慶応義塾大学と日立、サイバーセキュリティに関する共同研究を開始技術だけにとどまらず、学際的な研究を通じて政策・社会へのフィードバックを

慶応義塾大学と日立製作所は2016年2月29日、「先導研究センター」内に「サイバーセキュリティ研究センター」を設置し、サイバーセキュリティ分野に関して共同研究を開始すると発表した。

» 2016年03月01日 23時30分 公開
[高橋睦美@IT]

 慶応義塾大学と日立製作所は2016年2月29日、サイバーセキュリティ分野に関して共同研究を開始すると発表した。

 慶応義塾大学がさまざまな領域にまたがる研究拠点として設立した「先導研究センター」内に「サイバーセキュリティ研究センター」を設置し、技術だけでなく社会政策や法制度といった領域も含めた共同研究を進める。慶応義塾大学と日立製作所からそれぞれ10名前後の専任研究員を出し、IoT(Internet of Things)時代に求められる安心、安全な基盤の実現を後押ししていくという。

 サイバー攻撃の高度化、大規模化を背景に、セキュリティ研究や人材育成を目的とした取り組みは他にも打ち出され始めている。これに対する慶応義塾大学の強みは、「WIDEプロジェクト」時代から日本のインターネット技術をけん引してきたことに加え、「技術だけでなく、法制度や社会制度、政策など、ダイバーシティーに富んだ研究分野に取り組んでおり、分野横断的な枠組みを持っていること」だと、日立製作所 執行役常務 CTO兼研究開発グループ長 小島啓二氏は述べた。

 サイバーセキュリティ研究センター長に就任した慶応義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 砂原秀樹教授は、「サイバーセキュリティというと技術の話になりがちだ。だが、技術と共に、継続的、持続的に運用し続けていくことと、それを社会に染み込ませていくことも大事。このセンターではその3つを同時にやっていく」と述べた。

 具体的な研究分野として、まず、「Security Operation Center(SOC)」間の連携技術に取り組む予定だ。慶応義塾大学の複数のキャンパスにSOCを設置し、学内で運用されているIoT機器からの情報も含めて運用する他、日立製作所のインシデントレスポンスチーム「Hitachi Incident Response Team(HIRT)」の現実のオペレーションから収集された知見も活用し、分散した複数のSOCがどうすれば協調運用できるか、さらにはSDN(Software-Defined Network)といった技術を使ってIT基盤とどう連携できるかを検討していく。

 「大学のネットワークには、わがままな教授や自由な学生などさまざまなユーザーがいる。その中で複数のSOCを運用しながら、社会の要請を抽出し、知識の体系化を図りたい」(砂原氏)

 セキュリティの世界では度々「情報共有」の重要性が指摘されてきたが、脅威の特徴情報の共有はようやく緒に就いたばかり、といった状況だ。この研究を通じて、企業・組織ごとの機微な情報やプライバシーを保ちながら、マルウェアなど脅威に関する情報を共有し、かつ各組織の運用に合わせたカスタマイズを実現するすべを探るという。

 サイバーセキュリティ研究センターではSOCの連携技術を皮切りに、IoTで使われる機器の管理やアイデンティティー管理、この先のさらなる個人情報保護法改正を視野に入れたプライバシー上の検討なども進めていくという。

 説明会の席で砂原氏は「メディアではよく『セキュリティ人材不足』が騒がれるが、だからといってセキュリティ専門家だけを育成すればいいというものではない。本当に足りないのは『セキュリティについて理解している普通の人』。いろいろな人にセキュリティについて理解してもらい、ロボットやプラントなど、今それぞれが取り組んでいる活動の中にセキュリティを付け加えていくことが重要だ」と述べた。

 慶応義塾大学 環境情報学部長の村井純氏は、共同研究によって体系化した知見を、政府のセキュリティに関するポリシーや政策に提言していくことも、今回の産学連携の重要な役割だとした。おのおのが持つチャネルを通して「ポリシーを推進する人々に、テクノロジーやサイバーセキュリティが、今どういう状態にあるかを正しく理解してもらうという形でも貢献していきたい」(村井氏)

 まず、5〜6年間のスパンで共同研究を進め、成果は論文やレポート、政策・制度提言など、多様な形でフィードバックしていく予定だ。同時に、社会人向けの教育も視野に入れているという。砂原氏は「たとえどれだけ安全な鍵を作っても、それをきちんと付けてくれる人を育てなくてはいけない。どれだけ社会に(セキュリティを)染みこませることができるか、社会に適用できるかも見ていただきたい」と述べている。

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