IoTとは何か?企業、社会をどう変えるのか? 特集:IoT時代のビジネス&IT戦略(1)(1/3 ページ)

世の中全体に大きなインパクトをもたらすとして、社会一般から大きな注目を集めているIoT(Internet of Things)。だが、その具体像はまだ浸透しているとはいえない。そこで本特集ではIoTがもたらすインパクトから、実践に必要なインフラ、ノウハウまで、順を追って掘り下げていく。

» 2015年11月04日 05時00分 公開
[吉村哲樹@IT]

 今やIT業界にとどまらず、一般のビジネスシーンでも頻繁に耳にするようになった「IoT(Internet of Things)」。「モノのインターネット」という名の通り、世の中に存在するさまざまなモノがインターネットにつながり、膨大な量・範囲のデータが収集・分析され、ビジネスや社会全般に大きな革新をもたらすと期待されている。

 とはいえ、具体的な事例はまだ多いとは言えない他、「IoT」の解釈自体も人によってまちまちという状況だ。では具体的に、IoTは企業、社会にどのようなインパクトをもたらし、その実践には何が必要なのだろうか?――特集「IoT時代のビジネス&IT戦略」では、こうしたIoTの全貌を分かりやすく掘り下げていく。今回は特集のプロローグとして、IoTの動向に詳しいガートナー・ジャパン リサーチ部門 ITインフラストラクチャ&セキュリティ リサーチディレクター 池田武史氏にインタビュー。あらためて、IoT本来の意義と可能性を聞いた。

IoTでビジネスや生活は一体どのように変わるのか?

 ガートナーが2015年春に実施したアンケート調査によると、多くの企業が「IoTの普及に従い、今後2〜3年のうちに自社製品・サービスが大きく変化していくだろう」と回答したという。しかし池田氏は、近年の「IoTブーム」とも言える状況について、「IoTという言葉の認知度はかなり上がったが、それがビジネスや社会にもたらす本質的なインパクトについては、あまり理解が進んでいないのではないか」と述べる。

alt ガートナー・ジャパン リサーチ部門 ITインフラストラクチャ&セキュリティ リサーチディレクター 池田武史氏

 実際、IoTというと「モノのインターネット」という名の通り、店舗に陳列されている商品や工場設備などの「モノ」が、センサーとインターネットを通じて得たデータを基に「何らかの形で自らの存在をアピールしてくる」といったイメージを持っている向きも多いのではないだろうか。しかし池田氏は、「IoTの意義は、モノそのものではなく、“モノを介した体験”が存在感を示すことにある」と指摘する。

 「例えば『顧客が製品・サービスをどのように使っているのか』『製品・サービスを通じて何を得ようとしているのか』といった情報が、センサーとインターネットを通じて即座に把握できるようになる。そのリクエストに応えることができれば、製品・サービスそのものではなく、“顧客が製品・サービスを通じて得ようとしている体験そのもの”を提供できるようになる」

 その具体像は業界ごとに青写真が出来上がりつつあり、一部は実現までこぎ着けている。例えば製造業だ。工場やプラント設備にセンサーを取り付け、稼働状況をリアルタイムに計測・分析することで、生産の最適化を図る、設備部品の予防保守を図るといった取り組みがすでにある程度行われている。流通・小売業でも、リアル店舗やモールでの販売データを基に、商品を改善する、店頭の商品ラインアップを最適なものに変える、といったことが一部で実現している。

 だがIoTが進展すると、例えばモールに並んだ自動販売機などで直近の売れ筋商品を展示・販売する、その日の天候や気温などに応じて商品ラインアップを変えるといったことも可能になる。さらにはメーカーと連携して、販売状況を製造ラインの運用計画に反映することで在庫を最適化する、物流業者と連携して売れている店舗へ優先的に配送するなどして流通在庫を削減する、といったことも高精度で統制できるようになる。

 すなわち、人のニーズと取り巻く環境における“今”のデータを収集・分析し、スピーディーにアクションに落とし込むことで、サプライチェーンの川上から川下まで今以上に最適化することが可能となる。これにより、“顧客が製品・サービスを通じて得ようとしている体験そのもの”をスピーディーかつ合理的に提供できるようになる、というわけだ。これは「製品」というモノを例にとった話だが、モバイルやPCを介して提供されるITサービスの場合、川上と川下がインターネットによって直結しているだけに、サービス開発・改善のスピード・可能性に大きなインパクトがあることは自明だろう。

 逆に言えば、こうした世界が進展すると、IoTのメリットを生かせない企業は激しい市場競争の中で置いていかれる、ということでもある。ともすれば、ライバルと目していなかった企業が新しい製品・サービスを開発し、ある日突然、自社と同じ土俵に上がってくる、といったこともあり得る。現にそうしたことはすでに起こり始めている。クラウド業界に進出したGE(ゼネラル・エレクトリック)、自動車業界に進出しつつあるグーグルなどはその最たる例だろう。

 ただ池田氏は、IoT進展の向こう側に見える数々のメリット、インパクトを挙げる一方で、現状では、まだ“準備段階”であることも指摘する。

 「スマートフォンが広く普及したことで、スマートフォンの通信機能を介した『人のネット化』は急速に進んだ。しかし本来のIoTの世界は『モノのネット化』がさらに進まないと実現しないだろう。それに現時点では、技術の進化が人々のニーズを追い越して先行している状況といえる。そもそも人々は本当にIoTによって生活を変えたいと願っているのか、願っているとしたらどのように変わることを願っているのか――IoTによって生み出せる“体験”を人や社会にとって有意義なものとする上では、人々のニーズそのものを深く問い直す必要も出てくるはずだ」

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