IoT実践を阻む“国内企業3つの事情”と特効薬とは?特別企画:IoT アーキテクチャカタログ(1)

グローバルでデジタルトランスフォーメーションが進む中、国内でもIoTに取り組む企業が急速に増加している。だが成功事例が着実に増えつつある半面、大方の企業にとってIoTはまだ高いハードルであるようだ。特別企画「IoT アーキテクチャカタログ」ではそうした国内企業の実態を基に、ハードルを乗り越え実践に乗り出すための情報を包括的に提供していく。

» 2016年12月05日 17時00分 公開
[編集部,@IT]

国内でも高まるIoTトレンド。だが大方は「どうすれば良いか分からない」

 IoTトレンドが本格化している。「製造機器に設置したセンサーのデータを基に、故障予兆検知をしてプロアクティブに対策を打つ」「店舗内に設置したセンサーで既存顧客を検知し、顧客のスマートフォンにセール情報などを送信する」「ドローンに設置したカメラやセンサーで農作物の成長度を判別し、最適な量の農薬を自動的に散布する」など、製造業をはじめ、各業種でIoTの事例が生まれている。特に昨今はテクノロジの力を使って“これまでになかった利便性”を提供するX-Techトレンドの高まりも手伝い、「全ての企業がソフトウェア企業になる」といった認識は、多くの企業に浸透したといえるだろう。

 それはデータにも表れている。まずIoTを含めた「デジタルビジネス」というくくりで見ると、ガートナージャパンが2016年11月に発表した「日本企業のデジタル・ビジネスへの取り組みに関する調査」(有効回答者数165)において、実に69.7%が「デジタルビジネスへの取り組みを行っている」と回答。「部門としてではなく、全社的に取り組んでいる」と答えた企業も、1年間で20.1%から29.3%に増加した。

参考リンク:「日本企業のデジタル・ビジネスへの取り組みに関する調査」(ガートナー ジャパン)

 一方、ガートナージャパンが2016年4月に発表した「日本におけるモノのインターネットに関する調査」(有効回答数515件/日本全国の従業員数500人以上の企業が対象)においても、「IoTに対する期待や不安」として、「ITがよりビジネスに貢献できる」「IT部門の新しい価値を発揮できる」など、IoTの成果に期待する回答が50%を超えている。

参考リンク:「日本におけるモノのインターネットに関する調査」(ガートナー ジャパン)

 だが同時に、課題も浮き彫りになっている。前者の「日本企業のデジタルビジネスへの取り組みに関する調査」では、「デジタルビジネス戦略を策定している企業は5割未満」「2割の企業は戦略がないまま、戦術的あるいは機会追求的に取り組んでいる」ことが判明。後者の「IoTに対する期待や不安」では、「いまだにどこから手を付けてよいか分からない」とする回答も4割近くに上った。

日本企業がIoTを実践できない3つの理由

 Uberの例のように、ITの力で既存の商流を変えてしまうデジタルディスラプションが起こりつつあることは多くの企業が認識している。「IoTに対する期待」の背景には、そうした状況に対する経営層、現場層の危機感もあるといえるだろう。だが、いざ取り組もうとすると「何をすればいいのか分からない」「どう実現すれば良いか分からない」。@IT編集部独自アンケート(※)では「収益性が見込めない」(そのため予算がつかずプロジェクトを進められない)という声も目立った。

※2016年6月開催 Webセミナー『IoT放談「IoTでなんかやろう」』視聴者アンケート結果より

 これらは大きく3つの問題を示唆している。1つは「ITに対する経営層の認識」だ。近年はほぼ全てのビジネスをITが支え、テクノロジを使われなければ実現できないサービス価値もあるなど、ITは「収益・ブランド向上の手段」となっている。しかし多くの日本企業では、ITは「既存業務の効率化やコスト削減の手段」として認識されてきた。すなわち「攻めの手段」とは認識されておらず、IT投資に消極的な傾向が続いてきた。

 2つ目はいわゆる“丸投げ”文化だ。ベンダーやSIerに頼ることで、「自社ではITをどう活用するのか」について、自社で主体的に考えようとしない文化が一般的であり続けてきた。そして3つ目は日本企業特有の「短期的な視点と失敗を許さない文化」。ビジネスにせよシステムにせよ、「周到に計画を練り、時間をかけて設計・構築し、狙った利益を短期間で着実に獲得する」といったウォーターフォール型のスタンスを多くの企業が重視してきた。

 だが、IoTも含めたデジタルビジネスで求められるのは、これらとはおよそ逆のスタンスだ。まず「ITは収益・ブランド向上の手段」という認識に基づき、必要と判断すれば積極的に投資する必要がある。ITの力を使って「自社ビジネスの差別化」を図る以上、「実現したいビジネス価値と実現手段」は自社で考えることが不可欠だ。

 また、「新しい価値の創出」を狙う以上、必ず成功するという保証はない。従って、スピーディにリリースし、反響を受けて改善していくトライ&エラーのサイクルを高速で回すことが求められるが、このためには「失敗を許容し、中長期的視点で収益・ブランド向上を狙う」スタンスが不可欠となる。

 やや古いデータだが、JEITA(一般社団法人 電子情報技術産業協会)が2013年10月に発表した「ITを活用した経営に対する日米企業の相違分析」もこれを象徴している。「IT/情報システム投資の重要性」に対する考えとして、「きわめて重要」が米国企業は75%だったのに対し、日本企業は16%。「ITに対する期待」では、日本企業が「ITによる業務効率化/コスト削減」が48.2%でトップ。米国企業は「製品やサービス開発強化」が41%でトップであり、これに「ビジネスモデル変革」(28.2%)が続いた。

参考リンク:「ITを活用した経営に対する日米企業の相違分析

ビジネスゴールを見る視点と、「実践」が何よりの突破口

 こうした日本企業のITに対する従来の認識、考え方、慣習に照らせば、IoTに取り組むに当たって「何をすればいいのか分からない」「どう実現すれば良いか分からない」「収益性が見込めない」といった声が多く挙がるのは、ある意味、当然だろう。

 とはいえ、グローバルでデジタルトランスフォーメーションが進む今、ただ手をこまねいているわけにもいかないのが現実だ。もちろん認識、考え方、文化といったものは一朝一夕に変えられるものではない。だが、国内でも“デジタルディスラプション”が起こりつつある以上、少しでも早く着手し、少しでも多くの経験・知見を蓄積していくことがトレンドに対応する上で大切なポイントとなる。

 特にIoTは、“IT活用に対するスタンス”だけではなく、技術面でもさまざまなハードルがある。例えば「必要なデータを必要な時に取得→大量データを蓄積・管理→目的に最適な形で可視化・分析→結果を基に制御→分析・評価してフィードバック」といった一連のサイクルを回すことがIoTの軸となる。このためにはハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク、セキュリティ、クラウド、データ分析など、フルスタックの技術・知見が必要だ。データを“現実世界のアクション”につなげる上で、組み込み開発系とシステム開発、両方のスキルも求められる。

 また、センサーから“大量データが流れ込む”IoTでは、ネットワークを介してクラウドに直送するのは、性能、セキュリティ、コスト面で現実的とはいえない。この点で、センサーデバイス側のソフトウェアをどう更新するか、セキュリティパッチをどう適用するかといった問題も含め、「エッジとクラウドをどうインテグレーションするか」も大きなポイントとなる。加えて、目的に最適なデータを選んだり、集めたデータから価値を見いだしたりするデータ分析ができる人材も必要だ。だが、そうしたスキルを持つ人材は国内全体を見渡しても大幅に不足しているという現実がある――こうした問題に行き当たることが分かっている以上、いち早く着手した方が有利なことは自明だろう。

 それに課題は多くとも、ベンダー、SIer、クラウドサービスプロバイダーなどから、こうした問題解決を支援する手段が多数登場しており、取り組みやすい環境は急速に整いつつある。ほんの少しでも“実践”できれば、その結果から“成功につながる次のステップ”は自ずと見えてくるはずだ。収益性の問題にしても、実践によって何らかの手掛かりをつかめれば、次のステップで必要な予算や得られる成果について予測できるようになるのではないだろうか。

「ビジネスとITの協働」に向けて、まずは情シスが一歩踏み出そう

 特にIT部門は、前述のような企業文化を背景にした“減点法のKPI”であることも受けて、「言われたことを着実にこなす」ことが最大のミッションであり続けてきた。だが前述のように、今求められているのは「ビジネスゴールを見据えて、主体的にテクノロジを使いこなし、より良い策を提案する」クリエーターとしての役割だ。また、ビジネスアイデアにより高い価値を担保する上では、ビジネス部門だけでも、IT部門だけでも、その実現は難しく、数年来、指摘され続けてきた「ビジネスとITの協働」が不可欠となる。まずは情報システム部門が自社ビジネスを視野に入れ、ビジネス部門と手を組み、IoTプロジェクトに向けてリードする、何らかの形で足を一歩踏み出すことが、停滞を脱する何よりの突破口になるといえるだろう。

 ではいったい何から始めればよいのだろうか? ビジネスアイデアはどうすれば創出できるのか? 意思決定層にプロジェクトの稟議を通すにはどのようなアプローチが有効なのか? ビジネス部門とIT部門が協働するためには、どのような組織体制が必要なのか?

 データについては、どのようなデータを、どう収集・蓄積・分析すれば価値につなげられるのか? トライ&エラーを高速で回すためにはDevOpsのアプローチが求められるが、どのようなテクノロジを、どう活用すればよいのか? そもそも自社内に開発リソースを持たない場合、外部パートナーと組んでサービス開発・改善に取り組む必要があるが、どのようなパートナーとどう連携すればDevOpsを実践できるのか?

 また、IoTサービスはモノが外部から不正にコントロールされるなどセキュリティリスクにも一層の配慮が必要だ。具体的に、どのような対策が求められるのか? スモールスタートしたIoTサービスを安定運用し、状況に応じてスケールさせていくためには、どのようなインフラが求められるのか?――

 特別企画「実践!IoTアーキテクチャカタログ」では、日本国内のIoT先行事例を徹底レポート。同時に、IoTを支える技術要素を「データ分析」「IoTサービス開発」「IoTセキュリティ」「IoTプラットフォーム/エッジコンピューティング」の4つに分けて、それぞれを深掘りし、以上のような課題解決に役立つ情報を網羅的に提供していく。特に事例では「IoTサービスを軌道に乗せるためのプロセス」と「実現に必要な技術要素」をひも付けて解説することで、実践に向けた第一歩、あるいはすでに取り組んでいるプロジェクトの躍進に役立つ情報をお届けするつもりだ。ぜひ参考にしてほしい。

特別企画:IoT アーキテクチャカタログ

グローバルでデジタルトランスフォーメーションが進む中、国内でもIoTに取り組む企業が急速に増加している。だが成功事例が着実に増えつつある半面、大方の企業にとってIoTはまだ高いハードルであるようだ。特別企画「IoT アーキテクチャカタログ」ではそうした国内企業の実態を基に、ハードルを乗り越え実践に乗り出すための情報を包括的に提供していく。




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