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» 2018年01月29日 05時00分 公開

「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(51):日本国憲法第22条、知らないんすか? 「職業選択の自由」っすよ――エンジニアに「退職の自由」はあるのか? (2/3)

[ITプロセスコンサルタント 細川義洋,@IT]

作る義務vs.作らせる義務

 無論、いくらIT業界でも「社員がプロジェクト途中で退職すること=損害賠償」とはならない。しかし今回の事例の場合、そもそも「開発がアジャイルであるから」という理由で、退職する社員が「ドキュメント=開発設計仕様書」を作っていなかったことが問題だった。ドキュメントもなくいきなり退職されては、会社も残されたプロジェクトメンバーもつらい。

 一般論では、退職時にドキュメントを作っておかないこと自体は、多少非常識かもしれないが法的な問題にまでは発展しない。プロジェクト内でドキュメントを作成しないことに合意して作業していたのであればなおさら、責任を問うのは難しい。

 裁判所は、この点をどのように判断したのだろうか。

東京地方裁判所 平成27年3月26日判決から(つづき)

会社側が主張するように、プログラミングを伴うゲームの開発を担当する従業員が退職する場合に、当該ゲームの開発に関する開発設計仕様書が存在しないと、後任者は開発途中のプログラムを解読するのに時間とコストを要する。開発設計仕様書が作成されていれば、時間とコストを低減させることができたものと認められる。

しかしながら、他方で、開発設計仕様書はゲームの完成に必要な書面ではなく、その作成には相当程度手間と時間を要するものであり、開発担当従業員が退職することや開発の一部または全部を後になって外注することが常に想定されているとも言い難いことから、開発設計仕様書を作成するよう明確な指示がなくても、信義則上、又は雇用契約上、当然に作成しなければならない義務があるものとまでは認められない。

 裁判所は「会社から特に指示がないのに、設計書などのドキュメントを作成する義務は従業員側にない」と述べて、会社側の請求を棄却した。

社員も会社も猛省せよ

 ここで、長く裁判所で紛争解決に当たってきた筆者から、退職した社員と退職された会社の両方に申し上げたいことがある。

 裁判所は、訴えられた事象に対して、それが「法に照らして妥当な訴えであるか」を判断するところだ。今回の判例のように従業員が退職して会社に迷惑を掛けたとしても、さまざまな証跡から見て、それが会社の訴える「不法行為」や「債務不履行」に当たると証明できなければ、訴えはしりぞけられる。

 しかし、「裁判で勝つこと=正義」ではない。裁判に勝ったからといって、退職したエンジニアたちの行動が正しかったわけではない

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