もしも、上司が会議で「いいね!」と言い続けたら田中淳子の“言葉のチカラ”(34)(2/2 ページ)

» 2016年09月12日 05時00分 公開
[田中淳子@IT]
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それ、いいねえ。

 別の企業に勤めるITエンジニアBさんの話を紹介したい。

 社内会議で「次期のビジネスプラン」を検討していた時のことだ。「来年はこんなことをやってみたい」「こういう仕事を手掛けてみたい」と出席者が次々と希望を口にした。すると、司会進行の上司が全ての意見やアイデアに対して、「それ、いいねぇ」「いいなぁ、それ」「それ、面白いじゃない」と肯定的な反応をしてくれた。

 さらに、「そう、そう、そういう感じでもっとない?」「いいねー。もっと他にも思い付かない?」と促した。全員からの発言に全て「いいね」「いいね」と言い続けた結果、各メンバーから多くのアイデアが出された。

 Bさんは会議後、「どうしてあんなに会議が活性化したのだろう?」と考え、「肯定的な反応があると、気持ちが萎縮せず、発想が広がり、勇気を持って発言できるようになるんだな」と思い至ったと言っていた。

 私も似たような経験をしたことがある。ある企業の経営者と「プロジェクトの進め方」について議論していたときのことだ。彼は私の意見に対して「いいですねぇ」「それは面白い考えですねぇ」「ほぉ、ボクには思い付かなかったなぁ」と全て肯定的に反応してくれたのだ。

 年齢も社会的立場も私よりもうんと上で気後れする相手ではあったが、この反応のおかげで私は臆することなく考え、のびのびと発言できた。このプロジェクトは関係者全員が楽しく取り組み、無事終了できた。

もっと、もっと!

 人は反対されると委縮するし、自信を失いやすい。「それはダメだ、もっといいモノないの?」と言われると、「いいもの」を考えるより先に「さっきの意見のどこがダメだったのか」を考えてしまう。「今の意見がダメなら、新しく出す意見だってダメではないか」と頭の中でぐるぐる考えてしまい、意見が言えなくなったり、発想がストップしたりする可能性もある。

 「それいいね。他にもっとない?」と「それはダメだ。もっといいのないの?」は、後半が似ているけれど、前半に大きな違いがある。「いいね」「ほぉ」「なるほど」と受け止められた上で「他には?」と訊かれると、「そうだなぁ、もっとないかなぁ」と頭が自由に動くようになる。

 自分の考えと異なることを言われるとつい否定したくなってしまう人は、「そうじゃなくて」「それはダメだね」「無理でしょう」「実現できると思う?」などと「ダメ出し」をしてしまう。ダメ出しされて奮起する人も中にはいるだろうが、委縮してしまうデメリットの方が大きい。

「いいね。それで? それで?」
「面白いねぇ。もっともっと」
「なるほどー。他にもある?」

 否定より肯定。肯定した上で、さらに先を促す話法は、相手のやる気を高めるのにとても有効だ。人と協働していく全ての人が覚えておいて損はない。

筆者プロフィール 田中淳子

 田中淳子

グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー

1986年 上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで、延べ3万人以上の人材育成に携わり28年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。

日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。

著書:「ITエンジニアとして生き残るための「対人力」の高め方」(日経BP社)「ITマネジャーのための現場で実践! 若手を育てる47のテクニック」(日経BP社)「速効!SEのためのコミュニケーション実践塾」(日経BP社)など多数。

電子書籍「『「上司はツラいよ』なんて言わせない」(ITmediaのebook)、「田中淳子の人間関係に効く“サプリ”――職場で役立つ30のコミュニケーション術」(ITmediaのebook)

ブログ:田中淳子の“大人の学び”支援隊!


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