KDDIはなぜ、ソラコム株式の過半数を取得したかったのかソラコムは「第2の創業」

KDDIは2017年8月2日、ソラコム株式の過半数を取得し、子会社化する合意に至ったことを発表した。KDDIはなぜソラコムを買収したのか。また、少数株主としての出資ではなく、過半数の株式を取得した理由は何なのか。2017年8月8日に両社が行った説明会で聞いてみた。

» 2017年08月09日 05時37分 公開
[三木泉@IT]

 KDDIは2017年8月2日、ソラコム株式の過半数を取得し、子会社化する合意に至ったことを発表した。KDDIはなぜソラコムを買収したのか。また、少数株主としての出資ではなく、過半数の株式を取得した理由は何なのか。2017年8月8日に両社が行った説明会で聞いてみた。

参照記事:ソラコムは、あなたの気が付かないうちに、少しずつ「次」へ進んでいる

左より、KDDIバリュー事業本部バリュー事業企画本部長の新居眞吾氏、ソラコム社長の玉川憲氏、KDDIソリューション事業本部ソリューション事業企画本部副本部長の藤井彰人氏

 KDDIバリュー事業本部バリュー事業企画本部長の新居眞吾氏は説明会で、KDDIによるソラコム買収で生まれるシナジーを、次のように説明した。

  • KDDIは大企業に対する大規模なソリューション提供に強みを持つが、IoTでは大企業でも小規模なパイロットシステムから始めることも多い。ソラコムはスモールスタートでスピード感のあるIoT開発を支援できる点でKDDIとは補完的であり、両社でユースケースを蓄積していきやすい
  • ソラコムはグローバルなIoTプレイヤーになることを目指しているが、KDDIはローミングに依存しない海外通信事業者との連携、および約100の海外事業拠点で、ソラコムの海外事業展開を加速できる
  • ソラコムはKDDIのIoTビジネス基盤を生かして、IoT通信プラットフォームべんだーとして成長できる
  • セルラーLPWA(低電力無線通信技術)および5Gを使ったIoTネットワーク基盤を共同で構築、活用していける
KDDIによるソラコム買収によって生まれるシナジー

 同時にソラコムは、KDDIの子会社となっても、これまでの事業やパートナーとの関係には変わりがないと強調している。

 唯一、現在との大きな違いが将来生まれそうなのは、ソラコムにとって最初のサービスである「SORACOM Air」だ。ソラコムはNTTドコモのSIMを使ったMVNOとなり、IoT向けの価格体系や管理コンソールを整え、SORACOM Airとして提供。これが同社サービスの原点だ。

 このサービスについて新居氏は、時期は未定ながら将来はauを使ったサービスへの移行を期待していると話した。ただし、KDDIは既にソラコムの接続管理ソフトウェア「vConnec Core」を活用して共同開発したauベースのIoT通信サービス「KDDI IoTコネクト Air」を提供しており、これにしてもKDDIにとっては、ゼロが1になるような変化とはいえない。

KDDIはなぜ、過半数の株式を取得したかったのか

 当面はソラコムの活動に何ら変化がないのであれば、なぜKDDIはソラコムの株式の過半数を取得する必要があったのか。この質問を投げかけてみたところ、新居氏は次のように答えた。

 「KDDIの出資によりソラコムの企業価値を上げる一方、ソラコムの技術力を使ってKDDIが成長していくことが今回の目的。後者を考えたとき、ソラコムがリソースをKDDIにコミットしてもらうことに意味があると判断した」

 関連して新居氏は、次のようにも説明した。

 「IoTではさまざまなパーツを組み合わせて提供しなければならないケースが多い。例えばKDDIは、『IoTからのデータを大量に保存しているが、どう使えばいいか分からない』という顧客のリクエストに対し、(別途出資しているAmazon Web Servicesのインテグレータである)アイレットの運用する基盤で保存し、(同じくグループ企業の)ARISE Analyticsが分析して提供するといったことをやってきた。今後は、ソラコムが同様な要望を受けた場合には『親類縁者』の能力を組み合わせてサービスを提供できるようになる。一方、KDDIとしても、既にソラコムの回線管理やデバイス管理の技術を使ってサービスを提供しているものの、より進化した形で、顧客のリクエストに応えて開発を行い、KDDIのサービスとして提供していけるようになる。結果的に、両社とも多様な組み合わせでサービス・商品が提供できるようになる」

 ソラコム社長の玉川憲氏に対しては、「(同氏は説明で)『第2の創業』という言葉を使ったが、正確にはどのような意味なのか」という質問をした。答えは次の通りだ。

 「これまで多様なキャリアと付き合ってきたが、今後はセルラーLPWAや5Gをいち早くやっていかなければならない。従来のようなMVNOとしての立場では、キャリアが開放してくれないと利用できないが、今回の取り組み(買収)により、これらのサービスをより早くプラットフォームとして提供できるようになり、従来とは異なる次元に入れると考えている。ちょうどセルラーLPWAがサービスインしようとしており、ソラコムがグローバル展開を始めたタイミングでもあり、『本当に日本発のグローバルなプラットフォーマーになる』という意味で『第2の創業』という言葉を使った」

あらゆるIoT関連通信技術に対応

 KDDIのIoTサービスの特徴の1つは幅広いIoT関連通信技術への対応だ。セルラー通信については、前述の通りauのSIMにソラコムのサービスを組み合わせて提供。LPWAの一種であるLoRaWANについては、これもソラコムのサービスおよび提供端末を活用している。もう1つの有力LPWA技術、Sigfoxについては、KDDIの主要株主の1社である京セラの子会社、京セラコミュニケーションシステムが、日本国内における独占サービスプロバイダーとなっていて、KDDIはこれを活用したIoTソリューションを既に提供している。

 KDDIはソラコムを買収したことで、主要なIoT関連通信技術の全てを、本体と「親類縁者」のサービスで賄えることになった。さらに同社は2017年度中にLTE-M、NB-IoT接続サービスの提供を開始するが、玉川氏が話したように、これらについてはソラコムの管理サービスが当初から付帯することが想定できる。将来の5GによるIoT接続サービスについても同様だ。さらにeSIMへの対応に関しても、ソラコムがKDDIの傘下に入ったことで開発がしやすくなることが想像できる。

 ソラコムはさらに、ソニーの独自LPWA技術、およびスカパーJSATとの提携による衛星通信の実証実験も進めていて、これらが継続されるのであれば、KDDIも顧客ニーズに応じて活用できるようになる可能性がある。

KDDIはインフラからマネタイズまで、顧客ニーズに応じた多様なレベルのIoTサービスを既に提供している。ソラコムの買収で、通信技術への対応、回線・端末管理およびIoTシステムの開発における通信・セキュリティ面での支援を強化できる

 KDDIソリューション事業本部ソリューション事業企画本部副本部長の藤井彰人氏は、「全方位IoT」として、KDDIがB to B、B to C双方で既に多様なIoTサービスを展開していることを説明。提供端末は約2000種類に及ぶと話した。

 一方、藤井氏は今後の新たなIoT関連ビジネス創出に向けて、「データの見える化と価値化」、および「ユースケースの蓄積」がカギになると見ているという。データの価値化については既にデータマーケットプレイスも提供しているが、端末、通信からデータ処理・活用まで、全レイヤーで本体および「親類縁者」の機能を活用し、これにパートナーの商品やサービスを組み合わせ、多様なニーズに応えることでユースケースを蓄積、その類型化によってさらに新しいサービス商品をつくっていくことを考えているようだ。

 なお、藤井氏は下の図を示し、KDDIはソラコムと、KDDIのコアネットワークについて、Software Definedな技術を活用した次世代版の共同開発も進めると話した。詳細について質問してみたが、同氏は言及を避けている。

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