「エンジニアは、リスクを取ることで成長する」――Red Hat技術部門のトップが語る「覚悟」Go AbekawaのGo Global!〜Paul Cormier編(2/3 ページ)

» 2018年02月16日 05時00分 公開

オープンソースとの出会い

阿部川 DECではどんな仕事に関わったのでしょうか。

コーミア氏 DECでは、研究開発担当のSVP(Senior Vice President、上級副社長)とCTO(Chief Technology Officer、最高技術責任者)を兼任していました。

 印象的なのは、1990年代に参加した「Athena Project」ですね。マサチューセッツ工科大学(MIT)で行われていた世界初のオープンソースプロジェクトです。私は3年間参加しました。当時、最先端のエンジニアたちと素晴らしい仕事ができたことが、まだ小規模だったRed Hatへその後転職するきっかけになりました。Athena Projectに参加した後、私は同僚と3人でDECの子会社のAltaVistaを創設し、数年間、ボストンからパロアルト(カリフォルニア州)まで通勤していました(笑)。

阿部川 そのあと「BindView(バインドビュー)」に入られたそうですね。

コーミア氏 「Compaq(コンパック)」による買収がきっかけで、DECを離れることになりました。その時は38歳でした。「今スタートアップ企業をやらなければ、二度とチャンスはない」と考え、「Netet(ネテット)」というセキュリティソフトウェア企業を立ち上げました。BindViewがNetetを買収したタイミングで、私もBindViewに入社し、エンジニアリング担当SVP兼CTOに就任しました。この時は、ボストンからヒューストン(テキサス州)まで3年間通勤しました。

社員たった120人、Red Hatへ転職した理由

画像 Go Abekawa

阿部川 それから、Red Hat創業者のBob Young(ボブ・ヤング)に誘われて2001年にRed Hatに入社されたわけですね。

コーミア氏 どうやらローリー(ノースカロライナ州)の方がヒューストンよりもボストンから近いことが分かったので(笑)。私はRed Hatの120番目の社員でした。今では1万2000人も社員がいますが、当時はごまんとあるディストリビューターのうちの1社にすぎず、カーネルを扱えるエンジニアは全社でたった1人でした。今は恐らく200人ほどいるでしょう。

阿部川 ということは、リスクを承知の転職だったことになります。なぜ、Red Hatへの転職の話を受けようと思ったのですか。

コーミア氏 1つは、Red Hatが単にオープンソース製品を扱う会社ではなく、企業向けソフトウェアを扱う会社としてオープンソースの開発モデルを持っていたためです。またRed Hatで働くことは、私にとってはProject Athena以来、再びオープンソースプロジェクトに関われる素晴らしい機会だったのです。Red Hatにおいても、1000人規模のエンジニアをまとめた経験、オープンソースプロジェクトに関わった経験、両方を持つ人材はそういませんでした。完璧なお見合い話のように、自分のやりたいことと、先方の求める人材の条件がそろっていたのです。

Red Hat入社直後に待ち受けていた挑戦

阿部川 入社してからは、どんな仕事に関わったのでしょう。

コーミア氏 当時、Red Hatでは、消費者向けの製品「Red Hat Linux」の生産を強化しようとしていましたが、現実には、セキュリティパッチや機能パッチの配布作業に苦労するありさまでした。新製品をリリースするたび、昔リリースした製品のどこかが壊れる。アプリケーションは皆どこかで故障するものですが、そうした問題を解決できるソフトウェアが当時はありませんでした。

 顧客が本当に信頼をおける製品を作るためには、各リリースを通じてアプリケーションの性能を最新に保つとともに、セキュリティのバグも発見後24時間以内に修正できなければなりません。商業用ソフトウェアには、それくらいのケアが必要なのです。

 そこでRed Hatは、企業向け製品として「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」をリリースし、Red Hat Linuxを廃止して企業向けソフトウェアに集中する決断を下しました。当時、Red Hat Linuxは損失を出していましたし、一般用と企業用の商品を同時に扱うのは難しいと分かっていたからです。

 社内では、発売直後の第1四半期にRHELのライセンスを8000件売れると考えていました。そこで私は、CEOと「実際の売上件数が7999件以下なら、Red Hatを辞める。8000件以上なら、もっとストックオプションをもらう」という賭けをしました。その時の第1四半期の売り上げは2万4000件を記録しました。

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