FinTechの要はAPI公開――公開側、利用側、ソリューション提供側が語る、その実践ノウハウとは特集:FinTech入門(2)(1/2 ページ)

本特集では金融業界がFinTechでビジネスを拡大するために必要な技術要件を浮き彫りにし、一つ一つ解説していく。今回は、「API公開・活用・管理」について、マネーフォワードや住信SBIネット銀行、日本IBMの取り組みなどを紹介。日本におけるAPIビジネス拡大の今後を占う。

» 2016年01月13日 05時00分 公開
[唐沢正和ヒューマン・データ・ラボラトリ]

特集:FinTech入門――2016年以降の金融ビジネスを拡張する技術

「Finance(金融)」と「Technology(技術)」を足した造語である「FinTech」。その旗印の下、IT技術によって金融に関わるさまざまな業務や処理を利便化し、ビジネスの拡大を図る動きが国内金融業界から大きな注目を浴びている。大手銀行からスタートアップまで「FinTech」という言葉を用い、新しいビジネスを展開するニュースが相次いでいる。言葉が氾濫する一方で、必要な技術について理解し、どのように生かすべきか戦略を立てられている企業は、まだ多くないのではないだろうか。本特集では金融業界がFinTechでビジネスを拡大するために必要な技術要件を浮き彫りにし、一つ一つ解説していく。


 今回は、FinTechの技術要素の一つ「API公開・活用・管理」について取り上げる。


 ビッグデータ、モバイル、IoTへの流れが急加速する中、自社のサービスと他社サービスを連携させ、新たなビジネスの創出や顧客接点の拡大に取り組む企業が増えている。このサービス連携実現のために重要となるのがAPI(Application Programming Interface)の公開・活用である。

 @IT主催セミナー「FinTechが導くAPIエコノミーのトレンド 実践企業がノウハウを語る、API活用セミナー」では、金融業界で注目を集める「FinTech」にフォーカスを当て、先進企業の実例を基に、API活用でつかめるビジネスチャンス、そしてAPI公開における課題と解決策を紹介した。

世界的な銀行APIへのニーズの高まりと“インフラ化”の意義

 最初の基調講演には、マネーフォワード 取締役CTOの浅野千尋氏が登壇し、マネーフォワードが創業以来目指してきた「Open Bank API」構想と、その先にある金融エコシステムの世界観について語った。

マネーフォワード 取締役CTO 浅野千尋氏

 マネーフォワードは、複数の金融関連サービスの情報を一元管理可能にするアカウントアグリゲーション技術をベースに、全自動家計簿アプリ「MoneyForward」、企業向けに会計や確定申告、請求書、給与などに関するサービス「MFクラウド」シリーズを展開し、今や国内における代表的なFinTech企業へと成長している。その中で、同社が創業から推進してきたのが「Open Bank API」構想である。

 「『Open Bank API』は、全ての銀行が自行の保有するデータと機能をAPIを通じて提供し、この銀行APIを顧客の同意の下に外部サービスが利用できるようにする仕組み。これによって、決済、入出金、融資判断など銀行業務の派生サービスを提供するプレイヤーは、短期間・低コストにサービスを構築することが可能になる」と、浅野氏は「Open Bank API」構想の概要を説明する。

 現在は、海外を中心に、スクリーンスクレイピングに代わるアカウントアグリゲーションの手段として銀行APIへのニーズが高まっており、すでにクレディ・アグリコル(フランス)、AXA Banque(フランス)、BBVA(スペイン)、キャピタル・ワン(米国)、サバデル銀行(スペイン)、フィドール銀行(ドイツ)、プラデスコ銀行(ブラジル)といった金融機関が実際にAPI公開に取り組んでいるという。

 こうした世界の動きに対して、「日本の金融機関の取り組みは数年遅れている状況だが、今後巻き返せる可能性は大いにある」と浅野氏は指摘。国内における同社の「Open Bank API」活用事例として、住信SBIネット銀行とのAPI接続によるPFMサービスの取り組みを紹介した。

 では、「Open Bank API」が広がることによって、金融業界はどう変わっていくのか。浅野氏は、「銀行がAPIを公開することで、その銀行自身がプラットフォームとなり、APIでつながった外部サービスとの新たなエコシステムを構築できる。将来的には、外部のFinTechサービスが銀行のフロントとなり、銀行自身は“インフラ化”していく可能性もある。また、これに伴い、当社のようなFinTechプレイヤーが生まれる土壌が、金融業界全体に広がっていくことにも期待している」との考えを述べた。

顧客ニーズの予測が求められる時代に企業がAPIを公開する三つの利点

 続いて、二つ目の基調講演では、住信SBIネット銀行 FinTech事業企画部長の吉本憲文氏が、FinTechがもたらす銀行の事業環境変化と、マネーフォワードとの業務提携事例を基にAPI公式接続の意義について紹介した。

住信SBIネット銀行 FinTech事業企画部長 吉本憲文氏

 まず吉本氏は、FinTechが急速に広がってきていることについて、銀行の視点からこう語る。「欧州の状況を見ると、金融サービスのIT化の進展に伴い、銀行の店舗数は年々減少傾向にある。例えばオランダでは、インターネット普及率の高まりに反比例するかのように銀行店舗が減少しており、2000年から2012年までの間に半減している。さらに、スマートフォンやタブレットなどモバイルデバイスの普及により、今後は金融機関へのアクセスもモバイルデバイス主体にシフトしていくことが予測されている」。

 つまり、FinTech企業の台頭によって、銀行は従来型の事業環境から大きな転換期を迎えつつあるというのである。吉本氏は、「旧来の銀行“Bank 1.0”は、業務時間や場所は銀行主導によって決められていた。次のネット時代の銀行“Bank 2.0”になると、顧客の要求に対して銀行がタイムリーにサービスを提供できるようになった。そして、これから迎える“Bank 3.0”の時代では、顧客からの要求がなくても、銀行が顧客のニーズを予測してサービスを提供していくことが求められる。ここでは、銀行がプラットフォームとなり、FinTech企業とのAPI連携が必要不可欠になってくる」との考えを示した。

 “Bank 3.0”に向けて、住信SBIネット銀行では、2015年8月25日にマネーフォワードと業務提携を行い、同行顧客向けに自動家計簿サービス「マネーフォワード for 住信SBIネット銀行」を提供開始。また、中小企業・個人事業主向けクラウドサービス「MFクラウド」を活用した金融サービスの共同検討、および同行が提供する接続APIを用いた公式連携の検討を進めている。

 これらの取り組みの中で、世界的に見ても先進的な取り組みといえるのが、接続APIによる公式連携だ。

 吉本氏は、マネーフォワードとAPI公式接続を行う意義について、「ユーザビリティ向上」「セキュリティ」「性能(サーバ資源保護)」の3点を挙げる。

 「API公式接続によって、マネーフォワードの優れたUI、UXを通じて、顧客がより便利な金融生活を送れるようになる。また、セキュリティの観点では、銀行が管理するID・パスワードを使ってサービスを利用できるとともに、銀行側ではマネーフォワードからのアクセスを特定できるようになる。そして、マネーフォワードのアクセス状況が分かることで、アクセス数が急増した場合にも、分散・遅延などの対応を行い、性能を担保することが可能になる」(吉本氏)

 住信SBIネット銀行では今後、マネーフォワードとのAPI接続を皮切りに、ロボアドバイザーによる資産運用やスマートフォン決済、会計ソフト連携、ディープラーニング、ブロックチェーンなど、FinTech企業との提携領域を拡大して検討していく方針だ。

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