キユーピー、機械学習を生かした原料不良検査は、「現場力を生かすためのAI」の第1章Google Cloud Next Tokyo 17(2/2 ページ)

» 2017年06月23日 05時00分 公開
[三木泉@IT]
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 学習作業はクラウド上で、GPUを使った仮想マシンによって行った。学習に要した時間は約10時間。実験段階で、人による検知力を上回る結果が得られているという。

実験で、既に人による検知力を上回る結果

 8月に本格稼働を始めるのは、ベビーフードを製造している工場のうち1カ所。ダイスポテトに加え、数種類の原料を対象とする。その後別の工場にも展開する。

 キユーピーはよく知られている通り、ベビーフードのほかに多様な商品を製造している。原材料の目視検査という大変な作業は、同社工場のあちらこちらで行われている。

 「例えば、自動割卵機で割られた卵に品質上の問題がないかを、1秒間に10個のペースで検査しなければならない」(荻野氏)

 そこで、さまざまな商品の原料を対象に同様な検査システムを開発、さらに自社工場だけでなく、原料サプライヤーでの導入を進めていきたいと、荻野氏は話した。

 当面、機械学習結果の適用は、工場内にパソコンを設置して行う。だが、多数の工場、サプライヤーで使われることになれば、システムの運用・メンテナンスの都合から、適用についてもクラウドで行うようになっていくだろうとしている。「特にグローバルな(日本以外の)サプライヤーでの利用を考えると、クラウドが適していると思う」(荻野氏)

原料検査から始まるキユーピーの機械学習/AI活用

 荻野氏は、原料検査にとどまらず、今まで解決が難しかった製造現場のさまざまな課題に、機械学習を適用していきたいとしている。

 同氏が例として挙げたのは、「エネルギーコスト低減」「製造現場におけるロボットのティーチングにかかる時間をゼロにすること」「設備の故障予兆診断によるゼロダウンタイムの実現」、そしてこれは製造現場ではないが「商品開発支援」だ。

 では、例えば需要予測に基づく生産計画の最適化についてはどうなのかと聞いてみた。荻野氏は「営業からの生産の要求は、毎日変わるため、毎日生産計画を変えているのが現状。根本原因は、需要予測がうまくできていないことにある。そこで、精度の高い需要予測モデルをどうしたら作れるかを検討している。需要予測に基づいて生産計画を立て、配送計画につなげられるようになればいいと考えている」と答えた。さらに生産計画と、例えば気象情報などから予測する野菜の相場との兼ね合いから、最適なコストで原料の調達を行うといったことも、可能性として考えられるという。

 荻野氏は、キユーピーの企業価値の本質が、理念に立脚した現場力にあると強調した。そして機械学習/AIは人にとって代わるというわけではなく、知的作業における判断の支援や高速化を実現し、現場の人々の能力をさらに引き出すことができる、と説明した。

 「人間にあってAIにないのは心であり、特に人のため、社会のために貢献する目的を持つ心、『志』だ。現場力とAIを掛け合わせることで、企業価値を強化し、最高の顧客価値を創造していきたい」

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