エンジニアはクリエーター。大切なのは「人数」ではなく「能力」――ソニックガーデン特集:アジャイル時代のSIビジネス(4)(1/3 ページ)

クラウドの浸透などを背景に、「SIビジネスが崩壊する」と言われて久しい。本特集では、今起きている“SIビジネスの地殻変動”を直視し、有効なアクションに変えたSIerにインタビュー。SI本来の在り方と行く末を占う。

» 2016年03月23日 05時00分 公開
[斎藤公二/構成:編集部/@IT]

 IoT、FinTechトレンドに象徴されるように、近年は「効率化」や「コスト削減」を主目的とした従来型のIT活用とともに、収益・ブランドを向上させる「攻めのIT活用」が求められている。「ITのパフォーマンスはビジネスのパフォーマンス」といった認識も広がり、「ビジネスアイデアを基にスピーディにITサービスを開発・リリースし、ニーズの変化があれば迅速に改善できる」ことが差別化の一大要件となっている。

 だが、欧米のように内製化している例が少ない日本企業の場合、単独でこの要件を満たすのは難しい場合が多い。ではエンジニアを雇用しているWebサービス系ではない一般的な企業の場合、どうすれば差別化の要件を実現できるのか?――そんな課題に応えるのも、“今求められているSIerの役割”の1つと言えるだろう。

 今回は「納品のない受託開発」で知られるソニックガーデンにインタビュー。今、SIerとエンジニアに何が求められ、今後どうあるべきなのか、代表取締役社長 CEOを務める倉貫義人氏に話を聞いた。

「納品のない受託開発」を実践

 「納品のない受託開発」という新しいSIの在り方を実践して注目を集めているソニックガーデン。納品のない受託開発では、一括請負で「成果物を納品して終わり」ではなく、「“顧客のビジネスパートナーとして” 顧問契約を結び、ビジネス立ち上げに必要なソフトウェアの企画・開発から運用までの一切を請け負うことで、毎月決まった報酬を得る」というスタイルのビジネスモデルだ。最初に要件定義を完了させることもなければ人月見積もりもない。創業者で代表取締役社長 CEOを務める倉貫義人氏は、従来型SIとの違いについて、こう説明する。

 「従来のSIは、決まったモノを作って納めるという製造業的な発想のビジネスです。それに対して、僕らは顧客に対して『満足』をサービスとして提供し、毎月決まった報酬をいただくストック型ビジネスです」

ALT ソニックガーデン 代表取締役社長 CEO 倉貫義人氏

 倉貫氏は従来型SIと同社の違いを「青果店とレストラン」に例える。青果店は「食事の材料」を売る小売り業であり、レストランは「食事というサービス」を売る外食業だ。「同じ受託開発と言っても業界が違う気がしています。もしかしたらSIですらないかもしれません」と倉貫氏は話す。

 ソニックガーデンの顧客は、従来型SIerの顧客層と大きくは変わらない。メーカー、流通、金融、医療、通信といった幅広い業種、幅広い規模の企業と契約を結ぶ。大きく異なるのは、ソニックガーデンが手掛ける案件のほぼ全てが“新規事業”であることだ。

 「新しいビジネスを立ち上げたいというニーズは、どの業界、どの会社にもあります。しかし新規事業を立ち上げようとすると、既存のリソースだけではITの部分が弱くなりがちです。多くの会社では、社内にITエンジニアがいないため、自社で対応することが難しい。エンジニアを新たに採用しようにも採用のノウハウがない。一方、既存のSIerを活用しようとしても、新規事業なのでそもそも要件定義ができず、発注すらできない。社内もだめ、社外もだめ、ではどうするか、という形で弊社がご相談を受けるわけです」

ALT 「納品のない受託開発」のコンセプト

 Webやモバイルが社会一般に深く浸透し、およそ全てのビジネスをITが支えている今、新規事業でインターネットやITを使わないケースはほぼないと言っていい。ソニックガーデンは、顧客が考えたビジネスの種が、ITを使うことでどう育っていくかを考え、それを支えるITの仕組みを提供する。顧客の相談に乗りながら、顧客が必要としているものを“作り続け”、パートナーとして一緒にビジネスを育てていく

 「やりたいことがあるけれど、ITでどう実現すればよいのか分からないというニーズをITの専門家として支援します。出来上がるものが最初から分かるわけではありません。ユーザーが使い始めてからも反応を見て変えていく必要があります。システム上の明確なゴールがあって『いつまでに何を作る』といった世界ではなく、サービスが続く限り、システムを改善し続けます。新規事業の立ち上げ、継続的な成長というニーズにフィットさせたスタイルが、納品のない受託開発なのです」

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