愛媛編:UIターン者に必要なのは「待つ」スキル――移住成功の「要件定義」ITエンジニア U&Iターンの理想と現実(32)(3/3 ページ)

» 2017年11月27日 05時00分 公開
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IT私塾で後進育成〜「短期的な収益確保」と「人脈作り」〜

 移住したら、当座の糧を得る必要がある。始めやすいのは「私塾」である。正社員でも、副業解禁となれば、余暇で教えられる。プログラミング教育必修化を追い風に、自宅を教室にして受講生と交流しよう。

 社会人対象なら駐車場の広い物件を借りるといい。学生対象なら教育熱心な校区の下校コースに借りれば、保護者も安心できるだろう。

 宣伝方法は、フリーペーパー、ブログ、SNS、手作りチラシのポスティング。マンション住まいなら掲示板、口コミ(LINEなど)も有効だ。テキストを電子本として出版すれば、宣伝媒体になる。

 何を教えればいいか。

 愛媛には技術イベントが少ない。「都会にあって愛媛にはなく、移住者が提供できるもの」がいいだろう。

 例えば小学生対象の「最新技術まるっと早分かり道場」。各家庭で最新デバイスをそろえて最新バージョンを維持するのは困難だ。そこで、AR/VR/MRデバイスと開発環境、電子工作キット、ボーカロイド、ペンタブレットなどを一通りそろえ、広く浅く、リアルに触れる機会を提供する。夏休みには、親子参加の講習を行ってみてはどうだろうか。受講生に光る原石がいたら、実務の知識も伝えよう。

 移住者がクリエーター系なら、プランニング、サウンド、ライティング、プログラミング、デザインまでトータルに教えよう。目標は、AIと差別化して共存できるマルチメディアコンテンツ制作だ。

 セキュリティ教育も外せない。愛媛編第1回で述べたとおり、鬼北町では「安心、安全は、無料」だと思われている。性善説に基づかない個人情報の扱いを伝える必要がある。逆に、新居浜市のような、昔から技術情報漏えい対策の進んでいる町では、産業機械のハッキングへの注意喚起が必要だ。インダストリアルインターネット時代に向けて、ホワイトハッカー養成も急務だろう。

愛媛に住むというアドバンテージ〜地の利を生かした「暮らし方」「働き方」〜

 愛媛編第1回で紹介したように、新居浜市には地方にあって、世界規模、宇宙規模の仕事をする企業が、幾つもある。世界に目を向けていれば、居住地は問題にならない(大阪編「楽天大阪支社のグローバルプロジェクト」も参照)。

 同じ国内なら、距離などあってないようなものだ。筆者は長年、東京&愛媛混成プロジェクトを愛媛からナビゲートしてきたが、地理的ハンディを感じたことがない。

 むしろ愛媛在住には、次のようなメリットがある。

 1つは、情報の洪水に翻弄されないことだ。都会ではイベントやセミナーが多いため焦りがちになるだろうが、愛媛なら落ち着いて目的の技術に対峙できる。最新情報を入手するのは都会の方が有利だが、まだ形になっていない情報を最新情報という伝達可能なものにして発信するのは愛媛の方が有利だ。

 仕様がほぼ確定していて金額が発注の決定打となる受託案件でも、愛媛に分がある。愛媛物価で見積もっても利益が出るからだ。東京から見れば、愛媛は「日本語が通じるオフショア」だ。

 稀(まれ)の打ち合わせでも、愛媛在住は有利だ。東京の人々は、小旅行の喜びとデバイスをカバンに詰めてやって来る。「晴れた日の瀬戸内海には、心洗われる」と言う。「愛媛に行ける! 晴れるといいな!」と、楽しみにしてもらえる仕事をすれば、愛媛在住はむしろアドバンテージになる。

冬の瀬戸内海。愛媛県運転免許センター(松山市勝岡町)から斎灘を臨む(筆者撮影)


 5回にわたり、愛媛の情報をお伝えした。本稿やリンク先から得られる「気候」「生活コスパ」「制度」などの情報は、移住検討の役に立つはずだ。だが、それらが、幸せな移住を約束するとは限らない、と筆者は考える。

 なぜなら、「ヒトは情動のシーケンスだ」というのが筆者の持論だからだ。言葉や数値では語り得ない、データ化し難い情動、「ノスタルジア」こそ、後悔しない移住の第一条件だ。ノスタルジアを感じる場所でなら、想定外の出来事に見舞われたときでも、ヒトは前を向くことができる。

 愛媛の各市町の風景写真や動画を見たとき、記事を読んだとき、観光したとき、特産品を口にした瞬間、強く湧き上がる情動があるなら、素直に従ってみてはいかがだろうか。その光景を思い浮かべるだけで、懐かしさがにじみ出る場所―――愛媛の中に、そのような場所を見つけたなら、きっと移住はうまくいく。

 幸せなみかん色ライフへの第一歩を、今、ここから。

 UIターンの理想と現実、次回(12月掲載)は、北海道編Part2です。お楽しみに!(編集部)

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筆者プロフィール

薬師寺聖

個人事業所セイザインデザイン自営。

1980年代より、勤務先業務の一環として、地域高度情報化推進、産学共同開発、技術イベントや地域ポータルの企画など、地域活性化活動に従事。1998年、XML1.0勧告翌月に退職し、愛媛県鬼北町に移住して開業。東京案件にテレワークで応える。XMLマスター資格試験の初発本など、著書、連載、多数(おもにPROJECT KySS名義)。Microsoft MVPを12年間受賞(Oct 2003- Sep 2015)。

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