秘伝のソースは門外不出。お客さまには差し上げません「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(40)(2/3 ページ)

» 2017年04月24日 05時00分 公開

ソースコードの引き渡し義務が争われた裁判

 まずは判例を見ていただこう。

大阪地裁 平成26年6月12日判決から抜粋

あるソフトウェア開発業者が、出版社とのソフトウェア開発委託契約に基づきテストエディタの開発を請け負った。ただし、開発に当たり、契約書は作成されず、見積書などのやりとりがあったのみだったが、開発および、その後の改修作業は無事に完了した。

ところが、あるとき、ソフトウェア開発業者が、開発業を廃業すると出版社に申し入れた。出版社は、その後のメンテナンスのためにシステムのソースコードを引き渡すよう求めたが、ソフトウェア開発業者は、これを断った。

そこで、出版社は、ソースコードを渡さないのは、契約に定める義務を怠ったものだとして、損害賠償を求めた。

 少し補足をすると、本件では、文中に示すように契約書は作成されていない。それでも出版社が「契約に定める義務」と言っているのは、「見積書などのやりとりで、実質的に契約は成立していた」という意味で、裁判所も異論を述べていない。

 前述の通り、本来なら納品物はきちんと契約書に明記すべきだ。しかしそれがなされなかった場合、ソースコードはどちらの物になるのだろうか。

※裁判の経緯を見て「自分が商売を辞めると言っているのに、ソースコードを渡さないなんて、ユーザーが困るではないか」という感情が湧くかもしれないが、本稿ではそうした思いは、いったん排除して考えていただきたい。問題はあくまで「約束をしなくても、ソースコードを引き渡す義務がベンダーにはあるのか」(裁判所でよく使われる言葉に言い換えると、「ソースコードの著作権は、原始的にはどちらに帰属するのか」)という点だ

引き渡す約束のないソースコードは、どちらのものか

 判決の続きを見てみよう。

大阪地裁 平成26年6月12日判決より(続き)

本件ソースコードの著作権は原始的に(このソースコードを制作した)ソフトウェア開発業者に帰属していると認めることができる。

その一方で、(中略)見積書など、出版社とソフトウェア開発業者との間で取り交わされた書面において、本件ソフトウェアや本件ソースコードの著作権の移転について定めたものは何等存在しない。

(中略)

以上によると、ソフトウェア開発業者が、出版社に対し、本件ソースコードの著作権を譲渡したり、その引渡しをしたりすることを合意したと認めることはできず、むしろ、そのような合意はなかったと認めるのが相当である。

 大阪地裁は、「契約(契約書だけででなく、他の合意文書も含む)に特段の記載がない場合、受注者にソースコードの引渡義務はない」と判断した。

 実際、私が開発者として参加したプロジェクトでも、ソースコードを発注者に渡す際には、本来の開発費用とは別にかなり高額の費用を請求していた。

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