マイクロソフトが考えるコンピューティングの未来とは特集: Build 2017(1/2 ページ)

2017年5月に開催されたマイクロソフトの開発者向けイベント「Build 2017」で、コンピューティングの将来像をどのように提示したかを考察していこう。

» 2017年05月19日 05時00分 公開
[かわさきしんじInsider.NET編集部]
「特集: Build 2017」のインデックス

連載目次

 2017年5月10〜12日(共に現地時間)、マイクロソフトの開発者向けイベント「Build 2017」が開催された。本稿では、このイベントを通して、マイクロソフトが提示した将来のコンピューティング像(とそれを実現するための技術)について考察していこう。

開発者の責任

 初日の基調講演で、マイクロソフトのCEOであるサティア・ナデラ氏はインテリジェントなデバイスの普及やインターネット上でやりとりされるデータの爆発的な増加によって「社会や経済のあらゆる場面に開発者が影響を及ぼす機会はかつてないほどに大きくなっている。そして、この機会の増加に伴い、開発者の責任も非常に大きなものになる」と語っている(発言内容は筆者による意訳)。技術には意図せぬ影響があり、そこからディストピア的な世界が生まれないようにするのは開発者の責任でもある。そうではなく、世界をよき方向へと進め、人々が大切に思っていることやものが失われることがないようにするにはどうすればよいか。開発者にはその設計図を描けるだろう、というのがナデラ氏の思いだ。

 そのために必要なこととして挙げられたのが次の3つだ。

  • 技術によって、人がより多くのことをできるようにする
  • 技術によって、より多くの人が社会に参画できるようにする
  • 安心して技術を使えるようにする
世界をよき方向へと進めるための原則 世界をよき方向へと進めるための原則
Build 2017 Day 1 Keynoteから(以下、ストリーミング画像のキャプチャーはBuild 2017の初日/2日目の基調講演からのもの)。「inclusive design」とは「あらゆる人々が利用できるようなデザイン」と訳すと、意味が分かりやすくなるだろう。

 最初の「技術によって、人がより多くのことをできるようにする」というのはここ数年、マイクロソフトが大きく主張していることであり、それはつい先日にリリースされた「Windows 10 Creators Update」という名前にも関わっている。「なぜ、Creators Update?」と筆者は引っ掛かりを感じていたのだが、それは「Creator」という言葉が指すものを誤解していたからだ。職業的な「クリエイター」ではなく、「個人的なものであれ、商業的なものであれ、何か(ビデオクリップでも絵でも、何らかのソフトウェアプロダクトでも)を作ろうという人」がここでいう「Creator」であり、そうした人々にとってより使いやすいOSであろうという意図が「Creators Update」という名前には込められている。このことは2日目の基調講演の最初のデモを見るとよく分かるはずだ。Windows 10 Fall Creators Updateは、開発者やクリエイターに限らず、ごく普通のユーザーが持つ好奇心や想像力を自然な形で引き出してくれるという意味で「ユーザーをクリエイターにアップデートする」OSだともいえるだろう。

Windows 10 Fall Creators Updateに搭載予定のStory Remixアプリのデモ Windows 10 Fall Creators Updateに搭載予定のStory Remixアプリのデモ
3Dのオブジェクトを動画内に自由に埋め込める。AI技術を使い、動画に映っているものを認識して、埋め込んだオブジェクトと関連付けることで、埋め込んだオブジェクトが動画内でも関連付けられたオブジェクトを追尾して移動していく。ここではサッカーボールと火の玉を関連付けることで、動画内で火の玉となったボールがゴールに向かうようになっている。こうした処理をOSに付属のアプリで簡単に作成できてしまう。

 話を元に戻そう。2つ目の「技術によって、より多くの人が社会に参画できるようにする」とは、画像認識、音声認識、自然言語解析などのAI技術を活用することで、それまで社会への参画が難しかった人々がそうできるようにしようということだ。それを端的に表現したのが、以下の画像に示すデモだ。

腕時計型のデバイスを装着することで、パーキンソン病による手の震えを抑制し、文字をうまく書けるように 腕時計型のデバイスを装着することで、パーキンソン病による手の震えを抑制し、文字をうまく書けるように
詳細については「パーキンソン病「手の震え」を抑える腕時計型デバイス Microsoftが公開」なども参照されたい。技術によって多くの人を助けられることが実感できる。

 先に述べたディストピア的な世界とは、技術によって人々を監視、管理しようとする世界でもある。あるいは世界中に脅威を与えている「WannaCry」は米国家安全保障局(NSA)がWindowsの脆弱性を知っていながら、情報を得るために黙っていたことがきっかけであるという話もある。情報技術が世界のあらゆる場面で使われるようになった今では、こうしたことが起こらないようにするために、技術を安心して使えなければならない。これが3つ目に挙げたことだ。

 「世界を(マイクロソフトが考えるところの)よき方向へと進め、人々が大切に思っていることやものが失われることがないようにする」には、これからの開発者は今挙げた3つのことと無関係ではいられないというのが、初日の基調講演の大きなポイントだ。

 もう1つ重要なことがある。マイクロソフトのミッションとは皆さんおなじみの「Empower every person and every organization on the planet to achieve more」(世界中のあらゆる人々、あらゆる組織がより多くのことを成し遂げることができるようにする)であるが、マイクロソフトはもともと開発者を大事にしてきた会社だった。以前であれば、マイクロソフトが考える「開発者」とは「MS-DOSやWindowsを中心としたエコシステムを成長させてくれる人たち」であったが、現在のマイクロソフトはそうではない。「あらゆるプラットフォームを使っているあらゆる開発者」が今のマイクロソフトが考える「開発者」となっている。

マイクロソフトのミッション マイクロソフトのミッション

 そればかりか、「彼らの(あるいは彼ら以外の)技術を使って成し遂げられる何か、価値のあること」も彼らは受け入れようとしている。この数年間で、マイクロソフトはオープンソースの世界との歩み寄りを進めている。そして、このことがマイクロソフトの企業文化を大きく変貌させ、このような大きな意識の転換が起きたといえるだろう。

 現在そしてこれからはWindowsのみならず、さまざまなデバイスでより自然な形でコンピューティングが行われるようになるものとして、クライアントサイド/サーバサイドの両者でマイクロソフトはそのために必要なものを提供しようとしている。それが今回のBuild 2017で発表された(あるいは既に発表されている)さまざまな技術である。

 本稿ではこれらの技術を個別に取り上げて詳しく説明はしないが、クラウドファースト/モバイルファーストの時代、さらには「その先の世界」において、彼らが重要だと考えている技術(開発者がこれから注目していくべき技術)がこのイベントで明瞭になったといえる。それはクラウド、AI、bot、Mixed Reality、ナチュラルUI、IoT、マイクロサービス、アナリティクス、ワークフロー、サーバレスといったキーワードで表されるものだ。今述べた「その先の世界」とは、AIをベースとしたインテリジェントなクラウドと、IoTをベースとしたインテリジェントなエッジデバイスによって、リアルタイムに膨大な量の通信が行われ、そこから得られたデータを使用して、適切な処理を適切なタイミングでさまざまな形(モバイルデバイスかもしれないし、自然言語やジェスチャーかもしれないし、Mixed Realityのような形かもしれない)で行う世界のことである。

 いずれにせよ、マイクロソフトが見据えるこれから数年後のコンピューティングとは「クラウドをベースとして、AIを活用して、さまざまなデバイスで、サーバレスに処理する」ものである。

これからのコンピューティングの形 これからのコンピューティングの形

 次ページでは、これを実現するためにどんな技術が必要になってくるのかを、2日目の基調講演のストリーミングから考察してみよう。

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