総務省 情報通信国際戦略局に聞く、IoT時代のSDN/NFV、個人情報、デジタルビジネスの在り方Interop Tokyo 2017 特集(2/2 ページ)

» 2017年05月08日 05時00分 公開
[山崎潤一郎@IT]
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ネットワーク仮想化や5G技術を活用してリスクに対応する

 System of Systemsとして異領域のIoTシステムを連携することで、端末が吐き出す膨大なデータに新たな価値が生まれる可能性は理解できるのだが、理解が深化するにつれ新たな疑問も生じる。外的なリスクに対するセキュリティ対策である。あらゆる“モノ”がネットワークに接続するIoTにおいて、ハッキングなどへの対応が課題となっているはご存じの通り。ましてや、System of SystemsとしてIoTシステムが相互に接続するようになると、芋づる式に他のIoTシステムにも脅威が波及する。

 そして、リスクの種類や質という点でも、従来のインターネットとは様相を異にするのではないだろうか。サーバ、PC、スマートフォンといった、ある意味で同種のコンピューティングデバイスが接続しているインターネットとは違い、技術者の考え方や設計思想も異なれば、法令など製品として満たすべきレギュレーションも異なる。多様で異種なるデバイスが“モノ”として混然一体となって接続されているのがIoTの世界である。当然ながら、システム運用の方法や求められるセキュリティ水準も異なる。

 その点は十分考慮し、図2にも『システミックリスクへの対応(security by design)』という形で盛り込んでいるという。ここでキーワードになるのが、ネットワーク仮想化技術、SDN(Software Defined Network)/NFV(Network Function Virtualization)だ。IoT時代になると、数ビット、数バイトの小さなデータから、8K映像のような大容量のトラフィックを自在に制御しなければならない。あるいは、通常はネットワークを遮断しておき、データを送受信するときだけ接続する、といった柔軟な制御も必要になる。SDN/NFVは、そういったニーズを満たすためのアプローチとして有効だという。

 「5G構想の一部として盛り込まれている『ネットワークスライシング技術』にも期待しています。低コストで専用線のような安全性の高い独立したネットワークを構築することができます。

 さらに付け加えると、使用年数の長いIoT機器の場合、脆弱(ぜいじゃく)性などのセキュリティ管理にブロックチェーンを活用することも考えられます。ブロックチェーンは、改ざんが極めて難しい巨大な分散型データベースといえるので、無数の機器の管理に向いているかもしれません。現在、経産省と連携して発足したIoT関連の政策を推進するチームで検討を開始しています」

個人情報や機器が排出するデータを売買する情報取引市場

 System of Systemsによるシステム間のデータ連携に加え、IoTデータの活用を幅広く促す仕組みも想定されている。「データ取引市場」という形で最上位のレイヤー『サービス(データ流通)層』(図2)に設定されている部分がそうだ。具体的にはどのようなものなのだろうか。

 「PDS(Personal Data Store)や情報銀行といったものをイメージしています。例えば、スマートフォン(スマホ)などが取得するさまざまなパーソナルデータを、スマホの持ち主である個人が業者に提供することで、ポイントのような形で利益を得る仕組みを想定しています。あるいは、個人のデータだけでなく、企業などが自社のIoTシステムから取得したデータを他社に提供する際の仲介役的ポジションのサービスも考えられます」

 実は、スマホが取得する個々人のデータを他者に提供し、何らかの利益を得る、という仕組みは既に可動している。エブリセンスは、住所、氏名、位置情報、ヘルスケアなどのデータを第三者に提供することで、ポイントが得られるサービスを構築・提供している。提供するデータの範囲などは、自分で設定できる。「データ取引市場」を理解する上で参考になる例だ。

マイナンバーカードのスマホ搭載と、IoT時代に適した制度の構築

 スマホと個人情報という話で連想するのが、現在、マイナンバーカードに埋め込まれている公的個人認証の仕組みをNFC対応のスマホにも持たせる計画である。データ主導社会の中で、われわれ国民がその利便性を享受するためには、電子証明書の普及は欠かせない。現状、マイナンバーカードの申請は約1300万件(2017年2月19日時点)とのことだが、スマホ対応の進行具合はどうなっているのだろうか。

 「2017年3月まで行っていた実証実験で、若干の課題があるものの、実現できることを確認済みです。Android端末は、SIMカードの空き領域に電子証明書を埋め込みました。iOSの場合は、SIMカードを利用できないので「Keychain」と呼ばれるライブラリに埋め込みます。ただ、電子証明書をスマホに搭載するためには、公的個人認証法の改正が必要です。現状では、電子証明書は1人につき1枚までしか発行が許されないからです。2019年中、つまり東京オリンピックまでには、スマホへの電子証明書のダウンロードサービスの実現を目指しています」

図3 マイナンバーカード利活用推進ロードマップ(抜粋)(公的個人認証の電子証明書に関し、平成31年(2019年)中に「SIMカード等へのダウンロードサービスの実用化を図る」とある)

 スマホで改札口を通過したり、買い物を済ませたりする便利さを体現してしまった筆者としては、電子証明書のスマホ搭載は、ぜひ実現してほしい施策である。ただ、個人のマイナンバーを表記する役割を併せ持つマイナンバーカードだけに、その存在をスマホの中だけに集約することはできない。スマホに電子証明書を搭載したとしても、マイナンバーカードも併せて保有する必要がある。そのためには法改正が必要という話になるのだろう。

 法律などの制度という部分において、気になることがある。技適(技術基準適合証明・技術基準適合認定)だ。電波を発するなど、通信機能を持ったIoT機器を開発する場合に避けて通れない制度(省令)である。ベンチャー企業が新しい発想でIoT機器を開発・販売する際の障壁になっている側面もある。認証制度の必要性は理解しているが、現在よりハードルを下げて、ものづくり系のベンチャー企業の登場を促進する考え方はないのだろうか。この点に関し谷脇氏は、あくまでも一般論と前置きした上で、次のように語ってくれた。

 「IoTの時代には、通信に関する制度的な枠組みをもう一度、いちから検証し直すことは必要だと思います」

大きなデータが宝の持ち腐れとならないために意識改革が必要

 インタビューの終盤には、IoT時代の政府や行政の在り方まで話が及んだ。

 「政府や行政の在り方、政策立案実行の枠組みもデータ主導社会に適合させなければなりません。例えば、改ざんが極めて難しいブロックチェーンの仕組みを導入することで行政手続のかなりの部分を省力化できる可能性もあります。また、行政関連のデータをオープンデータとして単に公開するだけにとどまらず『Evidence Based Policy Making(EBPM)』という考え方に基づき、データを人工知能で解析し政策を実行した場合の効果や有効性を事前に確かめることができるようにします。それを行政の現場にフィードバックすれば、より生産性の高い業務の実現が可能となります」

 企業のIT投資に対する姿勢についての日米の比較を表す図4を見てほしい。ビジネスモデル変革や製品・サービスの開発強化に重点を置くことで、「攻めのIT投資」を行う米国企業に対し、日本企業のそれは、効率化とコスト削減を重視する傾向にあり「守りのIT投資」と分析されている。

図4 IT投資の日米比較(「攻めのIT投資」を行う米国企業に対し効率化とコスト削減を重視する日本企業の場合「守りのIT投資」と分析される)(平成28年「情報通信に関する現状報告」(平成28年版情報通信白書)から引用)

 「官」「民」の両方にいえることだが、図4を眺めているとデータ主導社会を実現しIoTならではの新たな価値を創造するためには、マネジメント層から現場に至るまで業務に関わる全ての人々の意識改革が必要になるのではないかと思えてくる。IoT機器を導入し、単に「IoT始めました」という話に終始していたのでは、「守りのIT投資」の枠を出ず、膨大なデータが宝の持ち腐れとなるだけで、新たな価値を生み出す環境を創り出すことはできないだろう。今回、総務省が提示した施策が意識改革を促すきっかけとなるのだろうか。今後も注視していきたいところだ。

著者紹介

山崎潤一郎

長く音楽制作業を営む傍ら、インターネットが一般に普及し始めた90年代前半から現在に至るまで、IT分野のライターとして数々の媒体に執筆を続けている。取材、自己体験、幅広い人脈などを通じて得たディープな情報を基にした記事には定評がある。著書多数。ヴィンテージ鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」「Combo Organ Model V」「Alina String Ensemble」の開発者であると同時に演奏者でもあり、楽器アプリ奏者としてテレビ出演の経験もある。音楽趣味はプログレ。

TwitterID: yamasaki9999


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