連載
» 2018年02月09日 05時00分 公開

久納と鉾木の「Think Big IT!」〜大きく考えよう〜(3):事例は自らが作るもの 〜事例病かどうかが分かる5つの判定基準〜 (1/2)

「1番じゃなくて2番でもよい」なんてなぜ言える? 事例は本当に必要か? なぜ人の後ばかり追おうとする? 後追いでディスラプターに勝てるわけがない――新しいことに取り組む際、「事例」を求め、「事例」につぶれる人や企業には5つの特徴がある。

[久納信之/鉾木敦司,ServiceNow Japan]

編集部より

 数年前から「デジタルトランスフォーメーション」という言葉が各種メディアで喧伝されています。「モノからコトヘ」といった言葉もよく聞かれるようになりました。

 これらはUberなど新興企業の取り組みや、AI、X-Techなどの話が紹介されるとき、半ば枕詞のように使われており、非常によく目にします。しかし使われ過ぎているために、具体的に何を意味するのか、何をすることなのか、かえって分かりにくくなっているのではないでしょうか。

 その中身をひも解きながら、今の時代にどう対応して、どう生き残っていけばよいのか、「企業・組織」はもちろん「個人」の観点でも考えてみようというのが本連載の企画意図です。

 著者は「モノからコトへ」の「コト」――すなわち「サービス」という概念に深い知見・経験を持つServiceNowの久納信之氏と鉾木敦司氏。この二人がざっくばらんに、しかし論理的かつ分かりやすく、「今」を生きる術について語っていきます。ぜひ肩の力を抜いてお楽しみ下さい。


Amazonになれるチャンスは、今やどの企業にもある!?

 今回は、筆者自身の苦い経験を基に、「他社の事例を参考にし過ぎること」は「2番でもよい」と考えてしまう悪癖の象徴だという話をしたい。

 2017年9月、米国のトイザらスが、経営に行き詰まりChapter11(米連邦破産法11条)適用を申請した(※日本法人は今回の適用の対象外)。国内でも名の通った存在であり、かつて「玩具店の巨人」とまでいわれた大手チェーンが、ネット通販の「小売りの巨人」、Amazonにディスラプトされた(破壊された)というのが、報道を含めた世間の大方の見方である。

 このニュースを知って、私は過去の紙オムツにまつわるある出来事を思い出した。それは、ようやく世にインターネットなるものが普及し始めた頃の出来事だ。

 あまり知られていないが、玩具販売を主業にしているトイザらスは、実は紙オムツの販売量もかなり大きい。インターネットの黎明期、紙おむつを製造する会社においてIT基幹システムの責任者という立場にあった筆者は、ある日営業部門から会議に呼ばれた。議題は、「ある新しいビジネスアイデアとその展開について」の検討だという。実際のところそのビジネスアイデアは、“今から20年前としては”、非常に革新的な内容であった。何を隠そう、それは「われわれメーカーが自社の紙オムツを消費者の自宅に直接届ける」というサービスだったのだ。

 たたでさえ手荷物が多い乳幼児を抱えたママたちの手元から、あの大きくて重たい紙おむつのパッケージを取り除いたら、間違いなく大歓迎されるであろう。日々消費されていく回転率の高い紙おむつという商材を、自宅に直接配送する流通チャネルを確立したら、あっという間に一定規模以上のビジネスに育つであろうことは火を見るより明らかであった。このアイデアに対する潜在需要の高さは、主婦へのアンケート結果からも裏付けられており、もしこれを他社に先んじて実現できれば、大きな差別化要素になるであろうことをわれわれは確信していた。

 ここまで読んで拍子抜けした読者もおられるかもしれない。2018年現在の感覚からすると、何を今さらと思うであろう。今でこそ、この手の配送サービスは非常に簡単に実現できそうに思える。だが、当時の状況は現在とは大きく異なっていたのだ。

 順を追って見てみよう。

 まずはITインフラ面。当時は硬直的なメインフレーム上で基幹システムを稼働させていた。ブロードバンドが各家庭を繋いでいたわけでもない。モバイル環境も携帯電話(今でいうガラケー)がようやく出回り始めたような状況であった。つまり、消費者とわれわれを常時接続してくれるような通信インフラ、決済のインフラは皆無に等しかった。

 続いて物流面。運送会社の配送センターを中継倉庫として使うことまでは想定したものの、その「倉庫にある在庫」は自社のものか、運送会社のものか、はたまた小売店(スーパーやドラッグストア)のものか、これをどう考えるか。また、消費者から時々刻々と発生する注文のトランザクションと、実際に配送する荷物の個数である「個口」をどう手違いなくマッピングするかなど、高度なロジスティックスのノウハウが求められることも明々白々であった。

 さらにファイナンス面。各出荷に対するお客さまの支払いをどうマッチングさせるか。自宅にいるお客さまからどのように現金を回収するか。現金書留、店頭一括払い、銀行振り込み、銀行引き落とし、クレジットカード――適する支払い方法はどれか。在庫資産のリアルタイムかつ正確な把握、未収金を含む売掛金の管理、新たな流通モデルにおける減耗品のリスク計上など、財務上のリスクも枚挙に暇がなかった。

 こうした販売・配送にまつわる一連の手続き・プロセスを整備・策定し、これを基幹システム上で実装するとなると、どれほど大掛かりなプロジェクトになるかは想像すらつかなかった。インターネットが行き渡っていないこの時代に、ネット通販の先進事例など、参考にしたくとも、存在すらしていなかった。

 結局われわれとしては、「何をクリアすればこの新しいビジネスアイデアを実現できるのか?」という前向きな議論ではなく、「このアイデアを実現できない理由」を挙げ連ねるという、後ろ向きな議論に終始してしまった。しまいには「業界には同様の成功事例はない」とまで付け加えた。結果、このビジネスイノベーションは実現されることはなかった。

 今、トイザらスのニュースを見て当時を振り返ってみると、当時われわれがビジネスのニーズに基づいてサービス戦略を策定し、「スモールステップ・クイックウイン」(スコープを細かく限定し、ステップを区切って実現する)のアプローチや、ITサービスマネジメントの考え方に基づく継続的改善の実行を、IT部門として提案できていれば、もしかすると今のAmazonのようなネット通販の先駆者として君臨していたかもしれない、などと考えてしまう。

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