デジタルトランスフォーメーションで変わる、データ管理の在り方デジタル時代の「価値を生み出す」データ管理(1)(1/4 ページ)

半ばバズワードのようになっている「デジタルトランスフォーメーション」という言葉だが、このトレンドが、ビジネスの在り方、それを支えるシステムとデータ管理の在り方に変革を求めていることは間違いない。では具体的にどのような変革が必要なのか? 本連載ではデジタルトランスフォーメーション時代に即したデータ管理法を具体的に掘り下げていく。

» 2017年01月27日 05時00分 公開
[木島 亮伊藤忠テクノソリューションズ]

 「デジタル」と聞くと、「IT」以前の古い言葉のような印象を受けるのは私だけではないだろう。最近、「デジタル社会/時代」「デジタルビジネス」「デジタルトランフォーメーション」という言葉をよく目にするが、その場合の「デジタル」という言葉は、「新しい言葉」として理解する必要がありそうだ。

 そしてこうしたトレンドの中、テクノロジーの力を使って生み出した新たな価値が既存の商流や業界構造を変えてしまう“ゲームチェンジ”が起こりつつある。とりわけビジネスの軸となる「データ」をどう扱うか、利用するかが、勝敗を左右するカギになると目されている。

 ではそうした“デジタルトランスフォーメーション時代”、データ管理には何が求められるのだろうか――本連載では、漠然としたイメージも強い「デジタルトランスフォーメーション」や「デジタルビジネス」の中身を確認した上で、その実践のために必要なデータ管理の在り方を具体的に解説していこうと思う。これにより、スタートアップや新興企業ではない「一般的な企業」の変革を後押しすることが狙いだ。

 では早速、「デジタルトランスフォーメーション」という言葉の中身をあらためて確認することから始めてみたい。

今あらためて、「デジタルトランスフォーメーション」とは何か?

 今日、モノとモノ、人とモノが、場所/時間の制約なく、相互にデータでつながるための技術が出そろい始めている。そのつながりにより新たなサービスが生まれ、今までにないユーザー体験を作り出せるようになった。このような時代の変化を「デジタルトランスフォーメーション(デジタル革新:DX)」と呼ぶ。

 DXは、広義では「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面で、より良い方向に変化させること」のように、IT環境/時代の変化を指すが、企業とユーザー、もしくは、企業間のデータ連携/コミュニケーションを推進し、企業が自らのビジネスを変革させることを指す場合もある。

 DXを語る上で、「新たなユーザー体験」により既存ビジネスを脅すプレーヤーとして、必ずと言っていいほど、デジタルディスラプター(創造的破壊者)のUberやAirbnbの名前が挙げられる。既存の金融ビジネスを破壊したFinTech企業のペイパル、ミントなども同様だ。ディスラプターに共通していることが、クラウドやビッグデータ/アナリティクス、モバイル、ソーシャルに加え、IoT、人工知能、オープンAPIなどの最新テクノロジーをビジネスに活用している点である。

 しかも、技術の進歩だけではなく、ユーザーとのつながりにモバイル環境が果たした役割も大きく、リアルタイムに最良のユーザー体験(ユーザエクスペリエンス:UX)を提供している。特に2000年以降に成人したミレニアル世代は、学生時代からインターネットに触れてきたデジタルネイティブであり、モバイルなどITによるコミュニケーションや購買に抵抗がなく、上記のような新興企業の新しいサービスを積極的に活用する傾向にある。この「UXの実現」に、DXをひも解くカギがありそうだ。

デジタルビジネスを構成するテクノロジーとは

 「DX」と「デジタルビジネス」について、調査会社のIDCとガートナーの定義を見てみよう。

IDCによる「DX」の定義

企業が第3のプラットフォーム技術「クラウド、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル、モビリティ」を活用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデル、新しい関係を通じて価値を創出し、競争上の優位性を確立すること


ガートナーによる「デジタルビジネス」の定義

仮想と物理の世界(デジタルと現実の世界:※筆者補足)を融合して人/モノ/ビジネスが直接つながり、顧客との関係が瞬時に変化していく状態が当たり前のビジネス形態


 なお、ガートナーは上記に加え、「力の結節(Nexus of Forces:ソーシャル、モバイル、クラウド、インフォメーションという4つの力が統合された状態)により、ビジネスの変革が起きている」と説明している。IDC、ガートナー、共に「4つの技術要素と、企業とユーザーの新たな関係」に着目していることが理解できる。

 デジタルビジネスの文脈で、「よく耳にする新たなビジネストレンドがシェアリングエコノミーだ」などと言われても、一般企業はピンとこないだろう。しかし、現在、ビジネスのゴールが「モノを売る」から「サービスを売る」さらに「UXを提供する」に変わってきている。その現実を受け止め、「UXを再構築することがデジタルビジネスのゴールである」と理解するとピンとくる。

 IDCとガートナーが以上の定義で使用した技術要素とその目的をマッピングしてみたのが以下の表だ。目的は3つ、「ビジネス俊敏性を高める」「データの収集/情報の利活用」「UXの実現」であることが分かる。

IDC「第3のプラットフォーム技術」 ガートナー「力の結節」 技術要素 目的
クラウド クラウド クラウドコンピューティング ビジネスの俊敏性を高める
ビッグデータ/アナリティクス インフォメーション ビッグデータ/アナリティクス データの収集/情報の利活用
ソーシャル ソーシャル ソーシャルメディア データの収集/情報の利活用、UXの実現
モビリティ モバイル モバイル/スマートデバイス UXの実現

 以下は、「目的」に着目してテクノロジーの例を列挙したものだ。

目的 手段 テクノロジー例
(1)ビジネスの俊敏性を高める 素早く変化し続けるビジネスに追随するシステムの実現、失敗改善に耐えうる柔軟なインフラ パブリッククラウド、XaaS、クラウドストレージ、ハイブリッドクラウド、マルチクラウド、プライベートクラウドを実現するための技術(ハイパーコンバージドインフラ、オールフラッシュ、SDS、オブジェクトストレージ、仮想化、コンテナ、OpenStack) など
(2)データの収集/情報の利活用 幅広いデータ収集と情報の価値を最大化し、既存の発想から脱却し新たなビジネスチャンスを得る手段 ビッグデータ/アナリティクス、BI、ソーシャルメディア、IoTプラットフォーム、センサー、AI(機械学習、ディープラーニング)、GPUコンピューティング、オープンAPI、デジタルマーケティング/アドテクノロジー、スマートマシン(ロボット、ドローン)、アーカイブ、コピーデータ管理、非構造化データの可視化など
(3)UXを実現 ユーザーとコミュニケーションし、リアルタイムなUXを実現するためのテクノロジー/インタフェース ソーシャルメディア、モバイル/スマートデバイス、スマートマシン(ロボット、ドローン)、3Dプリンタ、AR/VRなど
(4)安心/安全/止まらないシステムを実現 企業とユーザーの両方の立場において、安心して提供/利用できるためのテクノロジー バックアップ、ビジネス継続、高可用性、セキュリティ、暗号化、監視、情報ガバナンス、訴訟/コンプライアンス対策、プライバシー対策、インフォメーションアベイラビリティ、運用自動化、ライフサイクル管理など

 個々の技術に着目するのではなく、このように目的別に分類することで、DXに対する理解がさらに進むのではないだろうか。図式化すると以下の図1のイメージになる。

ALT 図1 デジタルビジネスを構成するテクノロジー《クリックで拡大》

 「(2)データの収集/情報を利活用するためのテクノロジー」「(3)UXを実現するためのテクノロジー」については、お互いに補完し合う面もあり、ソーシャルメディアのように2、3の両方に属するテクノロジーもある。

 また、デジタルビジネスの文脈で議論されることは少ないが、「(4)安心/安全/止まらないシステムを実現するテクノロジー」も忘れてはいけない。従来のテーマである(4)もモダナイズしなければ、デジタルビジネスも既存ビジネスも、すなわちビジネスそのものを安定運用することができないからだ。

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