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» 2016年10月26日 05時00分 UPDATE

頭脳放談:第197回 実世界の問題はサイバー空間で解決する?

CEATEC JAPAN 2016のテーマは「CPS/IoT」。IoTは、説明の必要はないだろうが、CPSって何? 実世界にある多様なデータをサイバー空間で大規模データ処理技術などを駆使して、分析/知識化して、産業の活性化や社会問題の解決を図っていくのだそうだ。

[Massa POP Izumida,著]

 この間、展示会に行く機会があった。本稿の読者の中にも足を運ばれた方がいらっしゃるかもしれないが、千葉県の幕張メッセで開かれていた「CEATEC JAPAN 2016」という展示会である。近年はネットで何でも調べられるので、わざわざ人混みに行くこともあるまいとも思うのだが、会場を1時間も歩いていれば、最近の業界トレンドがつかめてくる。

 例えば、景気の悪い年は、どこのブースの造作も質素になり、コンパニオンの方々がまばらになるなどする。そんな中でも金の掛かったであろう展示を出している会社はもうかっているようだとか、何か仕掛けをしている最中なのだ、とかすぐに分かる。そして出展者と話していれば、カタログには書いていないヒントが得られることも多い。行けば行ったなりの効用はあるものだと思う。

 さてCEATEC JAPANといえば、かつては日本における家電(といっても白物ではなく情報家電系中心だが)の最大級の展示会という位置付けであった。実態としては、家電に限らず電機電子系の総合的な展示会であったので、電子デバイス(ここでいうデバイスは部品)屋も出展はしていたのだが、一般消費者向けにアピールしている大手家電メーカーに比べると部品屋は地味で端っこにいる感じであった。

 そんな部品屋の一員として出展者側でブースに詰めていたことも何度かある。大手電機各社の金の掛かった「パビリオン」が並んだ時代も、急に質素になった時代も見てきた。それがいつの間にやら家電系的なテーマを捨て、今年は「CPS/IoT」の展示会になったのだそうだ。

 しかしCPSと言われて、「Cyber Physical Systems」と答えられる人はどのくらいいるのだろうか。年寄りの筆者にはちょっとピンと来なかった。IoTを掲げる展示会は他にもいくつかあるから「IoT」だけではまずいと思ったのではないだろうか。何か他所と違う「トレンディー」なキーワードを盛り込みたかったのかもしれない。

 ちなみに、CEATEC JAPANの主催者の1つ「JEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)」によれば、CPSとは「実世界(フィジカル空間)にある多様なデータをセンサーネットワークなどで収集し、サイバー空間で大規模データ処理技術などを駆使して分析/知識化を行い、そこで創出した情報/価値によって、産業の活性化や社会問題の解決を図っていくもの」というそうだ。

 実際の展示物は参加する企業や団体が勝手に選択しているわけだから、主催者側としては各団体の展示場所のロケーションの配置や併設の講演会の演目でテーマを表現するしかないはずだ。しかし、流れを読んでいるのか、乗っているだけなのか、展示物もそれなりにテーマにより沿って見える。

 かつて幅を利かせていた一般消費者向けの展示物は影を潜めていた。「こんなにきれい」「こんなに大画面」みたいな誰にでも分かりやすい展示に黒山の人だかりというシーンはほとんどなかった。ひと言で言えば「説明がいるもの」が多いのだ。つまりプロフェッショナル向け。展示会の現場で価格や納期の見積もりを出すわけにもいかないから、プロ向けにはどうしても各種仕様などの説明が中心となる。

 その中で各社工夫をしていたわけだが、目立ったのは「CPS/IoT」の標語通り、いかにデータを解析し、業務を効率化、最適化して収益を上げるかという趣旨のものだった。当然、サイバー空間側の出展者が多くを占めていたが、部品屋の視点からすると、電子デバイスも結構頑張っている感じに見えた。以前のような大画面の液晶とか、高性能な半導体などはすっかり影を潜めてしまったが、センサーを中心とした部品が目に付いたからだと思う。実世界(Physical)とサイバー(Cyber)の界面にいるのがセンサーなのだから当然といえば当然だろう。

 ここで思い出したのが、昔、いろいろな人から見せられた「バスタブ的なカーブ」の図だ。縦軸は利益だったか利益率だったかは忘れたが、横軸左側には「他に代替がないユニークな部品屋」がおり右側には「販路なのか、ビジネスモデルなのか、サービスなのかで市場を支配している者」がいる。中央には左の人から部品を買って右の人に売る組み立て屋さん(純粋メーカー?)。結局、左端と右端はもうかるけれども、中央だけやっていたのではもうからない、という図式を示すものである。

 会場を眺めていると、その教え通りになったようにも見える。真ん中にいたはずの完成品を製造する範疇がほとんど消えてしまっているように見える。昔、華々しく完成品をアピールしていた電機メーカーなども、心を入れ替えて(?)どちらかの側にシフトしている。中央部分は今の日本では絶滅危惧種になってしまったようだ。

 「もうからないからいたしかたない」とも思われるが、最近、中央不在の負の面を感じることもある。自分が実世界(Physical)側の部品屋出身なので、サイバー(Cyber)側の人々と話す機会にそれは多い。

 CPSというくらいだから、実世界(Physical)抜きには成り立たないわけだ。だが、利益を生み出す構図は、サイバー(Cyber)側でいろいろとやって、実世界(Physical)側の非効率な部分を絞り取り利益を最大化する。だから、「浮いた経費の一部をCyber側に払ってね」という形がほとんどなように思われる。実世界(Physical)は「搾り取られる」側なのだ。

 そしてサイバー(Cyber)の方はコンピュータプログラム中心である。理由は問わない、大量のデータを使い人の介在を抑えて意思決定させる。物理現象を加味せざるを得ない場合もあくまでモデルのごく一部である。

 実際には、どんな手法を使って物理現象をモデリングしたとしても、物理現象そのものではないのだが。それどころか現代のコンピュータプログラムはタマネギのようにAPIが重層的に折り重なっている。APIは人が決めた取り決めでしかないのだが、その複雑な組み合わせ上に構築されているわけだ。

 どうもサイバー(Cyber)側の中では、どこまでが人と人との取り決めで、どこからは物理なのか見えにくくなっているようだ。人と人との取り決めはいくらでも修正はできるが、物理法則は修正できない。

 今にして思えば、中央の完成品分野にいた人たちの中には、ソフトウェア屋さんもおれば、ハードウェア屋さんも、品質保証のプロも、製造技術者もおり、人間の取り決め、商売のもくろみを、物理現象の制約の下で何とか折り合いを付ける、という総合的な作業をやってくれていたのだなぁと分かる。中央の家電製品が目立たなくなったのが全ての原因だというつもりはないが、どうも物理的な現象へのリンクが細ってきている印象を受ける。今のところ、まだレガシー(過去の遺産)というやつが残っているのでなんとかなっているが。

 サイバー(Cyber)側でちょっとしたパラメーターを調整すれば、実世界(Physical)側のどこをどれだけ効率化するか何%も変わるだろう。影響を受けるのは物理的な工程、あるいは生身の人間である。その調整はサイバー(Cyber)側のモデルで想定している範囲内の変動や誤差の中でならリスクは小さくできるかもしれない。

 しかし、現実世界には時々あるのだ、想定外が。機械学習といったって、経験していないワンショットの大変動にはうまく対応できないが、想定外の反応をする可能性もあるかもしれない。そのとき極限まで切り詰めて均衡させたシステムはうまく切り抜けられるのだろうか。

 今のところ、それほど大きな想定外のケースは聞いたことはないが、今後は失敗事例も耳にするのではないかと予想している。だからといって中央にいた家電完成品を復興させたらよいというわけもない。環境は変わる、元には戻らない。問題点が発覚し、それに対処することでよりよいシステムになるのは工学の常である。

 ただ、サイバー(Cyber)側で、人間の取り決めばかり重視して、物理現象を甘くみないでもらいたいと思うばかりである。なお、蛇足だがそういうときに部品屋はあまり頼りにならないと言っておく。物理現象に近いところにいるといっても、部品屋の視野は狭い。特定の部品の物理には詳しいが、「井の中の蛙」であって全体としての総合的な判断は難しい(部品屋の皆さんすみません)。何となれば、同じ効果を得るのに、多数の物理的(化学的)な手段が存在したとしても彼(もしくは彼女)が提案できるのは、手持ちのいくつかの手段に限られる。自分のデバイスに束縛される部品屋根性なのである。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサーのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサーの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサーを中心とした開発を行っている。


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