米デル、EMCの買収完了であらためて考える、新会社の存在価値とは結局クラウド戦略はどうなった?

デルによるEMCの買収が2016年9月7日(米国時間)に完了し、売上740億ドルのIT企業グループが誕生した。新組織は、デル テクノロジーズの傘下にDell Inc.が誕生し、デルとEMCの法人ビジネスは統合されてその事業部門になる。新生デル テクノロジーズの存在価値はどこにあるか。幹部の発言から追った。

» 2016年09月09日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

 デルによるEMCの買収が2016年9月7日(米国時間)に完了し、売上740億ドルのIT企業グループが誕生した。本社は新体制に移行したが、日本などグローバルの支社レベルでの統合は、2017年2月になる。それまでは現状のままの運用となる。

 本社の新組織は、Michael Dell(マイケル・デル)氏1人が所属する持ち株会社デル テクノロジーズの傘下に、「Dell Inc.」という企業が作られ、その事業部門として「Client Solutions Group」「Infrastructure Solutions Group」「Global Services」が発足することになる。Client Solutions GroupはDellブランドで、これまでの米デルのクライアントソリューション、つまりPC、タブレット、周辺機器などを扱う。一方Infrastructure Solutions GroupはDell EMCブランドで、これまでの米EMCのエンタープライズITビジネスに、米デルの法人向け製品・サービスビジネスを追加した事業を展開する。

 Dell Inc.とは別に、上場企業あるいは他の資本の入った企業が、それぞれデル テクノロジーズの下に直接入り、それぞれ独立性を保った企業として運営されていく。

 デルが2016年4月に、株式の20%を市場に放出する形で上場したSecureWorksについては変更がなく、ヴイエムウェアについては、EMCが保有していた株式の一部を、業績連動株としてデル テクノロジーズ(正確にはその親会社であるDenali Holdingの子会社)が新たに発行。Pivotalについても株式のEMC持ち分がデル テクノロジーズに移行する。Virtustream、RSAも独立性を保った運営がなされるが、この2つはInfrastructure Solutions Groupに所属する。VCEは、Dell EMCのコンバージドインフラ部門として吸収される。VirtustreamとvCloud Airの統合は予定されていないという。

Dell EMCは法人ビジネスのブランドとして使われることになる

 デル テクノロジーズとその傘下の企業は何を目指すのか。Dell氏は「顧客のデジタルトランスフォーメーションを支援できる新しい種類の総合ITインフラベンダー」だと表現する。

 Dell氏はカンファレンスコールで、ITインフラからアプリケーション開発・運用に至るまで、企業における「守りのIT」と「攻めのIT」、あるいはモード1とモード2の活動を支える製品を網羅していると話している。守りのITについては効率を積極的に改善する製品を提供し、一方で攻めのITに関してはPivotalのアプリケーション開発・運用支援製品に至るまで、幅広い選択肢を提供していると話した。同社グループの製品が、調査会社ガートナーによる「マジッククアドラント」の20の分野においてリーダーに分類されるなど、各分野で最強の製品を取り揃える企業になったと強調した。

 一方で、Dell氏はEMCを上場廃止にしてデルに統合したことの重要性を主張する。「企業が規模を拡大しながらも機敏さを増すことのできる方法は何かと考えてきたが、唯一の方法は、『企業としてのリポーティングサイクルを変えること』だという結論に至った。そこでデルを非公開企業にした」。今回、EMCを上場廃止にして統合した目的もここにあるとする。他の総合ITベンダーとの違いについても、「顧客の声に耳を傾け、これに応えることができる」ことを挙げる。

結局クラウド戦略は分かりにくいままなのか

 だが、デル テクノロジーズの顧客である企業のIT部門がパブリッククラウドへの移行を進めるに従い、同社は存在価値を失っていくのではないか。そう考える人は多いはずだ。

 筆者は以前、「Dell EMCはどこへ行くのか、今後の企業文化、製品戦略、クラウド戦略を探る」という記事で、クラウド戦略が分かりにくいと書いた。EMCとヴイエムウェアにわたり、複数のクラウドサービスが展開されており(一時VirtustreamとvCloud Airを統合する試みがあったものの決裂している)、さらにパートナーが展開するサービスもあって、顧客にどれを使わせたいのかが明確でないと考えられたからだ。

 今回のカンファレンスコールでも、Infrastructure Solutions Groupのプレジデントを務めるDavid Goulden(デイヴィッド・グールデン)氏は、クラウド戦略に関する質問に答え、まずは自社のクラウドサービスではなく、クラウドサービス事業者に対する製品供給ビジネスを説明した。

 Goulden氏は、サービスプロバイダに対するクラウドITインフラストラクチャ製品の売上で、デルとEMCはナンバーワンを獲得していると主張する。また、ヴイエムウェアはvCloud Air Networkパートナーに対し、VMware vSphereなどのソフトウェアを供給し、これをビジネスにしていると話した。

 Goulden氏はその後で、さまざまなレベル、角度でのハイブリッドクラウド関連製品およびサービスを提供していると説明する。

 だが、多くの人が聞きたいのは、企業ITの将来がパブリッククラウドにあるとするなら、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud Platform(GCP)などに対抗する必要があるのではないかという点だろう。

 この疑問に対する回答ははっきりしている。AWS、Azure、GCPなどの「クラウドらしいクラウド」に対抗する気はないということだ。

 ではどうするのか。シンプルな答えを求める人にとっては、依然としてデル テクノロジーズのクラウド戦略が分かりやすいとはいえない。

「現実のIT部門のニーズに応える」とはどういうことか

 「クラウド戦略」という切り口での説明がシンプルとはいかないものの、2016年8月末のVMworld 2016における一連の発表もあり、デル テクノロジーズとしての主張ははっきりしてきた。一言でいえば、「IT部門がクラウドに関して抱える現実の課題や悩みを解決するため、多数の選択肢を提供する」ということだ。

 「いずれかのパブリッククラウドに全ての既存・新規アプリケーションを移行すべき」と考え、それを実行に移す企業がある。一方で、そこまでは考えない企業がいる。後者のさまざまな取り組みを助けるのが、デルテクノロジーズとして提供する、「ハイブリッドクラウド」ソリューションだ。

 アプリケーションやデータに応じて、少なくとも当面はオンプレミスとパブリッククラウドを使い分けたい組織がある。また、単一のパブリッククラウドでなく、複数のパブリッククラウドを併用したいというニーズも考えられる。一部では、パブリッククラウドを試した後、データ保存料金の高さなどから、オンプレミスに回帰するケースもある。クラウドネイティブなアプリケーションを当面は特定のパブリッククラウドで動かすが、いつでも他のパブリッククラウドやオンプレミスに移行、あるいは併用できるように、選択肢を保っておきたい企業もいる。

 また、ITコストを「経費化」するという意味では「クラウド化」したいが、運用はオンプレミスとできるだけ近い形で行いたいというニーズも考えられる。そして、複数のパブリッククラウドを適材適所で使い分けながら、統合的な運用管理がしたいという要望も当然出てくる。

 デル テクノロジーズの言い分は、IT部門の現実のニーズは多様であり、「IT部門を支援」するために同社グループが提供する選択肢はどうしても多様化する、このためシンプルなクラウド戦略は提示できない、ということだろう。

 特にヴイエムウェアによる「IT部門の支援」の仕方には明確な意図が見える。IT部門はVMware vSphereの運用ノウハウを生かして、事業部門における「新しいIT」への試みをオンプレミスで積極的に助けることができる。それがVMware Integrated Containerであり、VMware Integrated OpenStackであり、プラットフォームとしてのハイパーコンバージドインフラだ。また、Cloud Foundryではパブリッククラウド、オンプレミスにまたがって、最適な場所でアプリケーションを動かせる環境を提供できることになる。

 オンプレミスのvSphere環境との統合度の高いパブリッククラウド環境が欲しい企業には、vCloud Air/vCloud Air Networkがある。大規模な自社専用のvSphere環境を「経費化」した形で使いたいなら、今回のVMworld 2016で発表したIBMによるサービスとしてのCloud Foundationなどが適用できる。複数のパブリッククラウド利用を統合的に管理したい企業には、Cross-Cloud Servicesが提供される。

 Dell EMCは、ヴイエムウェアの技術を統合した製品を提供する一方、他の選択肢を用意している。マイクロソフトとの提携ではAzure Stackを採用したコンバージドインフラを提供するし、Nutanixとの提携を解消することもないだろう。旧EMCのNative Hybrid Cloudでは、KVMベースのOpenStackやネイティブなコンテナ環境を提供している。また、Virtustreamは、SAPなどのミッションクリティカルなアプリケーションについて、アプリケーションレベルまでの運用をアウトソースしたい企業にとっての選択肢となる。同サービスは、一方で大規模ストレージ環境をクラウドとして提供する。

 また、SecureWorksとRSAは、あらゆる環境にまたがって、セキュリティを提供できる。

ゼロサムゲームではない

 Dell氏は、パブリッククラウドの利用がこのまま急速に進展するとしても、オンプレミスおよび同社のいう意味でのハイブリッドクラウドの需要が減るとは考えていない。

 それは、パブリッククラウドと並ぶもう1つの潮流について、筆者がVMworld 2016でDell氏および米ヴイエムウェア プレジデント兼CEOのPat Gelsinger(パット・ゲルシンガー)氏に質問した際の答えに表れている。

 質問は、「今後多くの企業において事業部門のIT支出がIT部門のそれを上回るようになるなら、IT部門を顧客としてきたヴイエムウェアおよび買収完了後のデル テクノロジーズは困るのではないか」というものだ。

 Gelsinger氏の答えを要約すると、次のようになる。

 「ITはビジネスの差別化のための武器になる。このため、全体的なIT支出は今後加速する。事業部門が新しい試みをすることは増えるだろう。だが、運用について最終的に責任を持つのはIT部門だ。私たちの活動の焦点は、当社の既存の顧客であるCIOやIT部門の人々が、事業部門のパートナーとなれるよう、支援することだ。これが私たちを新しい分野にも導いてくれる」

 これを補足して、Dell氏は次のように答えた。

 「あなたが言うことは、『Information TechnologyからBusiness Technologyへのシフト』と表現されることがある。背景にあるのはこういうことだ。モノをインテリジェント化するコストがゼロに近づくに従って、あらゆる規模の組織が、膨大な情報を手に入れられるようになる。こうした情報をリアルタイムで活用することは、企業による製品の改善、販売、サポートに不可欠になってくる。これこそが、我々にとって莫大な事業機会となる。こうした時代は今、始まったばかりだ」

 Dell氏は、「IoTなどに伴い、今後企業においてITの爆発的な利用が起こる。それは特定のパブリッククラウドだけで対応できるものではない」と考えている。つまりこれはゼロサムゲームではなく、パブリッククラウドの利用が増加しても、同社のいうハイブリッドクラウドのニーズは増え続けるというのが同氏の主張だ。

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