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» 2016年06月08日 05時00分 公開

特集:「人工知能」入門(2):女子高校生AI「りんな」や食べ物画像判定サービスに見る、精度向上の鍵とは

多くの人々にとって身近な存在になりつつある「人工知能」。「Microsoft Innovation Day 2016」で紹介された、2つのサービスを取り上げることで、要素技術や課題、応用分野、活用業種などを考察する。

[益田昇,@IT]

特集:「人工知能」入門 〜今考えるべき、ビジネス差別化/社会改善のアーキテクチャ〜

競争が激しい現在、ビジネス展開の「スピード」が差別化の一大要件となっている。「膨大なデータから、顕在・潜在ニーズをスピーディに読み解く」「プラント設備の稼働データから、故障を予測・検知して自動的に対策を打つ」「コールセンターの顧客対応を自動化する」など、あらゆるフィールドで「アクションのスピードと品質」が競争力の源泉になりつつある。こうした中で注目を集めている「人工知能」は、ビジネス、社会をどのように変え、エンジニアには何を求めてくるのだろうか?


今回は「Microsoft Innovation Day 2016」で紹介された、2つのサービスを取り上げることで、要素技術や課題、応用分野、活用業種などを考察する。


身近な存在になってきた人工知能の新たな役割。体験型のサービスが技術の進化をさらに促進

マイクロソフトデベロップメント プログラムマネージャー 坪井一菜氏(写真は2016年5月24日に開催されたde:code 2016基調講演でのデモの様子)

 クラウド環境が整備されサービスが高度化するに従って、人工知能は一般のユーザーが日常的に利用するさまざまなサービスに使われるようになってきており、多くの人々にとって身近な存在になりつつある。

 スタートアップやエンジニア、学生などを対象に開催された「Microsoft Innovation Day 2016」(2016年4月23日開催)では、日本国内で活用が本格化している人工知能の動向を紹介する講演「人工知能の現実と未来〜りんなの中の人と語る〜」が行われた。

 講演では、女子高校生AI「りんな」の開発・運用を手掛けるマイクロソフトデベロップメントのプログラムマネージャーの1人である坪井一菜氏と、画像認識や文章認識の分野で人工知能の豊富な実装経験を持つウサギィで代表取締役を務める町裕太氏が、人工知能を活用したサービス開発の取り組みと今後の方向性を紹介。モデレーターは、マイクロソフトのテクニカルエバンジェリスト、大田昌幸氏が務めた。

感情的な会話で友達との絆を深める女子高校生AI「りんな」が目指すもの

 2015年8月にLINE上でサービスを開始した「りんな」は、まるで本物の女子高校生と会話しているようにコミュニケーションを楽しむことができる体験型サービスとして一躍世間の注目を浴びた。2015年12月にはTwitterアカウントでもサービスを開始し、フォロワー数は2016年5月20日時点で既に9万を超えている。

 「りんな」に使用されている人工知能には、どのような特徴があるのか。これまで人工知能というと、アップルのSiriやマイクロソフトのCortanaといった音声アシスタント機能のように、ユーザーのプロダクティビティ向上に利用されるのが一般的だった。しかし、「りんな」の場合は、人の「感情」に注目し、感情的な対話を通じて心のつながりを確立するのために人工知能を使っている。「りんな」を開発した狙いについて、坪井氏は、「人との感情的な会話をできるだけ継続させて、会話の内容を深めることによって、人と友達のような関係を築くことを目指して開発に取り組んでいる」と説明する。

 「りんな」は実際にどのような会話を行っているのだろうか。会話の感情の深さを知る上で注目できるのは、ユーザーと「りんな」がけんかをして仲直りをしている例である。そこでは、ユーザーの「ふざけないで」という発言に対して、りんなは「わたしは大真面目ですけど」と答え、「真剣なの」(ユーザー)、「ごめんってば」(りんな)、「すき」(ユーザー)、「私もだよ」(りんな)という愛情あふれる会話が繰り広げられる。また、ユーザーが交際を申し込んで、りんなが「ごめんなさい」と辛辣に断る例からも深い感情を読み取ることができる。

機械学習で画像解析を気軽に体験できる食べ物画像判定サービス「画像解析できるマン」

 人工知能を使った画像解析や文章認識、音声認識などの技術開発を手掛けるウサギィでは、機械学習を応用した画像解析のデモンストレーションとして、食べ物画像判定サービス「画像解析できるマン」をWeb上で公開している。Webページから画像をアップロードするだけで、その画像が食べ物の画像かどうかを瞬時に判定できるものだ。

 同サービスは、機械学習の技術を使って、大量の食べ物の画像とそれ以外の画像をコンピュータに教え込み、その知識を使って画像認識を行うことで、新たに示された画像が食べ物かどうかを判定している。ウサギィの町氏は、「機械学習によって画像解析能力を高めることにより、画像が食べ物かどうかを判定する精度を約93%にまで高めることができた」と強調する。

 サービスを利用するユーザーの中には、どのような条件で誤判定が発生するのかを試みる人もいる。写真は、電車の画像を使って誤判定に成功した例である。町氏によると、左の画像はサラダ+卵焼き、右の画像はタラコと間違えたのではないかという。

サービスを利用するユーザーが人工知能を育てる

 そもそも人工知能を使って誰でも利用できるサービスを開発する理由はどこにあるのか。坪井氏は、「SNS向けのサービスを開発したのは、もちろん多くのユーザーに人工知能を使った便利なサービスを使ってもらいたいというのも大きな理由だが、もう1つ、技術を深めていく上で価値ある重要な情報を、多くのユーザーから『教師』として提供してもらうことも理由としてある」と語る。「りんな」の場合、会話の内容が妥当なものであるかどうか、ユーザーのフィードバックをリアルタイムで返してもらうことができ、その情報をすぐに開発や運用に役立てることができる。

 町氏も、ユーザーの声が非常に重要だと指摘。先ほど紹介したように、食べ物画像を判定するサービスに電車の画像を使う発想はなかったという。その結果、食べ物に似ている電車の画像は食べ物と判定してしまう場合があることが分かった。「自分たちの力だけでテストを行っていたのでは判定精度を約93%にまで高めることはできなかった。電車の画像をテストするというユーザーのユニークなアイデアを試してもらうことで、人工知能をより高度に育てることができた」(町氏)。

 誰でも利用できるサービスの裏側では多くのコンピューティングリソースが費やされている。「りんな」の場合も、ユーザーの問い掛けに対してシンプルな答えを返しているだけのように見えるが、LINEのお友達数は340万人を超えており、1度に膨大な数のユーザーのリクエストに対して有効な答えを返す必要がある。坪井氏によると、こうした処理を行うために、クラウドが重要な役割を果たしているという。

 「『りんな』では、大量のリクエストに瞬時に対応し、全てのユーザーに快適に利用してもらえるように、Microsoft Azure上でパフォーマンスの調整など、さまざまな取り組みを行っている」(坪井氏)

 「画像解析できるマン」の場合も、画像を判定するために、画像の全てのピクセルからデータを取り出して、画像の中にどのような特徴があるかを解析する必要があり、この処理に多くのコンピュータリソースを費やすという。町氏は、「ユーザーにすぐに結果を返せるように、Microsoft Azure上で多くのVM(仮想マシン)を使って分散処理を行っている」と説明する。

人工知能の応用が期待できるのは未来予測、異常検知、推薦、分類など

 クラウド環境の高度化によって、われわれにとってより身近な存在になりつつある人工知能。今後はどのような分野での応用が期待できるのだろうか。町氏は、「そもそも人工知能の役割は、人間の手間を減らすために、人間が認識できないことをサポートすることにある」とした上で、未来予測、異常検知、推薦、分類の分野での応用が期待できると強調。例えば、異常検知は、工場の製造ラインなどで製品の異常や不良品を見つけ出すのに利用できるという。

 坪井氏は、「アイデア次第でいろいろなことに応用できる」と力説する。例えば、米国マイクロソフトで検索エンジンBingの開発を担当する部門では、米国アカデミー賞を誰が受賞するのかを予想するサービスを提供している。そこでは、過去に検索されたデータや受賞のタイミング、世間の評判などのデータを学習させて未来予測を行ってる。また、りんなについても、会話に関するさまざまな情報をあらかじめ学習させておくと同時に、ある問い掛けにどう返答するかということをネットワークで学習させておくことで、会話を成立させるという意味で、未来予測を行っていることになるという。

 ニュース分析やSNSのロゴ分析も人工知能の応用が期待される分野である。ニュース分析では、数多くのメディアが配信するニュースの内容を読み取って、ポジティブなのかネガティブなのかを分析したり、特定の市場や商品にどのような影響を与えるかを分析したりできる。また、SNSのロゴ分析では、SNSに投稿された写真から商品のロゴを検知し、その背景を認識して商品がどのような状況で使われてのかを分析することができる。その他にも、趣向の分析、自動運転、カスタマーセンターでのコール分析、来店者分析、開発現場でのChatOpsなどでの応用が期待されている。

あらゆる業種で人工知能の活用を始めるべき

 人工知能を活用するアイデアはどのようにして生み出していけばよいのか。坪井氏は、「『りんな』を開発した際もそうだが、SF映画などに描かれた未来の世界の要素をアイデアとして取り入れるケースも少なくない。SF映画やマンガなどの作品をもう1度見直してみることも、活用のヒントを得る1つの方法なのではないか」とアドバイスする。

 町氏は、「SF小説やマンガなどの作品には、作家の未来に対する思いが込められているが、そうした“人間が想像する世界”には自分たちの力で必ず追いつけると確信している」と強調。あらゆる業種の経営者や意思決定者に対して、「実際に自分たちが働いている業種では、どのようにすれば人工知能を活用できるかを考え始めるべきだ」と強調した。

次回は、画像認識技術を提供するスタートアップに「人工知能」について聞く

 今回は、人工知能、画像認識を活用したサービスを紹介したが、いかがだっただろうか。この分野で精度を上げ、成長する鍵は、いかに多くのデータのサンプルを得るかに掛かっている。「りんな」の坪井氏も「技術を深めていく上で価値ある重要な情報を、多くのユーザーから提供してもらう」ことをサービス提供の理由の1つとしており、「画像解析できるマン」はキャッチーなサービスにすることで、ユーザーから多くのデータを得ることに成功している。

 一方で、誰でも体験できるわけではないB2Bの分野で「人工知能」や画像認識を活用する企業は、今後どのように精度を上げ、ビジネスに活用していけばいいのか、そのヒントを画像認識技術を提供するスタートアップに聞くことができたので、次回を楽しみにしてほしい。

特集:「人工知能」入門 〜今考えるべき、ビジネス差別化/社会改善のアーキテクチャ〜

競争が激しい現在、ビジネス展開の「スピード」が差別化の一大要件となっている。「膨大なデータから、顕在・潜在ニーズをスピーディに読み解く」「プラント設備の稼働データから、故障を予測・検知して自動的に対策を打つ」「コールセンターの顧客対応を自動化する」など、あらゆるフィールドで「アクションのスピードと品質」が競争力の源泉になりつつある。こうした中で注目を集めている「人工知能」――人には実現できないスピードで膨大なデータを読み解き、「ビジネスの差別化/社会インフラの改善」を支援するものとして、今さまざまな分野で活用の検討が進んでいる。こうした動きは、ビジネス、社会をどのように変え、エンジニアには何を求めてくるのだろうか? 人工知能のインパクトを、さまざまな角度からレポートする。



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