AIは雇用を増やす、だが組織は準備しなければならない――2018年ダボス会議よりGartner Insights Pickup(52)

「AIは雇用を減らすが、逆にそれ以上の雇用を創出する」「組織がAIを活用していくためには、その限界に注意し、『バイアス』についての意識を高める必要がある」――。Gartnerのエグゼクティブ・バイスプレジデントでグローバルリサーチ責任者のピーター・ソンダーガード氏は、こうしたことを2018年のダボス会議で話した。

» 2018年03月16日 05時00分 公開
[Jill Beadle, Gartner]

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 世界有数の識者や指導者にとって、人工知能(AI)が喫緊のテーマとなっている。それはなぜか。

 人工知能(AI)は、技術やデジタルビジネスの将来に関する報道や議論をにぎわせ続けている。あらゆる規模の組織や業界が、誇大宣伝と現実のギャップを踏まえながら、AI技術の導入や投資のタイミングを探っている。

 2018年1月下旬にスイスのダボスで開催された世界経済フォーラム(WEF)年次総会は、このことをあらためて印象付けた。パネルディスカッションも分科会セッションも、幕あいの雑談もAIの話題で持ちきりだった。Gartnerのエグゼクティブ・バイスプレジデントでグローバルリサーチ責任者のピーター・ソンダーガード氏は、WEF年次総会でAI関連の報道や世界の多くのリーダーがAIに注目する理由について解説した。

 その概要を以下に紹介する。

AIは多くの労働者の仕事を奪うのか

 メディアでは「AIが仕事を奪う」というシナリオが波紋を呼んでいるが、このシナリオは事実とは程遠い。われわれの認識では、一部の仕事は失われるものの、AIは人間の能力を拡張することを目的としている。AIはわれわれの生産性を高め、仕事をより迅速に、より正確に行うのを手助けしてくれる。これは、いわゆるブルーカラーだけでなく、ナレッジワーカーなど、あらゆるタイプの仕事に当てはまる。

 ダボスでの会話の多くは、このトピックについてだった。組織のリーダーたちが「技術の、とりわけAIのような破壊的な革新技術がもたらす人的な影響がどうなるのかを知りたい」と考えているからだ。幸いなことに、AIは雇用の創出を促す。2020年には、AIは180万人の雇用を減少させる一方、230万人の雇用を生み出す見通しだ。50万人の雇用純増となるわけだ。

AIによって雇用が増える仕事では、どのようなスキルや経験が必要なのか

 将来の仕事については、これからも仕事の主役は人間であることを念頭に置くことが重要だ。ただし「われわれが何をどのように行うか」という点では、将来は大きく変わるだろう。

 将来は、特定のAI技術に関する知識に加え、データサイエンスやデータ品質管理といった分野の専門ノウハウが要求されるようになる。今から10年後には、非定型的と分類される仕事が、全体の3分の2を占めるだろう。人々はより多くの頭脳労働を行わなければならなくなる一方、肉体労働は少なくなる。

 こうした仕事を担う人材を確保するために、既存従業員の再教育が必要になる場合もある。その責任は、CIOと人事部門のトップが負うことになる。両者は共同で必要な人材の育成、再教育のための明確な戦略を策定しなければならない。

 AIエンジニアの仕事について言えば、コーディングが自動化される作業になったらスキルアップが必要になる。スキルや経験を新しい役割や課題に効果的に応用するためだ。

組織はどうすればAIを活用する準備を整えられるのか

 これは2018年のWEF年次総会で頻繁に議論されたテーマだ。AIはあらゆる業種、地域のリーダーの関心を引き続けているが、この技術はまだ初期の段階にある。実際、大規模なAIプロジェクトを実施している組織はほとんどない。だが、多くのCIOがAIのパイロットプロジェクトの実施を検討しているか、あるいは進めている。

 AIの取り組みに及び腰になってはいるが関心がある組織は、AIのパイオニアに目を向けるとよい。彼らはAIの導入に先鞭(せんべん)をつけ、導入過程ではわれわれの教訓となる失敗をしている。こうしたアーリーアダプターは、AIの取り組みに乗り出そうとしているCIOに、以下のような貴重な洞察を提供してくれる。

  • AIを最大限に活用するには、ビジネス上の優先事項にAIを適用する
  • AIの一般的な定義にとらわれず、自動化以外の目的でもAIの活用を図る。さもないと、隠れた機会を逃しやすい
  • プロセスや顧客満足、商品、財務指標の改善といったソフトな結果も目指す

AIについて注意すべきことはあるか

 注意すべきというよりも、AIの限界を認識すべきだ。それはデータのバイアス(偏り)だ。WEF年次総会では、これをめぐってリーダーの間で多くの興味深い活発な会話が交わされた。というのも、われわれがAIでできることとできないことを議論したときすぐに明らかになったのが、データ入力段階から発生する可能性がある、バイアスに対処する必要があることだったからだ。

 われわれのデータの品質や正確性はプログラマー、解釈者、ユーザーが行う作業の品質や正確性に左右される。これらのグループが母集団全体の多様性を代表していなければ、データもこれを代表しない可能性が高い。さらに、社会の人的バイアスが現在と将来の技術に入り込む可能性が高い。

 こうしたバイアスの軽減または防止方法を考えると、技術における多様性と包摂の重要性に思い至る。これは明らかにAIと結び付いている。AIは新しい技術や、さまざまなワーカーの仕事のやり方に関する学習の需要を高めるからだ。

 ダボス会議での議論で、出席者は「こうした技術が多様性と包摂の制限ではなく、促進に使われるようにする」という観点から意見を述べた。例えば、教育がより多くの女性や少数派グループメンバーがSTEM(科学、技術、エンジニアリング、数学)に携わるよう導いて貢献することを期待する声があった。また、企業や政府が果たすべき役割があるかどうかを論じた人もいた。

 技術は、一部ではなく全ての人に利益をもたらすべきだ。そのため、われわれはその課題に正面から取り組まなければならない。われわれ一人一人にその責任がある。

出典:AI Commands Spotlight at 2018 World Economic Forum(Smarter with Gartner)

筆者 Jill Beadle

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