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» 2016年08月26日 05時00分 UPDATE

松岡功の「ITニュースの真相、キーワードの裏側」:シスコが提唱する「フォグコンピューティング」は普及するか (1/2)

米シスコシステムズがIoT(Internet of Things)を実現する仕組みとして「フォグコンピューティング」を提唱している。世界の有力ベンダーが名を連ねた普及促進団体も結成され、本格的な活動が始まった。果たして、思惑通りに普及するか。

[松岡功,@IT]

この連載は……

 近年、さまざまな技術トレンドが注目され、ニュースとして盛んに取り上げられています。それらは社会、企業に対してどのようなインパクトを及ぼすのでしょう。ベンダーを中心としたプレーヤーたちは何を狙いとしているのでしょう。

 それらのニュースから一歩踏み込んで、キーワードの“真相”と“裏側”を聞き出す本連載。今回は「シスコが提唱するフォグコンピューティングとIoT」を取り上げます。


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IoTに向けた“データ処理のパラダイムシフト”

photo シスコシステムズ執行役員CTO兼イノベーションセンター担当の濱田義之氏

 「フォグコンピューティングは、IoT(Internet of Things)を実現する上で必要不可欠なコンピューティングアーキテクチャだと、私たちは考えている。普及するかしないか、もしくは普及させたいというより、このアーキテクチャを使わなければ、IoTの普及そのものに支障を来すといった強い使命感を持って取り組んでいる」

 表題の疑問にこう答えてくれたのは、シスコシステムズ 執行役員 最高技術責任者(CTO)兼イノベーションセンター担当の濱田義之氏である。今回は、米シスコシステムズが提唱している「フォグコンピューティング」に焦点を当て、IoTにおけるコンピューティングアーキテクチャのスタンダードを目指す同社の取り組みを探ってみたい。取材には濱田氏とともに、シスコシステムズ イノベーションセンター東京 シニアマネージャーの今井俊宏氏にも応じてもらった。

 今回、筆者が本コラムでフォグコンピューティングを取り上げたいと思ったのは、米シスコシステムズや米インテル、米マイクロソフト、英ARMなどがフォグコンピューティングの普及促進団体として2015年11月に米国で設立した「OpenFog Consortium」の首脳陣が2016年6月に来日し、同団体の活動内容や日本での普及に向けた取り組みについて、日本で初めて記者会見を開いたのがきっかけだ。

 フォグコンピューティングについては、日本法人であるシスコシステムズも折りに触れて国内で説明してきたが、普及活動の中心となる同団体が会見を開いたことで、いよいよスタンダードを目指して本格的に動き出したという印象を受けた。同団体の活動については後述するとして、まずはフォグコンピューティングとは何かを説明しておこう。

 フォグコンピューティングとは、IoTを構成するクラウドとデバイスの間にあるネットワーク機器に「クラウド機能を拡張」し、サーバやストレージ、ネットワークなどのリソースやサービスを分散。データが生成される場所の近くでリアルタイムかつセキュアに処理を行うことで、さまざまなデバイスから生じるデータを活用してエンドユーザーに多くの価値を提供する仕組みのことをいう(図1参照)。

フォグコンピューティングの概念図 図1 フォグコンピューティングの概念図(出典:シスコシステムズの提供資料)

 すなわち、データとその処理をクラウドに集約するのではなく、データが生成される場所に近い部分にアプリケーションを配置することで、より多くのデータを活用し、価値を引き出すことを目的としている。これはまさしくIoTに向けた“データ処理のパラダイムシフト”といえる(図2参照)。

データ処理のパラダイムシフト 図2 データ処理のパラダイムシフト(出典:シスコシステムズの提供資料)

集中と分散の合わせ技が求められるIoTのコンピューティング

 濱田氏によると、米シスコシステムズがフォグコンピューティングを発案したのは2010年。翌2011年にホワイトペーパーを作成して提唱した。「フォグ(霧)」と名付けたのは、クラウド(雲)よりネットワークのエッジ側にある、デバイスに近いところに位置するからだ。クラウドとデバイスの間にフォグのレイヤーを設けてフォグで必要な処理を行い、さらにフォグとクラウドが“連携”することによって処理の効率化を実現できるという意図が込められている。

photo シスコシステムズ イノベーションセンター東京 シニアマネージャーの今井俊宏氏

 ちなみに今井氏の話では、フォグコンピューティングの名付け親は、このアーキテクチャ構想に携わっていた同社のエンジニアの夫人だとか。構想の大枠を聞いた夫人が、「それってクラウドとつながっているフォグみたい」とつぶやいた一言がきっかけになったという。今後、フォグコンピューティングがスタンダードになった際には、貴重なエピソードになりそうな話である。

 一方、このクラウドとフォグをめぐる話には、今後のコンピューティングのありようにおける本質的なポイントがある。それは、これまでのITとこれからのIoTにおけるコンピューティングの在り方を示すものでもある。この点について、濱田氏が次のような見解を語ってくれた。

 「これまでのITにおけるコンピューティングは、集中と分散を繰り返してきた歴史がある。そして現在今、その波はクラウドの出現で集中に向かっている。しかし、これからのIoT時代は、クラウドによる集中だけではデータ処理が追いつかないのは明らかだ。2020年に500億デバイスがつながるといわれるIoT時代に対応するためには、クラウドとシームレスに連携した分散の仕組みが不可欠になる。集中と分散の“合わせ技”によるコンピューティングアーキテクチャをどう描いていくか。フォグコンピューティングの発想の原点はそこにある」

 集中と分散を繰り返してきたITと、集中と分散の合わせ技が求められるIoT。今まさにコンピューティングの在り方が転換期を迎えている中で、米シスコシステムズはフォグコンピューティングを世に問うたわけである。

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