プロトタイプは画面や機能ごとに作ってはいけないもう迷わない! ビジネスを成長させるUXデザイン手法の使い方(5)

B2C、B2B問わず、ITサービスがビジネスに不可欠な存在となった近年、UXデザインに対する企業や社会の認識は一層深まっている。にもかかわらず、「使いにくいサービス」が減らない原因とは何か?――今回から、「人間中心設計」の各種方法論を説明していく。

» 2018年06月21日 05時00分 公開
[土屋晃胤秀玄舎]
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人間中心設計手法の役割

 今回から、「人間中心設計」の各種方法論を説明していく。「これらの手法をプロダクト開発時に使う理由は何だろうか?」「なぜ、従来の要件定義・設計手法だけでは不十分なのだろうか?」それは、図1に示すようにプロダクトにかかるユーザー要素の全てが仮説検証対象だからだ。

図1 プロダクト開発におけるユーザー関連要素

 特に新しいプロダクトにおいては、下記全てが仮説であり、検証すべき対象だ。

  • ターゲットユーザー像
  • ターゲットユーザーの行動
  • プロダクトと接点を持つ場所、場面、順序

 これから紹介する人間中心設計の手法の得意領域(何の仮説構築に向いているか、何の評価に向いているのか)を表1にまとめた。

表1 人間中心設計手法まとめ
   仮説構築ターゲット

手法名
ターゲットユーザー ユーザーの行動・心理 ユーザーニーズ ・インタラクション
・デザイン/技術など解決手段
ペルソナ    
カスタマージャーニーマップ  
プロトタイプ      
ユーザー調査法
:ニーズ探索型
   
ユーザー調査法
:仮説評価型
上記仮説の評価

ユーザー調査法は下記のように、大きく2つに分類される。両者の違いは、次回説明する。

  • ニーズ探索型:ユーザー調査、行動調査、フォーカスグループインタビュー
  • 仮説評価型:ユーザーテスト、ABテスト、アンケート

プロトタイプ

 今回は、この中からプロトタイプを取り上げる。プロトタイプとは、一般的には「評価、改良を目的にプロダクトの模型を作ること」である。この連載での改良の対象は当然、プロダクトのUI(ユーザーインタフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)が中心ではあるが、技術仮説の模型もプロトタイプと呼ばれる。

画面やインタラクションを丸ごとプロトタイピングしない

 UI開発にプロトタイピングが有効であることはよく知られているためか、下記のようなゆるっとした進め方により、結果プロトタイプ開発に工数をかけ過ぎてしまうことがある。

  • 目的を定めずに、漫然と「決めた仕様に基づく使い勝手を確かめるため」にプロトタイプを作ってしまう
  • チームが利用できるプロトタイプ手法を安易に選んでしまう

 さらに工数をかけたプロトタイプがもったいなくなり、そのままプロダクトに流用するとアーキテクチャにまで悪影響を与え、プロジェクトを失敗に陥れかねない(このようなトラウマからか利用を嫌うPMやマネジャーもいるが、ピンポイントで使えばとても有用なツールである)。

評価し改良したいUI、UX上の仮説は何か?

 では、どうすれば最小工数で効果的なプロトタイプを作れるのだろうか?

 その解を得るためには、「どの部分の機能やUIの改良を目指すのか?」を特定するよりも、「どんな観点で評価、改良したいのか?」を特定することが重要だ。例えば下記のような「問い」の方が重要となる。

  • 本当にこの画面遷移ルールで、ユーザーはOS/アプリ全体の理解、記憶が可能なのか?
  • どの程度のレスポンスがあればユーザーは快適だと感じるのか?(それは今のUIフレームワークやアーキテクチャで実現できるのか?)
  • そもそも、これから生み出す体験(UX)に価値を感じるユーザーは、どれくらいいるのか?

 この「問い」が明確になれば、表2のように被験者も絞ることができるし、どのレベルまで作り込めば評価可能なのかも分かってくる。

表2 評価対象の仮説例とプロトタイプ評価者と作り込みの必要性
            プロタイプ特性
仮説
評価者 デザインの作り込みの必要性 操作の作り込みの必要性
OS/アプリ全体の理解、記憶は可能なのか? 一般ユーザー やや高い 高い
どの程度のレスポンスがあれば快適だと感じるのか? ・UI専門家
・プロジェクトメンバー
低い
レスポンスを測れるレベルで良い
低い
低負荷がかかる遷移のみでよい
その体験(UX)は価値があると感じてくれるのか? ステークホルダー 高い 低い

どのような技術でプロトタイプを構築するか?

 プロトタイプ作成の目的、つまり改良のターゲットを明確にしたら、「プロトタイプの実現方法」を選定するのがよい。表3に、それぞれのプロトタイプ技法が向くケースをまとめている。

表3 プロトタイプ技法ごとの作り込みのしやすさ
             特性
プロトタイプ技法
評価者 デザインの作り込みやすさ 動きの作り込みやすさ 操作の作り込みやすさ コスト 特記
動画(コンセプトムービー) ・ステークホルダー
・投資家
× 時間がない被験者向け
紙(ペーパープロト) ・専門家
・訓練されたユーザー

容易だが限界あり
×
オペレーターを訓練
ハードウェアとの組み合わせが容易
プレゼンツール(PowerPointなど) ・訓練されたユーザー × 遷移の作り込みに限界あり
プロトタイプツール:
画面遷移型(Protto、Adobe XDなど)
・一般ユーザーなど  
プロトタイプツール:
インタラクション型(Pixate、Framerなど)
・一般ユーザーなど ×  
実機やゲームエンジン(Unity、Unreal Engineなど) ・プロジェクトメンバー
・ステークホルダー
×× ・UIの応答性能面のテストには必須
・VRにも対応可能

 第一のポイントは、仮説に適した被験者を選び、仮説と被験者に応じて作り込みのレベルを決めること。第ニのポイントは、複数の仮説を検証したい場合も、それら全部を満たすプロトタイプを作ろうとせず、仮説ごとに最低限のプロトタイプを作り評価することだ。「改良が目的」なのだから、作り込み過ぎるのは、本末転倒である。

プロトタイプ法適用例

 例えば、ホーム画面など製品の根幹を成す大事な機能でも、下記のように分けてプロトタイピングすることもできる。

  • 操作パフォーマンスに関しては実機を使った性能検証を行う
  • 画面遷移に関しては画面のつながりが分かる最低限のアニメーションを入れられるプロトタイプツールを使う

 両方を検証可能なプロトタイプを作るよりはるかに効率的だし、チームを分けて実施できる。

 また別の例として、ハードウェアと組み合わせなければならない「専用ケーブルを使ったスマートフォンのデータ移行」などの機能の場合には、開発後期まで作り込みは難しい。ただし、スマートフォン上でペーパープロトや画面スケッチを使って表示するなどの「簡易なUIプロトタイプ」と「ハードウェア」を組み合わせていけば、かなり早い段階でユーザーテストをすることも可能だ。

まとめ

 今回は、人間中心設計の役割とプロタイプ作成の目的(改良の対象)を絞ることにより、効率的にプロトタイプを作るための考え方と手法の選び方を紹介した。次回は、プロトタイプの評価するためのユーザーテストを含むユーザー調査法を紹介する。

著者プロフィール

土屋 晃胤(つちや あきつぐ)

秀玄舎 ITコンサルタント

大手メーカーでの社内エンジニア、プロジェクトマネジャー、ゲーム機のホーム画面やお知らせなどメイン機能のプロダクトマネジャーを経て、プロジェクトマネジメントコンサルタントとして現職に転職。ビジネスの課題をIT・マネジメント・デザインの融合により解決し「あらゆるシステムをユーザーが思うままに使える世界」を実現するため、活動の幅を広げている。


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