ベンダーのプロジェクト管理義務(べんだーのぷろじぇくとかんりぎむ)法律用語解説|システム開発契約(基礎編)(3)

契約書に書かれている法律用語、トラブル時にIT訴訟で争点となるかもしれない契約の種類。エンジニアなら知っておきたいシステム開発契約に関わる法律用語を、IT紛争解決の専門家 細川義洋氏が分かりやすく解説します。

» 2017年03月24日 05時00分 公開

ベンダーのプロジェクト管理義務とは何か

 ベンダーのプロジェクト管理義務とは、ITの専門家であるベンダーが「請負契約のシステム開発で、ユーザーの目的を達成するために、自らの知見、経験を発揮し、プロジェクトを円滑に進め、ITの専門家としての責任を果たすこと」を約束するものです。

 例えばプロジェクトの進捗(しんちょく)が遅れそうなときは、ベンダーはいち早く察知し、ユーザーに伝え、対策を提案しなければなりません。技術や体制などの問題があってプロジェクトがうまく進まないとき(進みそうにないとき)も、問題をリスクや課題として抽出し、対応策をユーザーに提案しなければいけません。

 ベンダーがこの義務を果たさず、プロジェクトがうまくっていないのに対策を提示せずに放置すると、不法行為と見なされます。損害賠償の対象にもなり得るので要注意です。

ベンダーのプロジェクト管理義務の特徴

 プロジェクト管理義務は、ユーザーに起因するリスクや課題にも当てはまります。

 例えばユーザーが次々と要件を追加、変更してスケジュールが苦しくなったときには、ベンダーは要件追加のメリット、デメリットを説明した上で、代替策を講じる必要があります。またそのために必要なら、スケジュールの延期や追加見積もりもしなければなりません。

 これ以外でも、ユーザーの体制が不備であることに気付いたり、要件の提示や各種情報提供が遅れたときも、ベンダーはユーザーに是正を求める必要があります。

 無論、スケジュールや費用の変更も、各種の是正依頼も、ユーザーが断ったり無視したりするのであれば、ベンダーはとがめられません。断られても、返事がなくても、とにかく「言うべきことは言う」ことが大切です。

ベンダーのプロジェクト管理義務適用の例外

 これらの義務をベンダーが負うのは、「プロジェクトの円滑な遂行を妨げること、妨げないこと」の区別を付けられるのが、専門家だけだからです。要件の提示が遅れることがどれほど深刻な問題なのかは、専門家にしか分かりません。

 ですから、ユーザーにも高度な専門知識がある場合には、必ずしもベンダーだけがプロジェクト管理義務を負わないことも考えられます。

ベンダーのプロジェクト管理義務のポイント

  • ITの専門家であるベンダーには、プロジェクトを円滑に進める義務がある
  • ユーザーが原因のリスクや課題も、ベンダーが管理しコントロールする
  • ユーザーも専門家の場合は、ベンダーだけの義務とならない可能性もある

ベンダーのプロジェクト管理義務が争点となった裁判解説

細川義洋

細川義洋

ITコンサルタント

NECソフトで金融業向け情報システムおよびネットワークシステムの開発・運用に従事した後、日本アイ・ビー・エムでシステム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーおよびITユーザー企業に対するプロセス改善コンサルティング業務を行う。

2007年、世界的にも希少な存在であり、日本国内にも数十名しかいない、IT事件担当の民事調停委員に推薦され着任。現在に至るまで数多くのIT紛争事件の解決に寄与する。

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