テクノロジーの力を次の世代のために――プロのエンジニアもプログラミング教育に協力を特集:小学生の「プログラミング教育」その前に(5)(2/2 ページ)

» 2016年12月08日 05時00分 公開
[齋藤公二@IT]
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ビジュアル言語×チュートリアルからが始めやすい

 小学校の教育現場では、プログラミング教育にどう取り組めばいいのか。概要のスライドには、目指すべき資質・能力も記載されている。それには「知識・技能」「思考力・判断力・表現力など」「学びに向かう力・人間性など」の3つがあり、単元(教科、時間数、実施学年)については「各学校が適切に位置付け実施していく」ことになっている。

 「実施を各学校に任せた背景の1つには、2020〜2030年まで全国一律の固い基準を策定するのは非現実的であったことと、時間数の純増はできなかったという事情があります」と利根川氏は、有識者会議の議論を振り返る。

 一律の適用が難しく、時間数も増やせない中、あらゆる人に対して、これからの時代において共通に求められる力を備えさせなければならない。この難題のしわ寄せは、現場に向かっているのが現状だ。

 そんな中、利根川氏は「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」というアラン・ケイ氏の言葉を紹介しながら、頭を悩ませているだけではなく、まずは始めてみることを強く勧めている。

 「現場の先生方は、小学生から始められるプログラミングといっても、イメージが涌かないかもしれません。まずは、事前の知識がなくても始められる教材を試してみてください。例えば、Hour of Codeでは、アニメのキャラクターといった子どもになじみ深い素材を使って、プログラミングの命令をゲーム感覚で実行させていくことができる教材を提供しています。そして、コンピュータクラブの部活動やワークショップなどを利用して、子どもたちと一緒に試してみてください」

 Hour of Codeのサイトでは、『アナと雪の女王』『スターウォーズ』『Minecraft』『アングリーバード』などを使った教材をWebブラウザだけですぐに学ぶことができるようになっている。サイトも教材も日本語で利用でき、チュートリアルに沿って子どもたちだけで学習を進めることが可能だ。

Hour of Codeのサイトにある『アナと雪の女王』の例(利根川氏の講演資料から引用)

 「プログラミング教材にはさまざまなタイプがあります。ビジュアル言語(ブロック)かテキストか、日本語か英語か、チュートリアル・ドリル型か自由型かなどの違いで分けられます。小学生だったら、基本的にはビジュアル言語を日本語で行っていけばいいと思います。自由型は、自分で自由に組み立てて学ぶもので、チュートリアル・ドリル型は提示されたものをクリアしていくもの。自由型は、先生方が進行具合を見てあげる必要があるため、チュートリアル・ドリル型よりも指導の難易度は上がります」

 これらのタイプで教材を分類したのが、下記だ。

プログラミング教材の分類(利根川氏のブログから引用)
  • A:ビジュアル言語 × チュートリアル・ドリル型 → 「Hour of Code」
  • B:ビジュアル言語 × 自由型 → 「Scratch」「Viscuit
  • C:テキスト × チュートリアル・ドリル型 → 「CodeMonkey」「CodeCombat」
  • D:テキスト × 自由型 → JavaScriptPython

 「不安な先生たちは、AからB、C、Dと進んでいけばいいと思います。もし何か不安に感じることがあれば、みんなのコードにご相談いただければ全力でサポートします」と利根川氏はエールを送る。

プログラマーやエンジニアは自分が住む地域の先生を助けてあげてほしい

 全国から寄せられる相談やプログラミング体験会の開催で全国各地を飛び回る利根川氏だが、2020年に向けてさらに取り組みを加速させるつもりだ。2020年時点で「どのくらい良い状態でプログラミング必修化を開始できるか」が勝負だという。

 「小学校の先生は国内に約40万人います。先生方が前向きに取り組み、指導を開始できるよう、ありとあらゆることを行い、支援していくつもりです。目標設定や指導者研修、模擬授業など、実際に取り組みを進めながら改善していかなければならない課題はたくさんあります」と意気込む。もっとも、こうした教育機関や地域を巻き込んだ取り組みには、親の参加も欠かせない。加えて利根川氏は次のように訴える。

 「プログラマーやエンジニアの方は、自分が住む地域の先生を助けてあげてください。先生方はプログラミングもエンジニアリングもプロではありません。プロが参加することで、より良い授業ができる可能性が高まります。実際、小学校におけるプログラミング教育に関するボランティアの募集は数多くあります。ぜひアクションを起こしてください」

 避けなければならないのはプログラミング教育における格差の拡大だ。プログラミングが全ての人が備えるべき資質や能力だとすると、都市部だけに教育が滞ったり、親の貧富の差が反映されることは避けなければならない。社会にこれだけコンピュータが普及した今、プログラミング教育を行わないことは、子どもに負の影響を与える可能性すらあるといえる。

 「小学校でのプログラミング教育必修化の意義は、そこにあります。特定の子どもだけではなく、全ての子どもがプログラミングを学ぶ。何かと忙しい中学生や高校生と違って、小学生は純粋にプログラミングを楽しめます。できれば、『総合的な学習の時間』でプログラミングとしてきちんと基礎を学んだ上で各教科で応用してほしい。週1回の授業でで年間35時間、それを4年間行うのが理想ですが、現実的には年3〜5時間でしょう。それでも、『総合的な学習の時間』を軸に他の教科と組み合わせながら、実施してほしいと思います」(利根川氏)

 みんなのコードでは、実際に現場の先生とさまざまな取り組みを行っている。現場は何に悩み、どんな取り組みを行っているのか。次回は、みんなのコード主催シンポジウムで発表された、全国の小学校の取り組みを具体的に紹介する。

特集:小学生の「プログラミング教育」その前に

政府の成長戦略の中で小学校の「プログラミング教育」を必修化し2020年度に開始することが発表され、さまざまな議論を生んでいる。そもそも「プログラミング」とは何か、小学生に「プログラミング教育」を必修化する意味はあるのか、「プログラミング的思考」とは何なのか、親はどのように準備しておけばいいのか、小学生の教員は各教科にどのように取り入れればいいのか――本特集では、有識者へのインタビューなどで、これらの疑問を解きほぐしていく。



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