従来の理論限界の2倍、100Gビットネットワークを使い切れるTCP通信技術「LFTCP」機器から生み出される超多量データを利活用する基本技術

東京大学と科学技術振興機構は、伝送速度が100Gbpsのネットワークを高効率利用するTCP通信技術を確立したと発表した。日米間の100Gビットネットワークで、73Gbpsという、従来の理論限界の2倍以上のデータ転送速度を得た。

» 2015年12月15日 15時57分 公開
[@IT]

 東京大学と科学技術振興機構は、伝送速度が100Gbpsのネットワークを高効率利用するTCP(Transmission Control Protocol)通信技術を確立したと発表した。日米間の100Gビットネットワークを実際に使って、73Gbpsという、TCPの従来の理論限界を大きく超えるデータ転送速度を得た。現在広く用いられているTCP通信の限界は、同ネットワークでは29Gbpsで、その2倍を超える通信速度を得たことは世界初だとしている。

 東京大学大学院情報理工学系研究科の教授である平木敬氏らの研究グループと、WIDEプロジェクト、NTTコミュニケーションズ、国内外のネットワーク機関による国際共同チームは、TCP通信を超高速化する研究・開発を進めてきた。

セレンティピターとは?

 今回の成果は、内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の一つ「セレンディピティの計画的創出による新価値創造」プロジェクトの一環で、「LFTCP(Long Fat pipe TCP)」と呼ぶ技術。プロジェクトそのものは、“高速流体中の細胞を一つずつ超高速で計測し、その結果に対してビッグデータ処理を施すことで、1細胞の分解能で細胞を弁別する情報処理システム”「セレンディピター」を研究開発し、これに基づくさまざまな技術の発展を目指すもの。細胞の優れた能力や未知の現象を効率的に発掘するため、偶然の幸運な発見といわれるセレンディピティを“計画的に創出する”という、大プロジェクトだ。

セレンディピターの概要(出典:科学技術振興機構、ImPACTのWebページ)
プロジェクト全体像(出典:科学技術振興機構、ImPACTのWebページ)

 非常に多くの細胞を超高速計測する際には、50Gbpsを超える大容量のデータが連続的に生成される。このため、生成データ全体を滞りなく転送するためには超高速データ転送技術を確立する必要があったという。

この計画と通信環境の改善の関係

 今回の実証実験は、日本のPCと米オースチン市で開催された「SC15(Super Computing 2015)」の会場に設置されたPCとの間のデータ通信で実施したもの。日米間の通信はTransPAC/Pacific Waveネットワークを用いている。

(プレスリリースより)

 LFTCPは、TCPの基本性質と輻輳(ふくそう)制御アルゴリズムを変えることなく、従来のTCPにあった制限を超え、100Gbps以上のネットワークを高効率に利用可能とした。LFTCPでは、送信側バッファに関連する変数を64ビット値に拡張することに加え、パケットフォーマットを工夫することで、ユーザーが十分に大きなバッファサイズを指定することを可能とした。さらに、パケットの送出タイミングを制御する関数を変更することで、従来のTCPを超高速ネットワークに適合する実装に変更した。

 従来のTCPは、内部変数として32ビット値を用いる。また、パケット形式の規定と実装上の制限から性能の上限があり、100Gビットネットワークの伝送可能データ量を埋めるだけのデータ送信ができず高効率利用が不可能だった。例えば、送信バッファ領域と転送中領域や受信バッファ領域のそれぞれを確保する必要があるため、一度に送信できるデータ量が1Gバイトに制限されている。

 LFTCPでは、輻輳制御アルゴリズムなどには従来のCUBIC TCP(Linuxカーネルなどにも採用されている高速ネットワークに向けたTCP輻輳制御アルゴリズム)と同じものを使用しているため、TCP通信の重要な性質である公平性は保証されている。この点が、UDT(UDP-based Data Transfer)などの、UDP(User Datagram Protocol)を用いたプロトコルと大きく異なる。また、TCPそのものを用いているため、最近のネットワークアダプターに備わっているTCP加速機構を有効に使用でき、通常のPCを用いても73Gbpsの高速通信が可能だ。

 この成果を発表した東京大学および科学技術振興機構では、この技術を「観測・測定機器から生み出される超多量のデータを利活用するための基本技術として使用する予定」だという。

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