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» 2018年08月27日 05時00分 公開

ワタシハ人間デス:「火の鳥」の「ロビタ」を、2018年のテクノロジーで解説しよう (5/5)

[米持幸寿(Honda Research Institute Japan),@IT]
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猿田やマサトが作る「人型電子頭脳」

 未来編の中で、猿田やマサトは女性の形をした人形電子頭脳、すなわちロボットを制作する。

 猿田は恋人や妻や娘として女性型ロボットを作り、マサトは不定形生物ムーピーであった恋人(恋……生物?)タマミをかたどったロボットを作る。

 これらのロボットの共通点は、「話し相手としての人間らしさを求めた」にもかかわらず、それが実現できないもどかしさだ。ここは、前出のロビタと比較される部分だ。

 ロビタには人間レオナの心が移植されている。このため持ち主に逆らったり、ある日突然「ワタシハ人間デス」などと言い始めたりした。

 猿田は、自分が作ったロボットが話していることは自分が吹き込んだことを再現しているにすぎないことに腹を立て、しゃべる機能をロボットから取り外す。マサトは、タマミ型のロボットがまともな会話ができずおかしな言動をするのに腹を立て、何十体も破壊する。

 私も対話システムを繰り返し作っているが、その対話システムが何としゃべるかは作っている本人は分かっている。「好きよ」と喋らせても、それは自分が吹き込んだ言葉であり、本当に自分を好いてくれてしゃべっているわけではない。そしてむなしくなるのだ――「私が実現したいのは、こんなものではない」と。

 現在の対話型インタフェースのほとんどが質問応答型システムであり、応答を生成する部分のほとんどが、あらかじめ決められたプログラムである。

 一連の記憶の連鎖と価値観から作り出される「人格」のようなものを持って対話を進めているわけではない。大量のデータから統計的に応答を選択して話すチャットボットもあるが、論理的な会話はできない。

 しかし、だがしかしだ。今、音声対話型のシステムは流行の波に乗っており、さまざまな発明や開発が始まったばかりだ。最初はうまくいかなくても研究開発を進めていかなくてはならない。それが私たち研究開発者の宿命なのだろう。

猿田もマサトも満足のいく会話ができる人型電子頭脳を実現できなかった。



 火の鳥未来編、および復活編に登場する「AIに近いシステム」について、さまざまな角度から解説をしてきた。

 何より驚くのは、手塚先生が1960年代にこれだけの内容を書いていることである。その予見力に圧倒される。

 そして、現代のAIは、まだまだ未熟である

 本編でも、火の鳥共通のテーマ「不死」と「復活」が、人工頭脳にからめて描かれている。脳の大半を人工頭脳化され、ロボットに恋をし、ロボットになることを望み、とうとうロビタになってしまうレオナ。

 そして「人工的なものはうまくいかない」とも書かれている。猿田が長年作ってきた人工生物はことごとく失敗する。猿田が作った人型人工頭脳もマサトが作ったタマミロボットもうまくいかない。

 だが、ロビタにはレオナの心が宿り、人間臭いロボットとなり、人気を博した。それはある意味、科学によるレオナの復活であり、ロビタはレオナの子孫である

 私たちも猿田やマサトのように、日々、作ってはがっかりし、作ってはがっかりしている。それでも私たちは進まなければならない。

※2018年8月29日 12:30 読者からコメントをいただき、一部記述(小脳→脳)を修正いたしました(編集部)

筆者プロフィール

米持幸寿

米持幸寿

人工知能とロボットのシステムインテグレーター

Honda Research Institute Japanで実用化部門ダィレクターとして、インテリジェントテクノロジーの開発に関わる。前職は、日本IBMでソフトウェア関連の仕事を28年。研究・開発、マーケティング、セールス、開発支援、アフターサービスなど、ソフトウェアビジネスの多くの業務を経験。

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