データベースから「データ」へ データベースウォッチャーが振り返る2016年、2017年に注目すべき技術Database Watch(2016年総集編)(4/4 ページ)

» 2016年12月28日 05時00分 公開
[加山恵美@IT]
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商用データベースベンダーはそれぞれ独自の大テーマを掲げ、クラウドファーストで進む

 最後に商用RDBを振り返ります。2016年は商用RDBでも新バージョンの発表が続きました。しかし、ベンダー各社それぞれにビジネス躍進を目的とした大きなテーマを掲げていたことから、製品単体の機能面においては話題にしにくかった印象があります。ここからも、ITに求められる役割が既に急速に変革していることがうかがえるといえます。

 米オラクルは、2016年9月に主力データベース製品の「Oracle Database 12c R2」を発表しました。特にクラウド利用時の大幅な機能強化や、クラウドベースで展開する「DBaaS(Database as a Service)」としてのプッシュが目立ちました。この機能強化からも分かるように、オラクルが今、最も力を入れているのは「Oracle Cloud」です。2017年9月に開催された同社の年次イベント「Oracle OpenWorld」では、「Amazon Web Service(AWS)」がライバルとして名指しされました。

photo 米オラクルCTOのラリー・エリソン氏

 オラクル創業者であり、現CTO(最高技術責任者)であるラリー・エリソン氏が、Oracle OpenWorldなどで、どこかの企業をライバル視するのを見たときは、筆者は決闘を挑むかのような熱さを感じて思わずぎょっとしたものです。もちろん嫌悪した敵意ではなく、彼なりの敬意の表し方なのでしょう。オラクルは2016年までにビジネスとして成長しつつあるSaaS(Software as a Service)に続き、PaaS(Platform as a Service)、そして満を持してIaaS(Infrastructure as a Service)分野とクラウド全方位で注力する意向を示しています。この方向に同調するようにOracle Databaseは進化していくことになりそうです。

 米マイクロソフトは、2016年6月に「Microsoft SQL Server 2016(以下、SQL Server 2016)」をリリースしました。2016年4月版『「SQL Server 2016」に搭載される新たなセキュリティ対策を追う』では、SQL Server 2016のインメモリ化による性能強化、セキュリティ対策、高度な分析機能を取り上げました。

 なお、SQL Server 2016はもう次期バージョンとなる「SQL Server v.NEXT」が2016年11月からパブリックプレビューとして公開されています。これは「R2」などのマイナーバージョンではなくメジャーバージョン扱いのようで、2017年中には一般提供される見込みです。

 マイクロソフトの3代目CEOにサティア・ナデラ氏が就任してから、過去に固執せずに、マルチプラットフォーム対応やオープンソースコミュニティーに歩み寄り、協調していく姿勢が実を結んできていることが背景にあります。2016年11月には、ついにLinux上で動く「SQL Server on Linux」のパブリックプレビュー版もリリースされました。

 さて、Linux版の開発はかなり苦労するのでは? と思えるかもしれませんが、実はそうでもないようです。SQL Serverには、OSとSQL Serverのストレージエンジンの間に「SQL OS」と呼ばれる層(abstraction layer)があります。基本的にはこの部分をLinuxに対応させることで「SQL Server on Linux」は実現するとされています。SQL ServerはSQL OSがあるおかげで、OSにあまり依存しない仕組みになっています。なお、このSQL OSの実体は2つのDLL(ダイナミックリンクライブラリ)で、とてもコンパクトにできているそうです。

 IBMは、マイクロソフトとほぼ時と同じくして、2016年6月にインメモリ関連機能やセキュリティ機能を強化した「IBM DB2 11.1」をリリースしました。同社が見据えているのは、最近はテレビCMや鉄道広告などマス広告でもよく目にするようなった「ワトソン」を中心としたコグニティブ技術と、それを活用した将来の社会システムの実現です。

 具体的には、技術だけではなく、技術とデータをトータルに提供する「Open for Data戦略」を基に、膨大なデータを読み込み、独自にモデル化して分析し、自然言語を理解するという強みを生かし、各方面での実用化を進めています。例えば最近では、膨大な医療文献を読み込んで解析することで、がん治療に役立てるといった医療分野での成果も報告されています。ワトソンが時代の変化を早めていきそうで、AI(Artificial Intelligence:人工知能)を踏まえたこの分野の技術者の需要は急増すると言われています。

 SAPは2016年12月にインメモリデータベースの次期版となる「SAP HANA 2」リリースしました。SAP HANA 2はデジタルトランスフォーメーションと呼ばれる、次世代型のアプリケーションプラットフォームを想定しています。一方これまでのSAP HANAはSPS12で進化を止め、新機能は「SAP HANA 2」に盛り込んでいきます。

 2017年、「データ」をめぐるシステムやビジネスはどう展開していくでしょうか。

2016年「Database Expert」フォーラム Facebookシェア数トップ20

 2016年「Database Expertフォーラム」の総合ランキングは以下の通りです。Database Watchでのランキングと同様に、Facebookシェア+コメント数のランキングを集計しました。

2016年「DatabaseWatch」Facebookシェア数ランキング
順位 タイトル シェア・コメント数 掲載日
1 実践 OSSデータベース移行プロジェクト(1):「Oracle Databaseをやめる」という選択肢 328 11月24日
2 データサイエンティストの卵、学生には無料配布:マイクロソフトが「Microsoft R Server」を公開 264 1月8日
3 日本企業を積極支援、HCM導入促進の狙いも:オラクルと富士通、クラウドで提携──富士通の国内DCからOracle Cloudを提供 221 7月6日
4 デジタル決済を促進:Visaが決済サービスなどのAPIをオープンに提供、開発者向けプログラムを開始 215 2月8日
5 データベースサポート最前線の現場から(3):【Oracle Database】2017年1月1日実施「うるう秒」の対応は大丈夫ですか? 206 12月9日
6 Database Watch(2016年9月版):OSSデータベースのMySQLとPostgreSQLは「次の段階」へ進む 205 9月13日
7 創設メンバー30社も発表:OSSのブロックチェーン技術「Hyperledger Project」が間もなくソースコードを公開 175 2月10日
8 「Microsoft Concept Graph」を公開:マイクロソフト、「コンピュータが、人間のように概念化して考えられるようになる」技術を開発 163 11月4日
9 コードはオープンソースで提供:米マイクロソフト、AWS Lambda的なサービス「Azure Functions」を発表 155 4月1日
10 コネクテッドカー関連サービスを開発:トヨタ、マイクロソフトと合弁でToyota Connectedを設立 153 4月5日
11 クロスプラットフォーム対応が着々と前進:マイクロソフト、Linux版「SQL Server」を2017年半ばにリリースへ 147 3月8日
12 Database Watch(2016年6月版):データベースから「データ」に目を向け始めたIBM 145 6月28日
13 Database Watch(2016年5月版):攻撃者が狙うのはデータベース、それなのに「データベース保護の対策が見落とされがち」ではありませんか? 133 6月1日
14 非構造化データから構造化データへの変換を支援、日本語にも対応:マイクロソフト、「Text Analytics API」を複数言語で利用可能に 133 6月24日
15 SQL Serverトラブルシューティング(1):それでは“ダメ”な「トラブル対応例」 125 6月7日
16 新社会人の必須知識 「Excel ピボットテーブル」超入門(1):ピボットテーブルとは何か──「そもそも、何をする機能か」を理解する 120 3月3日
17 オープンソースを活用:米IBM、Bluemix上のデータ関連サービスを大幅に拡充 115 2月5日
18 実践 OSSデータベース移行プロジェクト(2):Oracle DatabaseとMySQLは「何」が違うのか 「アーキテクチャの違い」を理解する 115 12月1日
19 API Connectは3月提供開始:米IBM、「全てがAPIでつながる世界」へ向けた新サービスを紹介 108 2月24日
20 Database Watch(2016年11月版):データサイエンティストが提供する「データ分析ツール」の意図をあらためて考える 106 11月9日
※2016年1月1日〜2016年12月22日のFacebookシェア数+コメント数を集計
※Facebookシェア数+コメント数は2016年12月22日時点の数値
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