任意の視覚化画面から、データのドリルダウンなどの操作ができる。また、QuickSightでは、視覚化画面をPDFあるいはPNG形式にエキスポートすることもできるという。

 QuickSightは、前述のように、大まかにはマイクロソフトのPower BI、IBMのWatson Analyticsに近いサービスだ。AWSは「従来型のBIソリューションの10分の1の価格で提供する」というが、何と比べて「10分の1」と言っているのかは不明。

 新サービスには「Standard Edition」「Enterprise Edition」の二つのエディションがある。料金は、基本的にはユーザー/月単位の固定制。契約は年単位あるいは月単位。年単位の契約では、Standard Editionが月額9ドル、Enterprise Editionが12ドル。月単位の契約では、Standard Editionが月額12ドル、Enterprise Editionが24ドル。これには分析用データベースエンジン利用料10GB分が含まれている。言い換えれば単一ユーザーが、1カ月に10GBを超える量のデータを扱う場合、追加コストが掛かる。

 なお、データアクセス、ダッシュボード共有を含め、主要機能は二つのエディションで共通のようだ。データ量の制限もない。一方、Active Directory統合およびきめ細かなユーザー権限管理は、Enterprise Editionにのみ含まれる。また、Enterprise Editionは、Standard Editionよりも最大2倍高速という。

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