あまたのサーバエンジニアが頭を抱えた「3年間の革新」の話SDN時代の幕開け(1)(2/2 ページ)

» 2016年02月26日 05時00分 公開
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SDN(Software Defined Networking)の興り

 先に述べた通り、ハイパースケール環境特有の課題に直面したグーグルやフェイスブック、アマゾンは、スイッチにおけるハードウェアとソフトウェア(OS)の分離に加え、ネットワークを従来よりも効率よく稼働させるための独自の「コントローラーソフトウェア」の開発にも成功した。これにより、ネットワークの運用管理やトラブルシューティングのソフトウェア化、自動化が進行し、ネットワーク運用の効率やアジリティ(変化に対する即応性、俊敏性)は、エンタープライズにおける従来型のネットワーキングとは比較にならない水準に達した。例えば、一般的なエンタープライズでは1人のネットワーク管理者が管理できるスイッチの数はせいぜい数十台程度だが、フェイスブックのネットワーク管理者は、1人当たり平均1000台のスイッチを管理しているといわれる。「SDN(Software Defined Networking)」の鮮烈なデビューというわけだ。

 この飛躍的な進歩は、サーバ仮想化が世界中の企業に衝撃をもたらしたように、他の組織からも大いに注目を集めた。「SDNを取り入れれば、自社でもフェイスブックやグーグルと同じ効率でネットワークを運用できるのではないか?」。こうして巻き起こることになったSDNトレンドを進取して、シスコシステムズやヴイエムウェアなどの大手ITベンダー、そして(われわれを含む)いくつかのスタートアップ企業が、ネットワークのプログラマビリティ向上、自動化の推進を実現するためのSDN製品を提供し始めている。ガートナーによれば、5%未満という現状に対し、2018年までにエンタープライズの25%が、ハードウェアとソフトウェアが分離された“新たな”データセンターネットワークソリューションを導入すると見られている。

ネットワーク自動化で、ビジネスに“追い付く”

 こうしたネットワークに対する各社の新しいアプローチには、ある共通のゴールがある。それは、ネットワークのプログラマビリティを高め、自動化を進めることで、アジリティを向上させる、つまりビジネスの変化にネットワークが付いていけるようにすることだ。一般に、大規模なエンタープライズの本番ネットワークに変更を加えたり、アプリケーションを展開したりするには数カ月はかかる。仮にある銀行がATMネットワークを介してサービスの売り上げを向上させるようなアプリケーションを開発したとして、それをネットワーク上に展開するのにかかる期間が、アプリケーションの開発期間を上回るということさえ珍しくない。

 こうした課題に対処し、データセンター内のネットワーク運用を自動化しようとする新たなソリューションこそが、SDNというわけだ。本連載では「VMware」や「OpenStack」で構築された仮想化環境を想定し、SDNについて解説していく。まずは、それぞれの環境におけるネットワーク仮想化・自動化の状況をここで紹介しておこう。

VMware環境のネットワークにおけるプログラマビリティと自動化

 多くの企業が、サーバ仮想化市場のリーダーであるヴイエムウェアの製品を使用して仮想化に踏み出した。そして、その後リリースされたネットワーク仮想化製品である「VMware NSX」も、既に1000を超える大規模組織に採用され、ネットワーク仮想化の流れを促進している。

 VMware NSXは、「オーバーレイ」と呼ばれるSDNのアプローチをとっている。物理ネットワークの上にそれを抽象化するソフトウェアレイヤーを“覆いかぶせる”ことにより、ネットワーク管理の一元化・シンプル化を実現しようとするものだ。このアプローチでは、「VMware vCenter Server」や「VMware vRealize Operations」といった仮想サーバ環境の管理ツールとVMware NSXを連携させることで、ポリシーに基づいたネットワークのプロビジョニング、運用自動化を可能にする。

 VMware NSXは基礎となる物理ネットワークの上で動作するため、シスコシステムズやアリスタネットワークスなどのスイッチメーカー、キュムラスネットワークスなどのホワイトボックススイッチ向けネットワークOSのスタートアップ、そしてわれわれビッグスイッチネットワークスのようなSDN領域の企業が、ヴイエムウェアと連携することで、ネットワーク仮想化の展開を行っている。

OpenStackにおけるネットワーク自動化

 多くの組織はヴイエムウェア製品を使用して仮想化の取り組みを開始したが、「KVM」や「XenServer」「Microsoft Hyper-V」など他の選択肢によるサーバ仮想化も同時に進んだ。プライベートクラウドを構築するに当たり、VMware以外の選択肢を探す企業は、オープンなクラウドOSである「OpenStack」によるサーバ/ストレージ/ネットワークの仮想化を開始した。

 OpenStack Foundationはデータセンターの主要な技術領域ごとにプロジェクトを運営し、毎年2回リリースを行っている。ネットワークに関するプロジェクトは「Neutron」と呼ばれ、プラグインを用いてSDNソリューションと連携することが可能だ。これにより、OpenStack環境のネットワーキングを自動化することができる。つまり、集中管理型のコントローラーから、ポリシーに基づくネットワークプロビジョニングを実現できるようになる。この、プラグインを用いるアプローチは、Neutronの安定性を確保し、選択したOpenStackのディストリビューションに関わらずスケーラビリティを向上させることができるという利点がある。

 以上、本稿では、サーバ仮想化技術の誕生からSDN、ネットワークの自動化の登場に至るまでの経緯を振り返った。サーバ仮想化がデータセンターに変革をもたらしてから15年。ネットワークの世界もいよいよ、仮想化・自動化といったイノベーションの時代に突入しているのである。次回以降は、実際の導入事例なども紹介しながら、この“SDN時代”ともいえる状況が今後どのように展開していくのかを解説していこう。

著者プロフィール

グレッグ・ホルツリヒター(Gregg Holzrichter)

Big Switch Networks マーケティング担当ヴァイスプレジデント兼CMO。

Big Switch Networks入社以前は、Siebel Systems、PeopleSoft、VMwareに在籍し、

CRM、ERP、サーバ仮想化、SaaS、SDS(Software-Defined Storage)をはじめとする

数々のBtoB分野において、20年以上にわたりマーケティングを担当。

豊富なマーケティング経験を武器に、業界をリードしてきた。


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