軽量な仮想モバイルパケットコアがIoTを支え、MVNO、そして企業に広がる米Connectem共同創立者に聞く(2/2 ページ)

» 2016年01月22日 05時00分 公開
[三木 泉@IT]
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モバイル通信事業者との、不思議なダンス

 Connectemは、こうして開発したVCMを、IoT向けモバイルパケットコアとして、モバイル通信事業者に売り込んだ。すると、ちょうどNFVについて考え始めていた事業者たちの反応は、予想とは逆に、「これをコンシューマー向けサービスで使えない理由はあるのか」というものだったという。同社は「コンシューマー向けサービスに使えない理由はありません、フル機能を備えています」と答えた。その後は、多数のモバイル通信事業者と、コンシューマー向けサービスのための実証を行うことになった。

Intel DPDKも活用。仮想マシン由来の性能問題をクリア

 これらの実証では、第一に機能要件をクリアできた。第二の問題はパフォーマンスだ。通信事業者からは、仮想マシンによる処理は効率が悪いという不満が出ていた。

 「10Gbpsの入力をしても、1Gbpsの出力しか得られない、と言われた。そこでインテルと密接に協力し、データプレーンをDPDK(インテルが提供する「データプレーン開発キット(Data Plane Development Kit)」)に最適化し、要求されたラインレートを達成した。また、仮想マシンの数を増やすことで、処理量をリニアに増大できるようになった。第三は拡張性。処理の急増に応えるため、自動で適切にリソースを拡張できることを実証できた。第四は可用性だが、全機能コンポーネントの冗長化を実現している」

 こうして、VCMがコンシューマー向けサービスを含む、あらゆる用途に使えることが実証されたという。一方で、NFVについての理解が進んだモバイル通信事業者の多くが、今度は逆に、M2M/IoTでのVCM導入を進めるようになったと、リム氏は話す。

「私設モバイルパケットコア」として企業に導入される可能性

 VCMで現在導入が進んでいる主な用途は、(1)モバイル通信事業者のサービス、(2)MVNO、(3)企業の私設モバイルパケットコアの3つだという。

 モバイル通信事業者では、上記の通りM2M/IoTでの採用を考える傾向が強まっているが、コンシューマー向けサービスを3GからLTEへ移行するため、VCMを検討するケースも見られるという。

 また、VCMはコスト効率の高いモバイルパケットコアであるため、MVNO事業者の関心も高まっているという。「VCMは小さく始め、ビジネスの成長とともに、リソースをきめ細かく拡張していける」(リム氏)。

 さらに興味深いのは、企業における私設モバイルパケットコアだ。リム氏は、アジアの複数のモバイル通信事業者と、これについて話し合っているという。

 これは従来のPBXと同様な考え方だ。モバイル通信事業者は、企業にvEPCの導入を働き掛け、これに基づくサービスを提供できる。すると、事業者は企業との契約に基づき安定的な売り上げを得られる一方、構内の小型基地局とvEPCの活用により、一部のトラフィックを自社の設備からオフロードできる。企業の側も、モバイル通信を使った構内の音声通話やデータ通信について、一般的な料金を支払う必要がなくなり、これを音声、ビデオ、データのあらゆる通信に活用できる可能性が生まれるという。

 「(だが、)例えば従業員1000人程度の規模の企業でも、これまで構内にモバイルパケットコアの設備を導入することが難しかった。VCMなら1〜2台のサーバで安価な導入が可能だ」

5Gに向けた今後と、ブロケードに買収された理由

 リム氏は、「5年前にConnectemが提唱した事実上のNFVを、誰もが考えるようになった。そして、NFVは既に古くなりつつある」と話す。そこで、5Gの世界に向けたリーダーシップを発揮していこうとしているという。

 「5Gでは、全てがサービス化し、『パケット』や『ボックス』について語られることはなくなる。そこではコントロールプレーンとデータプレーンの分離は重要さを増す。また、SDNとNFVを融合していかなければならない。VCMは既に2つのプレーンの分離を実現している。SDNコントローラーをこれらの間に挿入することで、これを5Gに向けたフレームワークとして推進していける」

 「ConnectemはvEPCであり、それ以上ではないため、モバイルネットワーキングにおいてはコアではあっても、エンド・ツー・エンドのストーリーが描けるわけではない。だが、ブロケードはモバイルネットワーキングとソフトウェアの世界を見据えたビジョンを持ち、VyattaやVistapointeを買収し、OpenDaylightコントローラーを提供するなど、必要となる要素をそろえてきている」

 「VCMは、SDNコントローラーとの関係では、ADC(Application Delivery Controller)ソフトウェアなどと同様、アプリケーションの一つとして機能する。ソフトウェアルーターの『Brocade vRouter(Vyatta)』はデータプレーンの経路を制御するアンダーレイとしての役割を果たすこともできる。SDNコントローラーは制御を担い、用途に応じて必要なコンポーネントが、サービスチェイニングでつながっていく」

 これをベースに、有線通信サービス事業者などに対しては、認証、ポリシー制御、ファイアウォールといった機能を提供。モバイル通信事業者に対しては、モビリティ、セッション管理、NATなどを提供する、といった形で、ブロケードの持つ製品を組み合わせ、各ユーザーに個別のソリューションを展開していけるという。

 それにしても、Connectemはなぜ、モバイルの世界では知名度の低いブロケードに買収されることを選んだのか。

 「確かに、ブロケードは正しいビジョンを持ってはいるものの、モバイルの世界では知られていない。だが、それが良かった。他の(モバイルで活発に活動している)企業に買収されていたら、方向性を失ってしまったかもしれない。実際、これまでのところ、私たちは以前と同じ道を追求することができている。モバイル業界の進むべき道を定義する役割を果たせているし、スタートアップ企業という意識で仕事をし続けている」

ブロケードのWebサイトに掲載されている「Brocade Virtual Core for Mobile(VCM)」
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