連載
» 2018年05月24日 05時00分 公開

もう迷わない! ビジネスを成長させるUXデザイン手法の使い方(3):ユーザー行動目標を掲げてUXをデザインする

B2C、B2B問わず、ITサービスがビジネスに不可欠な存在となった近年、UXデザインに対する企業や社会の認識は一層深まっている。にもかかわらず、「使いにくいサービス」が減らない原因とは何か?――今回は、ビジネスと因果関係のあるユーザー行動を目標として掲げて、そこに向けたUXをデザインしていく道筋を説明する。

[土屋晃胤,秀玄舎]
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 前回の「ユーザー行動の習慣化がビジネスを成長させる」では、UXキーワードを元に購入プロセスをユーザーの習慣に変えて、ビジネスを成長させる道筋を説明した。これには、下記2点が重要であることを伝えた。

  • 体験前後を含むシーンを超えたデザインの一貫性
  • ユーザーの満足性

 連載第3回となる今回は、ビジネスと因果関係のあるユーザー行動を目標として掲げて、そこに向けたUXをデザインしていく道筋を説明する。このような目標を本稿では、プロダクトの「UX-KPI(主要評価指標)」と呼ぶ。このUX-KPIに「ユーザー1人当たりの購入金額」といった収益に直結する数値を掲げても、UXデザインの方向性を示す道しるべとはならない。ポイントは、ユーザーにもビジネス側にもメリットのあるユーザー行動を具体的に掲げることだ。

Amazon − 定期購入

 例えば、Amazonには「定期購入」という機能がある。Amazonは定期購入を強く勧めてくる。ここから「定期購入の登録ユーザー数」や「定期購入の商品数」をKPIとして設定していることが読み取れる(筆者の予想)。「この定期購入で商品を購入する」という行動は、ビジネス面から見ると、下記のメリットがある。

  • トータルで払ってくれる金額の見込みが増える
  • 定期購入品をまとめて送ることで物流コストを削減できる
  • 定期購入期間中は、長く定期的にユーザーと接点を持つことができ、定期購入や通常購入の機会が増える

 ユーザー面から見ると下記のメリットがある。

  • 1商品当たりの購入金額が安くなる
  • 何度も注文する手間が省ける

図1 UX-KPIを起点とした共通解への進め方例(Amazonの定期購入サービス)

 このようなUX-KPIが設定できるとUI/UXデザイナーとしては、とてもUIが考えやすくなる。

 例えば、定期購入可能な商品のページにアクセスした場合には、ユーザーに通常の単品購入と並列する形で定期購入用ボタンを置き、後者を、ユーザーメリットを説明した上で勧めればよい。

 また定期購入の延期や中止を管理できる画面では、下記2点を明確に伝えることでUX-KPIを上げることができ、ビジネスサイド、ユーザーサイド双方にとってメリットが生まれる。

  • 一定の定期購入品数を下回ると割引率が減ること
  • 定期購入品数を増やすと割引率が増えること

 あとは連載第2回の例と同様にこのUX-KPIをキーワードとして、思い出す仕掛け(リマインドメールなど)を加えていけばよい。

図2 Amazon定期購入機能の画面:定期購入者数や定期購入品数を最大化するようにUIがデザインされている

PlayStation 4 − ゲーマーフレンド

 もう1つ、PlayStation 4(以下、PS4)の例を挙げる。PS4では「各ユーザーのゲーマーフレンド数を増やす」「ゲーマー間の関わりを増やす」をUX-KPIに掲げて、いろいろなUX開発に取り組んだ。これはビジネス側には下記のメリットがある。

  • 有料会員になったり続けたりする動機になる。PS4など最近のゲーム機ではオンラインマルチプレイをするには有料会員になる必要があり、その加入や継続の動機として一緒に遊ぶフレンドの存在は大きい
  • マルチプレイできるゲームや追加データを買う動機になる。例えば、一緒に新しいステージに行こうとすると、同じ追加データ(拡張パックなど)を持っている必要がある。これらを購入する傾向もフレンド数が多ければ多いほど高い

 一方、ユーザー側には下記のメリットがある。

  • 同じゲームを持っていて、プレイヤースキルを把握している仲間が増える
  • お互いが興味を持つゲーム情報を交換できる知り合いが増える

図3 UX-KPIを起点とした共通解への進め方例(PlayStation 4 − ゲーマーフレンド)

 この「ゲーマーフレンド数」「ゲーマーフレンド間での接触回数」というUX-KPIはPS4のさまざまなサービスで重要視されている。ゲーマーフレンドを勧誘しやすくする仕掛けについては一般的なSNSと共通する部分が多いため、ここでは「ゲーマーフレンド間での接触回数」を増やす2つの仕掛け(サービス)を紹介する。

図4 What's New − PS4ゲームに特化したニュースフィード

 1つ目は「What's New」と呼ばれるPS4ゲームに特化した「ニュースフィード」だ。

※ニュースフィードとは、自分のフレンドの投稿や行動ログや興味を持っているニュースなどが表示されるリスト。この形式のUIはFacebookの登場により世界的に広まった。

 ここで表示される内容により、同じゲームをプレイしているフレンドを見つけたり、同じような嗜好を持つフレンドがプレイしたゲームを知ったりすることができる。また友達がプレイしている様子のライブ配信や、ゲーム映像、スクリーンショットが投稿され、フレンド同士のコミュニケーションが発生する。

図5 「Live from PlayStation」PS4ゲームに特化した配信・映像・画像ビューワーアプリ

 もう1つは、Live from PlayStationだ。これはPS4からYouTubeやTwitch TVなどのサービスを介して配信されたり、録画されたりしたゲーム映像を見るためのアプリだ。ここから配信者や視聴者と友達になったり、有名配信者をフォローしたりすることができる。

 また、この2つ以外にもフレンドと同じイベントに参加したり、プレイを待ち合わせたりする機能などもある。これらのサービスに共通する点は、ゲームプレイ中以外にもゲーマーフレンドと関わる意義を与え、「プレイステーションネットワーク」内のフレンド登録や接点を増やすことを目指している。前回説明したユーザー行動の習慣化を図っている。

まとめ

 連載第3回では、ユーザー行動目標(UX-KPI)を掲げて向上させるUXデザインの対象を見つけてビジネス、ユーザー、デザインの共通解への道筋を説明した。

図6 共通解への流れ:ユーザーとビジネスの共通ゴール(UX-KPI)を掲げて、その達成のためのUXデザインを検討していく

 この流れは目標の設定が重要になるため、企画(マーケティング)部門の役割が重要になる。当然「企画部門の人が良いユーザー行動の目標やアイデアが思いついたら、それを開発部隊やUI/UXデザイナーと共有し良いUXデザインに仕上げていく」といった連携が重要になる。もちろん役割分担によっては「マーケットやユーザーデータについてUI/UXデザイナーが感度を持つこと」も重要だ。

 次回はゴールへの道筋の第3弾(ビジネスゴールパートの最終回)として、今回とは逆の、習慣化されたUXを収益化する流れを紹介する。

「PlayStation」および「PS4」は株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの登録商標または商標です

著者プロフィール

土屋 晃胤(つちや あきつぐ)

秀玄舎 ITコンサルタント

大手メーカーでの社内エンジニア、プロジェクトマネジャー、ゲーム機のホーム画面やお知らせなどメイン機能のプロダクトマネジャーを経て、プロジェクトマネジメントコンサルタントとして現職に転職。ビジネスの課題をIT・マネジメント・デザインの融合により解決し「あらゆるシステムをユーザーが思うままに使える世界」を実現するため、活動の幅を広げている。


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