ブロックチェーン技術活用の動きが本格化。利点はどこにあるのか住信SBIは実用化向けシナリオを検討、テックビューロはパブリックテストを開始

野村総合研究所とさくらインターネットは、それぞれブロックチェーン技術の実証に向けた取り組みを明らかにした。これらの取り組みの核にあるのは「NEM」およびその技術的な成果をベースにしたmijinなどのプラットフォームだ。

» 2015年12月16日 16時08分 公開
[@IT]

 「フィンテック」という言葉に象徴されるように、最近では金融業界でIT技術を応用する動きが活発化している。中でも注目を集める技術の一つ「ブロックチェーン技術」について動きが出てきた。2015年12月16日、野村総合研究所(NRI)とさくらインターネットは、それぞれブロックチェーン技術の実証に向けた取り組みを明らかにした。

Dragonfly Fintechと組んでシナリオ構築を進める

 NRIは住信SBIネット銀行と共同で、ブロックチェーン技術を活用した業務シナリオの作成とその実証実験を開始すると発表した。2015年10月から証券業務でのブロックチェーン技術の活用に向けて実証研究を実施中のNRIは、その取り組みを銀行業務にも広げる。

 NRIと住信SBIネット銀行は、ブロックチェーン技術を活用した業務シナリオを作成するとともに、検証事項を洗い出す。そして、その業務シナリオに沿った検証用プロトタイプシステムを構築し、成果や課題を検証した上で、銀行業務に向けたブロックチェーン技術の適用シーンの具体化を進める。その際のブロックチェーン技術の実装についは、シンガポールのDragonfly Fintechに委託する予定だ。

 Dragonfly FintechはNEMのコアデベロッパーでもある武宮誠氏がCEO(最高経営責任者)を務める企業。NEMは「分散形の論理に基づく新しい経済の基板を作ることを目的としたムーブメント」と表現されるブロックチェーン技術実装の一つ。今回の実験では、NEMとプライベートブロックチェーン「mijin」を併用した評価・実証を想定しているという。

Dragonfly FintechはNEMのコアデベロッパーでもある武宮誠氏がCEO

国産「mijin」のパブリックテスト

 一方、さくらインターネットとテックビューロは、さくらインターネットが運営する「さくらのクラウド」上で、テックビューロが開発するプライベートブロックチェーンのクラウド化技術「mijinクラウドチェーン」の実証実験環境「mijinクラウドチェーンβ」を、2016年1月から無料で提供すると発表した。プライベートブロックチェーン環境がクラウドサービスとして一般向けに無料で提供されるのは世界初だとしている。

mijin公式Webサイトのトップページ 実証実験の告知中。記事執筆時点で14人が申し込んでいる

 クラウド上に用意されたプライベートブロックチェーン環境は、APIを使って自由に使用できる。1秒間当たりのスループット上限の制限以外は、2016年に提供開始予定の有料版mijinクラウドチェーンと同等だとしている。

 さくらのクラウドの東京リージョンと石狩リージョンを活用し、地理的に分散した合計4台のmijinノードを提供する。プライベートブロックチェーンを使うと、ポイントサービスや銀行、電子マネーなどの勘定システムに加えて、登記や資産記録などのシステムが、従来よりも低コストで構築可能だとしている。

 無料提供は2016年6月末までで、それ以降も継続利用を希望するユーザーには、同年5月に有料のmijinクラウドチェーンへの移行手順を案内する予定。無料期間中は、商用アプリケーションでも利用できる。

 テックビューロによると、mijinそのものは、ブロックチェーン技術の中でも「パーミッションドブロックチェーン」を構築するプラットフォームで、先述のNEMをベースにしているという。

 今回、さくらインターネットと実施する実証実験(パブリックテスト)を経て、2016年2月よりパートナー企業への実装を開始、2016年春までには、デュアルライセンスのオープンソースソフトウエアとして公開する予定だ。

テックビューロが公開しているブロックチェーンの一般的な分類(出典:テックビューロ)

 なお、テックビューロでは、今回のさくらインターネットとの取り組みに先立つ2015年12月4日、インフォテリアとの事業提携も発表している。インフォテリア「ASTERIA WARP」向けの専用接続アダプターを共同で開発し、2016年1月には実証実験開始、同年4月には発売する予定だという。

ブロックチェーン技術が期待される理由

 ブロックチェーンとは、仮想通貨ビットコインで使われている、分散型で合意形成や取引の監査証跡管理を可能にする技術。

 NRIがリリースとともに解説した資料によると、「“信頼できる第三者”を介在させずに複数のコンピューターが分散型で合意形成し、暗号署名しながらブロック単位で複数のデータを処理する。ゼロダウンタイムと、改ざん不可能なセキュリティを確保できる点が特徴で、全ての取引の監査証跡管理も可能」だという。加えて、「改ざんが非常に困難」であり、「実在証明が可能」で「一意の価値移転が可能」といった特徴を備えているという。

 ブロックチェーン技術は、こうした特性から金融取引だけでなく、IoT(Internet of Things)デバイスなどの情報を安全に通信したり、保全したりする際にも役立つと考えられている。

 なお、Linux Foundationも大手IT企業らと共同でオープンソースの分散台帳フレームワークの開発を発表しており、ブロックチェーン技術の企業への展開を目指している。

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