データサイエンティストと東京電力グループのデジタライゼーション小さな成果の積み重ねを目指す

「世界でここでしか手に入れることのできないデータがあるから」という理由で東京電力グループに入ったデータサイエンティストの大友氏は、巨大な組織の中でいわゆるMVP、小さな成果を積み重ねる活動を進めようとしている。

» 2018年04月18日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

 「世界でここでしか手に入れることのできないデータがあるから」。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の研究者などを経て2017年、東京電力(正確には情報システム子会社のテプコシステムズ)にデータサイエンティストとして入社した大友翔一氏は、その理由をこう話している。

 大友氏はテプコシステムズのシステム企画室 デジタライゼーション推進部 デジタライゼーション推進グループで、マネージャーを務めている。大友氏の部署は、東京電力グループのデジタル変革を促進・支援する役割を担っている。この部署で、分析と分析のための基盤構築を進めるのが同氏の仕事だ。

テプコシステムズのシステム企画室 デジタライゼーション推進部 デジタライゼーション推進グループ マネージャーの大友翔一氏

 現在、東京電力グループが置かれている状況は、5つの「D」に集約されると大友氏は話した。「Deregulation(規制緩和)」「Decentralization(分散化)」「Decarbonization(脱炭素化)」「Depopulation(人口減少)」、そして「Digitalization(デジタライゼーション)」だ。

 デジタライゼーションは他の4つのDと絡み合って、アナリティクスやITを活用し、新たな最適化やビジネスモデルを目指す動きとも表現できる。

 「これは妄想レベルですが、例えば、正確な電力の需要予測を、各種の電力調達コストと考え合わせ、最適化を図ることで、事業に大きなインパクトをもたらすことができます」(大友氏)

 東京電力が供給している電力は、現在火力、水力、原子力、そして太陽光などの新エネルギーを主な供給源としている。このうち例えば太陽光発電は、割合こそ小さいものの、日照量の変化に大きく左右される。また、火力発電は、休止していた大型の設備を稼働するとなると、本格運転までに時間がかかるなどの特徴がある。

 そこでまず、正確な電力需要予測が必要になる。正確な予測を行えば、これに基づいて電力供給をより計画的に行えるようになる。

 大友氏は、SAS Viyaの試用・評価を兼ねて、公表されている資料を用いた電力需要予測を実施。2018年4月にSAS Instituteが米国コロラド州デンバーで開催した「SAS GLOBAL FORUM 2018」で講演した。

 テプコシステムズでは、東京電力グループのためのアナリティクスプラットフォームとしてSAS Viyaを採用している。大友氏は、Python、Rを使った統計分析を約10年にわたり経験してきたが、これらの言語が使える分析/機械学習プラットフォームであるSAS Viyaについては、テプコシステムズに入社して初めて触れることになった。

 試してみると、SAS ViyaはPython、Rのユーザーにとって使いやすく、大友氏が過去に、オープンソースの機械学習ライブラリであるscikit-learnを使って実施した各種アルゴリズムによる機械学習よりも、高い精度を実現できたという。また、Pythonによる解析プログラムのほとんど全てをSAS Viyaに移行できたという。

デジタライゼーションへの道のりは始まったばかり

 大友氏が次にやりたいのは、経済産業省などが2017年秋に開催した「IoT推進ラボ第3回ビッグデータ分析コンテスト」の課題への挑戦だ。

 これは太陽光発電所の発電量を予測するもので、東京電力グループで水力発電や新エネルギーを担当しているリニューアブル・パワーカンパニー(RPC)が浮島発電所、扇島発電所、米倉山発電所での発電量データを提供した。このデータは10分単位であり、「十分きめ細かなもの」(大友氏)という。そこで同じデータを用い、どこまで高い精度の予測ができるかを試してみたいという。

 「精度の良いモデルができれば、その分火力の発電量を減らせる可能性が出てきます。精度1%の違いが、数億円のコスト節約につながることも考えられます」(大友氏)

 上述の通り、東京電力グループのためのデジタライゼーションプラットフォームに関する大まかな図は描けている。分析および機械学習のプラットフォームとして、SAS Viyaを採用することも決まった。だが、統合データ基盤の整備については、今後に向けた大きな課題だと、大友氏は話す。

東京電力グループにおけるデジタル基盤の概要図

 東京電力グループは、言うまでもなく巨大な組織。「どこにどのようなデータが、どのような形式で存在しているかを把握するのは非常に難しい状況です」(大友氏)。データ統合ありきで進められれば理想的かもしれないが、仮に各事業ユニットが全てのデータの利用を許可したとしても、統合データ基盤を構築しようとすれば、統合すべきデータの選択やデータのメンテナンスを考えると、コストと時間があまりにも大きくなる可能性がある。

 大友氏の所属している部署では、現在のところ、基本的に事業ユニットの要望を受けて解決策を提案するようにしている。こうしたことから、データについても、要望の寄せられた案件について提供してもらうようにしているという。

 大友氏は、巨大な東京電力グループのさまざまな部署に、テプコシステムズのデジタライゼーション推進部のような存在があることを知ってもらうことが現時点での最優先課題とする。存在を知ってもらえれば、事業ユニットの抱える課題について「相談してみようか」という話にもなり、デジタライゼーションに向けた実績を少しずつ積み重ねていけることになるからだという。

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