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» 2018年09月05日 05時00分 公開

「甲子園に出場し、早稲田へ進み、プロ野球選手になりたい」と中1で決意した:表も裏もおろそかにしない――桑田真澄流、効率的な努力の仕方 (2/2)

[竹内充彦,@IT]
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挫折がターニングポイントに

 人三倍努力する桑田さんだが、それでも何度も「挫折」を経験したそうだ。特に子どもの頃の「二度の挫折」は、桑田さんにとってとても大きなものだったという。

 一度目は、小学校3年生の時のことだ。地元の少年野球チームに入団した桑田さんは、持ち前の野球センスから6年生のチームに加えられた。しかし、それが仇となった。上級生の理不尽な要求に耐えかねて、桑田さんは野球をやめてしまう。

 転機は中学1年生の時に訪れた。母親から「中学生になったのだから、自分がどういう人生を歩みたいかをきちんと考えてみろ」と言われたのだ。

 そこで考えに考えて、「大好きな野球を続けたい」という結論に至った。さらに、「野球名門校であるPL学園に入学して甲子園に出場し、早稲田へ大学進み六大学野球で活躍し、やがてはプロ野球選手になりたい」という将来像まで描いたのだ。

 そのためには野球、そして勉強も必要だと気付き、「表と裏」の努力を始めた。

 先生やクラスメートから勉強方法やコツを聞き出し、実行するのはとても面白かったという。もともと勉強していなかったので、成績がごぼう抜きで上昇していったのだ。桑田さんに努力の楽しさを最初に教えてくれたのは、意外にも勉強だった。

 それを野球にも生かした。前述の短時間で集中的に努力する練習方法は、勉強法の応用だった。

 野球でもメキメキと頭角を現し、中2になるとエース番号を背負うようになった。中3では全大会優勝を達成。外野にボールが飛ぶことはなく、もはや「敵なし」と思えるほどだった。

 しかし、高校に進学して二度目の挫折を経験する。それは、あの清原和博選手に出会ったことだった。

自分らしさとは何か

 桑田さんはPL学園に入学するまで、清原選手の存在を知らなかった。なぜなら、桑田さんは中学野球部、清原選手はリトルリーグやシニアリーグと活躍の舞台が異なり、対戦したことがなかったのだ。

 始めて会った日、握手をした桑田さんがふと目を上げると、そこには清原さんのベルトがあった。清原さんはそれぐらい大きかったのだ。野球選手としては小柄な桑田さんは、体格が大きく投打に優れる清原選手に激しいコンプレックスを感じた。清原選手に負けないよう、練習を一心不乱に行った。投球フォームで監督から指摘を受けた部分はすぐに修正した。

 しかし、どんなに頑張っても清原選手を超えることはできず、1年生の6月に、投手から野手へコンバートされてしまう。

 投手として活躍できないことで自尊心がズタズタになり、「逃げたい」「やめたい」という思いが募った桑田さんはまたもや母親に相談した。しかし母親は「絶対に諦めるな」と突き放したのだ。優しい言葉を期待していた桑田さんは、これで冷静になり、「何か良い方法はないか」とじっくり時間をかけて考えたのだ。

 そして、活躍できていた中学時代を見つめ直すことを思いつく。まずは、投球フォームを元に戻すことにした。練習も、かつてのように短時間に集中して行うスタイルに戻した。

 この試みが功を奏す。桑田さんは投手としての力をみるみるうちに取り戻し、チームを背負って立つエースの座を不動のものにした。その後、甲子園で桑田清原の「KKコンビ」が大活躍する。

 桑田さんは、この一件以来、「自分らしさとは何か」について常に考えるようになった。そして、基本や常識は大切だが、それが自分に合っているか検証することも、同じぐらい大切だと知る。それが「自分らしさ」につながるのだと。

 「短時間集中型の努力」と「自分らしさ」の2つを得たことが、桑田さんのその後の人生に大きな影響を与えたという。

本物を自分の目で見て、触れてみることが大切

 2007年、40歳を目前にしてメジャーリーグに挑戦したときには、世間からいろいろなことを言われた。「無謀」という声もあったという。しかし、桑田さんは「せっかく野球選手という仕事を選んだからには、本場のメジャーリーグを経験しておかなければ、後できっと後悔するに違いない。恥をかいてもいい、自分の人生なのだから」と考えたという。

 ピッツバーグ・パイレーツに入団し、初登板したときの経験は、かけがえのないものとなった。以来、桑田さんは、こうした講演などを通じて「本物を自分の目で見て、触れてみることが大切だ」ということも伝えるようにしている。

 本物に触れた感覚や感動は、経験した人にしか分からない。「周囲の声に惑わされることなく、本物に触れながら、自分らしさを追求する姿勢がいかに大切か」という桑田さんの思いが伝わってくる講演だった。

編集部より

 「表と裏を両立すること」「効率的に努力すること」「自分らしさを大切にすること」、これらはITエンジニアにも有効な考え方だろう。

 例えば、テクノロジーとビジネス。どんなに技術的に優れたシステムを作っても、それがユーザーのニーズに合っていなければ、プロジェクトは成功したとはいえないだろう。今求められているのは、技術スキルとビジネス視点、両方を持ったエンジニアだ。

 常に勉強し続けなければならないエンジニアにとって、「効率的に努力できること」は1つのスキルだ。短時間で集中して効果を上げられる自分なりの方法を会得できれば、「業務時間外で勉強すべきか否か」といった議論は不要になるだろう。

 そして、「自分らしさ」はもちろんエンジニアにとっても大切だ。AI、IoT、FinTech――業界のはやりにのることも大切だが、それが自分に合っているのか、自分ならではの経験や特長は何かを把握することはもっと大切だ。それを考えずにキャリアを重ねると、時代に利用され、使い捨てられる日がいずれ来るかもしれない。

※一部修正いたしました(編集部)
写真:浦本康平
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