三菱ふそうトラック・バスのCIOが「グーグルを目指す」と語る真意とは特集:IoT、FinTech時代、「求められるエンジニア」になるためには(3)(2/2 ページ)

» 2017年01月30日 05時00分 公開
[文:吉村哲樹/インタビュー:内野宏信,@IT]
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いま求められるのは、技術とビジネスの間の橋渡しができるエンジニア

編集部 そうした取り組みを進めるに当たり、システム開発はどのような体制で行っているのでしょうか。

ベック氏 IT部門には2つあり、1つは既存システムを見るチーム、もう1つがコネクティビティやコグニティブインテリジェンスの分野に携わる、総勢25名ほどの「デジタルソリューションチーム」としており、デジタルトランスフォーメーションの取り組みは後者が担当しています。なお、デジタルソリューションチームとは別に、先ほど話したビッグデータに携わるチームに15名がいますから、デジタルトランスフォーメーションというくくりでは、約40名が携わっていることになります。

ALT 「デジタルソリューションチームは、既存システムの運用管理を担当するチームとは組織を分けている。前者と後者では目的も求められるマインドセットも全く異なる」

 デジタルソリューションチームはビジネス側、テクノロジ側、両方の人材で構成し、ユニークなアイデアを発想できる、実現できる組織としています。ビジネス側がアイデアを創出、テクノロジ側が実行ということではなく、“共にソリューションを発想、実現している”のです。

 これを実現できるよう、デジタルソリューションチームには、既存システムの運用管理を担当するチームとは、異なるマインドセット、スキルセットを持つメンバーを集めています。マインド面においては、イノベーティブであり、かつリスクを恐れない姿勢が求められます。また、この分野は何よりスピードが求められますから、アジャイル開発によって顧客やビジネスの要望を素早くシステムに落とし込むスタイルを採っています。

編集部 貴社のように、ビジネスとIT、それぞれの人材で1つのチームを構成するケースは増えつつあるようですね。また一般に、デジタルビジネスの領域では「周到に計画を立て、ミスなく着実にこなす」スタンスではなく、「トライ&エラーを繰り返し、正解を模索する」といった、既存システムの開発・運用とはおよそ正反対のスタンスが求められることから、IT部門を2つに分ける動きも増えているようです。貴社の場合も、担当領域の目的の違いに基づいてチームを分けているわけですね。

ベック氏 そうですね。ただ本当は、デジタルソリューションチームのメンバーをさらに増やして開発体制を強化したいところなのですが、アジャイル開発のやり方に適した人材を探すのは、特に日本では、なかなか難しいのが現実です。

編集部 アジャイル開発ができる人材が少ないことは、特に日本の場合、大胆にリスクテイクするより、与えられた仕事をそつなくこなす人材の方が高く評価されがちな日本企業特有の文化も背景の1つとなっているように感じます。しかし、今後は日本企業もアジャイルな考え方、企業文化にシフトしていく必要があるわけです。2つのIT部門を作るのも1つの方法とは思いますが、それ以前に新しい文化、考え方に変えるのはかなり難しいのでしょうね。

ベック氏 弊社は2003年からダイムラーグループの一員となり、すでに13年間にわたってグローバルなビジネス感覚が社内に注入されてきましたから、一般的な日本企業と比べれば、リスクテイクが推奨されるカルチャーが根付いているかもしれません。

ALT 「企業文化の変革は一朝一夕にできるものではない。弊社も今に至るまでに13年かかっている」

 とはいえ、弊社においても、そうしたカルチャーが一朝一夕に根付いたわけではありませんし、デジタルトランスフォーメーションの取り組みもまだまだ途上にすぎません。一般的な日本企業の場合も、一気に文化を変えることは無理としても、小さな実績を積み上げながら、少しずつリスクテイクできる文化に変えていくことは十分可能なのではないでしょうか。

編集部 ただ、日本企業はIT活用に対する意識にも課題があるといわれています。CIO(最高情報責任者)やCTO(最高技術責任者)を設ける企業も増えてはいますが、依然としてITは「ビジネス機会拡大」ではなく「コスト削減」の手段と捉えている傾向が強いようです。IT部門に対しても、コスト削減を第一に求める経営者は少なくありません。

ベック氏 確かに、IT部門を単なるコストセンターと捉えているだけでは、ITがもたらす新たな価値を獲得できず、ひいては時代の変化に取り残されてしまうでしょう。とはいえ、企業活動を継続していく上で、コストの観点は非常に重要です。私自身もデジタルトランスフォーメーションの取り組みを進める上で、決して無尽蔵にお金を使えるわけではありません。限られた予算の中でやりくりしながら、新たな取り組みを進めているのです。

 ただ近年はテクノロジが急速に進歩していますし、選択肢も豊富にあり、「ある特定の技術でなければ実現できない」といったことはほぼなくなっています。従って、自社の目的に応じて、新しい技術を進んで選定・導入することがイノベーティブな取り組みを加速させつつ、同時にコスト削減も達成するポイントになると考えています。われわれは3年前、こうした考え方を「Smart Saving」と名付け、組織的に取り組んでいます。単にコスト削減だけを考えるのではなく、テクノロジの力を使って新たな価値を生み出しながらより優れたコスト効率を狙っていくのです。

ALT 「テクノロジーとビジネスを橋渡しできるエンジニアの役割が今後は一層重要になる。組織としては、決められた予算の枠内で新たな価値を追求することが大切だ」

 一方、現場のエンジニアにとっては、デジタルトランスフォーメーションを実現していく上で、これまで以上に重要な役割が求められるようになっていくでしょう。特に開発者は、企業に高い価値をもたらすために、常に最新のテクノロジー動向にアンテナを張りめぐらせて、それらが「ビジネスにどう役立てられるか」を常に考え続けなければいけません。逆に言えば、そうして“テクノロジーとビジネスを橋渡しできる能力”を身に付けられれば、企業や社会に大きく貢献できると考えます。

特集:IoT、FinTech時代、「求められるエンジニア」になるためには 〜デジタルトランスフォーメーションにどう対応するか〜

物理の世界とテクノロジーを結び付け、新たな価値を創出する「デジタルトランスフォーメーション」が進む中で、ITサービス開発競争が国内外で激化している。これを受けて、今ビジネスの主役は、まさしくエンジニアとなりつつある。だが同時にこのことは、「スピード」を担保できない、「価値」を生み出せないエンジニアは活躍の場が縮小していくことも意味する。もはや従来型のスキル、スタンスだけでは対応できない時代が、すぐそこまで来ているのだ。ではIoT、FinTechにとどまらず、各業種でサービス開発競争が激化する中、「求められるエンジニア」であり続けるためにはいったい何が必要なのか?

本特集ではキーパーソンの声を通じて、「いま身につけるべきエンジニアのスキルセット」を明確化する。



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