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» 2016年09月30日 05時00分 UPDATE

金融業界とHadoop(2):欧米の金融機関における、FinTechをめぐるデータ課題とHadoopの関係

欧米金融機関のデジタルバンキングおよびFinTechへの取り組みは、Hadoop利用とどう関係しているか。米Hortonworksの金融担当ゼネラルマネージャーに聞いた。英国のOpen Banking Standard、欧州のPayment System Directive 2(PSD2)についても語ってもらった。

[三木 泉,@IT]

 本連載では、米Hortonworksの金融サービス業界担当ゼネラルマネージャー、Vamsi Chemitiganti(バムシ・ケミティガンティ)氏へのインタビューに基づき、欧米金融業界におけるHadoop利用の状況を紹介している。前回は、欧米の金融業界がHadoopをさまざまな目的のために使っていることを紹介した。今回はより具体的に、欧米金融機関のデジタルバンキングおよびFinTechへの取り組みと、Hadoop利用の関係を取り上げる。英国のOpen Banking Standard、欧州のPayment System Directive 2(PSD 2)についても語ってもらった。

 「金融機関のデジタル産業化、そしてFinTechを支える基盤はデータレイクだ」というのがChemitiganti氏の主張だ。

 「FinTechにしても、顧客を360度、全方位から見られるようにすることがカギとなる」(Chemitiganti氏)。FinTechは、アプリケーションの観点からはマイクロサービス化、API、ブロックチェーンなどを意味するが、データの観点、およびビジネス目的の観点からは、それぞれの顧客の属性や行動に関する多角的な情報から、その姿をあぶり出し、データ自体からビジネスを生み出す一方、データに基づいて自社サービスの付加価値を高めることがポイントになるという。

 では、欧米の金融関連企業は、どれくらいの比率で「攻めのIT」のためにHadoopを採用しているのか。そう聞くと、Chemitiganti氏は「3割程度にとどまる」と答えた。大半の企業は当初、リスク管理、不正取引検知、詐欺防止など、何らかの「守り」の目的でHadoopを導入する。だが、そのうち一部の企業は、段階的に用途を広げ、次第にデジタルバンキングからFinTechに至る取り組みを進めてきたという。

 Chemitiganti氏は、ある北米の主要金融機関を例に、これを説明した。

 「この企業は、『ロボ・アドバイザー(アドバイスの自動化)』や、ピア・ツー・ピアの貸し出しなど、現在ではFinTechの取り組みを進めている。だが、同社のHadoop利用は、2010年に始まっている。FinTechに到達するまでに、6年かかった計算になる」

この金融機関では、2010年に始めた取り組みが、6年かかってFinTechにたどり着いている

 この金融機関がHadoopを使い始めた当初の目的は、コスト削減だった。だが、この企業の活動は、従来型のデータ管理手法の入れ替えにとどまらなかった。ほどなくして、これまで各種のビジネスシステムにサイロ化されていた情報を統合し、多角的に分析・活用するための試みをスタートした。

 同社は、200人のデータサイエンティストによるチームを作った。この部署の役割は、あらゆる取引相手を対象とした情報を集約し、データに対する新しい見方を生み出すことだった。このチームを結成する1つのきっかけになったのは、2008年の金融危機(日本でいう「リーマンショック」)だったという。

 「全国的な金融危機に至る約1年前に、アリゾナ州やカリフォルニア州では、住宅バブル崩壊の兆しが見え始めていた。このため、米国連邦政府は、地域別にクレジットカードやローン返済の遅れ、返済不能といったトレンドを把握することで、今後の同様な事態に対応しやすくなるのではないかと考えた。こうした連邦政府のニーズに応えるためのデータサービスが、この取り組みを発展させるきっかけの1つとなった」

FinTechに至る3つのアプローチ

 質問を少し変えて、「欧米の金融関連企業は大まかにいって、FinTechにどういうアプローチで取り組んでいるのか」と聞くと、Chemitiganti氏は「企業によってさまざまだ」と答えた。

 「経営陣の意識がどれだけ高いかに依存する。徐々に『Chief Digital Officer(CDO)室』を設置する話が現実味を帯びてきた。一部の金融関連企業は、『今投資しないと、3、4年で本格的な変革の時代を迎える際に必要なスキルを、自社で持つことができない』と考えている。だが、こうした考え方に至っている企業はまだ少数派だ」

 その上で、3つのアプローチがあると同氏は話す。

1. 「守りのIT」からの段階的な移行

 前述の金融機関の例に見られるように、大半の企業は守りのITのためにHadoopによるデータ基盤を構築し、徐々に用途を広げてきたという。

 「例えばリスク管理は、多くの金融機関にとって最初に取り組みやすい。これまで銀行は、多数のビジネスシステムがサイロとして存在している状況で、リスク分析のためにどうすれば情報を集約できるかに頭を悩ませてきた。また、データの品質問題の克服にも労力を費やしてきた。Hadoopではこの課題を解決できるので、導入メリットが分かりやすい。こうした分かりやすい用途で使い始め、コンシューマーバンキングやWebアドバイザリサービスなど、攻めの用途を後で追加する例は多い。また、ある程度の比率の企業が、Hadoopを使い始める動機として、ITコスト削減を挙げている。これまでのメインフレームやリレーショナルデータベース、エンタープライズデータウエアハウスによるデータ管理は、高価で、拡張が困難であり、迅速な処理という点でも課題が生じていた。Hadoopでは分散処理により、こうした課題を克服できる」

 ITコスト削減のためにHadoopを導入したとしても、これをきっかけとして徐々にでも情報サイロ化の打破を進めないと、FinTechを支える情報基盤には到達できないとChemitiganti氏は指摘する。つまり、このアプローチにおいて「用途を広げる」ということの裏のテーマは、どの情報サイロを次に壊すかということにある。

2. 既存組織とは切り離されたFinTechチームの結成

 第2のアプローチは、既存組織のしがらみと切り離されたFinTechチームの結成だ。

 「企業として、このチームに干渉しないと決める。独立した予算を与え、従来のITルールも適用しない。既存のITルールは官僚主義的になりがちで、データアクセスについても制限ばかりを押し付けてしまう。そこでFinTechチームには自由なアクセス権限を保証し、データレイクを構築させる」

こうしたやり方で成功している企業もあるという。

3. ハイブリッドなCOEモデル

 第3のアプローチは、第1、第2のモデルの中間ともいえるハイブリッドなものだ。

 「この取り組みは、IT部門に任せていると、企業としてFinTech時代に求められる体制に移行できないという認識から始まる」(Chemitiganti氏)。その意味では、第2のアプローチと出発点は似ている。

 「そこで組織全体から、最良の人材をかき集めたチームを結成する。そして、FinTechあるいはそれに関連する何らかのアプリケーションを作ってみるところから始める。一方で、事業部門と連携し、データレイクを推進する。事業部門のビジネス要件を理解し、これを反映させる形での情報統合および活動を進める」

FinTechに向けた取り組みにおける、2つの社内的な課題

 上記のどのアプローチで取り組むにしても、データの扱いに関して共通の社内的な課題が2つある、とChemitiganti氏は指摘する。「予算をどう工面するのか」および「誰がデータのオーナーなのか」という点だ。

米Hortonworks 金融サービス業界担当ゼネラルマネージャー、Vamsi Chemitiganti氏

 予算の問題に関しては、第1、第3のアプローチであれば、従来型のデータ管理手法に対するコスト削減分を、新たな取り組みに振り向けることが考えられるという。対して第2のアプローチでは、Chemitiganti氏のいう「経営陣の意識がどれだけ高いか」が問われることになる。

 予算にも関連する重要な課題は、「社内でのデータのオーナーシップをどう考えるか」という点だ。

 「どの部署が、データについての貢献を認められるべきなのか。データを獲得し、あるいは生み出した部署なのか、それともこれを活用した部署なのかということだ。コスト配賦にも関係してくる。厄介な問題だが、これが金融機関における現実だ」

 FinTechでは、このデータオーナーシップの問題が、社外のさまざまなプレイヤーとの間での主要なテーマとなってくる。

OBSとPSD2が金融業界に与える影響

 Chemitiganti氏は、世界の金融業界の今後に影響を与える2つの動きとして、英国のOpen Banking Standard(OBS)とEUのPayment System Directive 2(PSD2)に注目する。

 OBSは英国の銀行がサードパーティに対し、取引データなどの情報へのAPIアクセスを提供するためのガイドラインを定めている。これに付帯して、プライバシーおよびセキュリティについての規制が盛り込まれている。一方PSD2は、単一ユーロ決済圏における決済のバリューチェーンに、データアグリゲータなど新たな種類のプレイヤーを参加させるためのフレームワークを提示している。PSDは、これまでマーチャント、クレジットカードブランド、アクワイアラ、イシュアー、決済サービスプロバイダといった機能分担が固定化したことによる情報ギャップを埋めることにより、既存のプレイヤーにとっても新たなチャンスが生まれる。

 「OBSは、英国政府が英国の銀行に対し、『FinTech企業に変身しろ』と言っているようなものだ。PSD2は、EUにおけるこれまでの決済ビジネスモデルが変わらなければならないというメッセージだ。どちらも、誰が『顧客のオーナー』なのか、つまり誰が顧客の情報をコントロールするのかについて、新たな競争を生み出していく。結局、ビジネス上の価値につなげるためには、各顧客のことをどれだけ知り、理解できるかが勝負になってくる。このため、データレイクの価値はますます高まる」

Apache Hadoopのグローバルイベントが東京で開催

2016年10月26、27日に、Apache Hadoopのグローバルイベント「Hadoop Summit」が日本で初めて開催される。詳細および申し込みについては、下記のページを確認いただきたい([20%OFFコード] APAC20)。

http://hadoopsummit.org/tokyo/agenda

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