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» 2015年11月30日 05時00分 UPDATE

頭脳放談:第186回 IoT/M2Mの通信インフラは格安SIMが解決する?

通信インフラが整っていない屋外でのIoT/M2Mを構築しようとすると、課題として上るのが「通信インフラをどうするか」だ。無線LANでは広い面積をカバーしきれない、かといって免許が必要な無線方式ではハードルが高い。そこで、携帯電話回線を利用するサービスに注目が集まっている。

[Massa POP Izumida,著]
頭脳放談
System Insider

 企画書などを起こすとき、費用対効果を示さなければならないことは多いと思う。営利でなくてもこのごろ費用対効果は厳しく問われるようだし、民間企業であれば、当然のことながら「どれだけもうかるの?」という質問に対する答えが、企画の通るか通らないかの決め手ともなろう(逆に「リスクはどれだけ?」と、リスクを恐れるあまり前に踏み出さない日本企業の問題はまた別の話である)。

 昨今、IoT(Internet of Things)とかM2M(Machine to Machine)といったくくりで新規事業を立ち上げるべく活動されている方々の中でも、企画を通すべく、いろいろと頭をひねっておられる向きが多いのではあるまいか。いくら格好いいIoTとかM2Mとお題目を唱えても、もうかる見込みがはっきりしなければことはまず進まない。そんなときに欲しくなるのがターゲットに関する統計的なデータだ。

 データがあればはっきりした効用を示せるかもしれない(逆に商売にならないことが明らかになることもあるが)。そしていったん小規模でもシステムを稼働させれば次々とデータが流れ込んでくる。そこから有効な情報を引き出すためには、これまたはやりの機械学習が使えるだろう。そこから拡大再生産のシナリオが描けるのである。どうもデータとIoTやM2Mは「鶏と卵の関係」に似ているようだ。

 最近いろいろ取り組みを聞く分野の中でも分かりやすいシナリオをいくつか考えてみよう。

 まずは地味なメンテナンスの分野である。地味な割には狙っている人が少なくないのはシナリオが分かりやすいせいだろう。大きな工場や作業現場での装置のメンテナンスを想像してもらいたい。規模が大きいだけに日々のオペレーションで動くお金が大きい。簡単のため1億円/日としておこう。何か部品が壊れたり、エラーが起きて重要な装置が止まったりして、数日稼働できなくなる。そうなると「1億円×止まった日数」だけの損失が出ることになる。

 普通はそんなことになったら大問題だ。そのような予期せぬトラブルが大きな問題を起こす場合、昔風には予防的にメンテナンスをしていることが多いはずだ。つまりある一定の運転時間が経過したら定期的に止めて検査し、壊れていなくても部品を交換するといったことを行う。それで壊れること、止まることを予防するわけだ。

 しかし、このごろは世知辛い。余裕を持たせて部品を交換しすぎると部品代を積算したものや在庫費用もバカにならない。管理や定期検査にも人手がかかる。そのコストを何とか削りたい、となるわけだ。そこでM2Mの登場である。24時間365日装置をリアルタイムでモニターすることで部品をギリギリまで使いつつ、問題が起こる前にスマートに交換する。このようなケースでは、M2Mの導入と、維持費用と部品の使用期間を伸ばせること、人手をかけずに済むことで浮くお金をてんびんにかけ、「これだけもうかりますからM2Mを入れましょう」という感じで企画を書くことになる。

 当然、その根拠データの収集が必要になるが、この手の問題は、「IoTだ」「M2Mだ」などという前々からデータが取られていることが多いので、取り組みやすい分野かもしれない。

 また、より積極的に不良品をなくしたり、製品品質を上げたりといった製造分野も同じようなものである。QCサークルなどがあり、データが溜まっていることが多い。M2Mの導入で見込める費用削減効果と、導入による効果の「てんびん」はよく見えるだろう。どちらかというとどう既存の仕組みと組み合わせていくかの方が問題が大きいかもしれない。こちらは「今までのやり方よりプラスアルファがあります」という感じにまとめることになろうか。

 すでにあのインテルもマレーシアの製造施設にIoTを導入して、試験導入で約9億円もの削減成果を上げているらしい(インテルのニュースリリース「インテルと三菱電機、次世代 FA システムで協業」)。

 上のような鉱工業や運輸産業分野への応用では、もともとデータをとって改善に役立てるような仕組みがあることが多いので、いざIoTやM2Mで何かをしようと考えるときも、事前に統計的なデータは得られやすい。その上、M2M化しようとする場合にかかる費用も比較的小さくて済む。何となれば対象とする「場所」に電源や通信インフラがあることが多いからだ。費用が比較的小さくて見えやすい効果があるので導入はしやすいのだろう。

 ところがそういう「インフラ」の整っていない場所、例えば農林水産業やら土木、建築関係など屋外が主の分野ではそうもいかないかもしれない。屋外でなくても分野によっては、根拠データがほとんどなかったり、あっても乏しかったりする。また、土木、建築関係などはデータは取られているし、現場事務所まではネットワーク化されていたりするが、作業の現場、メンテの対象物まではまだまだリアルタイムでネットワーク化はされていないところが多いようだ。オフラインで人手に頼る部分が多い。

 データの収集に人手が介在するときの問題点は認識されている通りである。そのあたりのリスクの大きさを考えると、今後はデータをリアルタイムでネットワークで吸い上げる、あるいは即座にアラートを上げる要求は高まるかもしれない。またサービス産業の場合、ネットワーク化されたPOSが導入されている大規模小売業などでは日々膨大なPOSデータが「ビッグデータ」として処理されていて最も進んでいるとも思える半面、POSとは無縁な業種では、依然手作業で行われている部分が多いようだ。

 そのような分野のIoT化、M2M化を進めてみようとするときには、まずはデータ収集のために小規模なトライアルプロジェクトを行いたくなるだろう。小規模でもデータが取れれば、はっきりと効用を計算でき、「鶏と卵」のサイクルを回し始めることができるからだ。

 そんなとき、最初にネックになるのは通信インフラではないだろうか。無線LANでは広い面積をカバーしきれない、かといって免許が必要な無線方式ではハードルが高い。その点、携帯電話の回線であれば、よほどの山中でない限り(ダム関係、砂防関係と林業関係はその特殊な範疇かもしれない)、まず通信ができるので便利だが、装置を多数散りばめていくには回線当たりの単価が高すぎる。

 複数台を無線LANで結んで、アクセスポイントから先を携帯回線という手を使えば単価を台数で割れる。散りばめるIoTやM2Mデバイスの1台1台の効用の小さを考えれば、通信単価は可能な限り安いに越したことはない。

 そう思っていたら、その問題の全てを解決するわけではないけれども、多少なりとも軽減すると思われるサービスが紹介されていた。M2M系のMVNOサービスである。モバイル・プランニングが提供を開始したM2M向けMVNOサービス「アキバモバイル」の他、複数のサービスがあるようだ。MVNOというとスマートフォン(スマホ)を安く使うための「格安SIMサービス」と意識されているが、これらのサービスはM2Mターゲットである。

 スマホに使うには「細すぎる」通信経路でも少量データを「時々送る」だけのM2Mなら十分だからそれを安く分けましょうという発想のようだ。当然、装置組み込み向けの通信モジュールなども別途世話してくれるらしい。こういうものを装置に組み込んでいけばまずは小規模なプロジェクトを始めるには十分ではあるまいか。

 ともかくデータが流れ込んでくるような仕組みをひとたび稼働できれば、鶏と卵のループを始められるわけだ。でも、後は機械学習で機械が勝手に「何か役に立つことを発見してくれるだろ」などと思わないように。最後は機械学習に頼るにせよ、今はまだまだ人間のインテリジェンスが必要だ。それなくしてループは回らないはずだ。それがいらなくなるようなら、君も筆者もクビだが……。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサーのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサーの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサーを中心とした開発を行っている。


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