量子コンピュータの力をさらに増幅できる「量子ネットワーク」量子ネットを6段階で実現

デルフト工科大学のQuTechの研究者が、量子インターネットの実現に向けた包括的なビジョンを「Science」誌で発表した。6段階を経て進む量子ネットワークが、各段階でどのようなアプリケーションを可能にするのかを解説した。

» 2018年11月27日 17時00分 公開
[@IT]

 オランダのデルフト工科大学は、同大学のQuTechの研究者が、量子インターネットの実現に向けた包括的なビジョンを米国「Science」誌(2018年10月26日号)で発表したことを明らかにした。QuTechは、デルフト工科大学とオランダの応用科学研究機関TNOが共同で設立した先端研究センター。

 このビジョンでは、量子インターネットの開発が6つの段階で進むとした(以下の箇条書きでは段階ごとに可能になるアプリケーションをかっこ内に示した)。最初の段階では、安全な量子通信を実現する量子ビットのシンプルなネットワークが開発され、最終段階では、完全な量子コンピュータ同士のネットワークが構築されるという。

  1. 信頼性の高い中継器のネットワーク(量子鍵の配布、ただしエンドツーエンドのセキュリティは担保されず)
  2. 量子ビットの準備と測定を行うネットワーク(量子鍵の配布、セキュアな認証)
  3. 量子もつれ配送ネットワーク(デバイス非依存のプロトコル)
  4. 量子メモリのネットワーク(秘匿量子計算、シンプルな分散合意アルゴリズム)
  5. フォールトトレラントな量子ビットのネットワーク(時計の同期、分散量子計算)
  6. 量子コンピューティングネットワーク(リーダー選出アルゴリズム、高速ビザンチン合意アルゴリズム)

 量子インターネットは、量子もつれ状態などの量子現象を利用して、通信技術を革命的に進化させるといわれている。研究者による現時点の取り組みは、地球上の2地点間で量子ビットを伝送する技術の開発だ。量子ビットは、「0」と「1」が混在した状態を採ることが可能だ。さらに複数の量子ビット間で量子“もつれ”を作ることもできる。このことを利用して、ある量子ビットを操作し、瞬時に別の量子ビットの状態に影響を与えるといった操作が可能になる。

 このような性質を利用して、現在のインターネットを超えるような2つの機能を実現できるという。一つは、もつれによって、遠く離れたサイト間の調整を改善すること。時計の同期はもちろん、遠く離れた望遠鏡同士を連携させてより品質の高い撮影画像を取得するといったタスクに極めて適している。

 もう一つの機能は、量子もつれに固有の安全性を利用するものだ。2つの量子ビットがもつれた状態はコピーすることができず、コピーしようとする試みを検出できる。セキュリティやプライバシーを必要とするアプリケーションにうってつけだ。

 量子インターネットによるアプリケーションとして、他にもさまざまなものが知られている。量子ネットワークを実現できれば、さらに多くのアプリケーションを発見できるだろうといわれている。QuTechの研究者は、量子インターネットが開発される6つの段階ごとに、特徴的な技術機能やアプリケーションが登場すると予想した。

 量子インターネットの最初の段階(試験ネットワーク)では、任意の2つのネットワークノード間で量子ビットを一度に1つずつエンドツーエンドで伝送することが可能になるという。これだけでも、量子ネットワークのさまざまな暗号アプリケーションを実現するために十分な性能が得られる。遠い将来訪れる最終段階では、任意の量子アプリケーションの実行環境となる大規模量子コンピュータ同士の接続という目標を実現できるだろう。

 QuTechの研究者の論文では、量子インターネットのこうした進化のビジョンが示されているだけでなく、量子インターネットのエンジニアリング上の課題やアプリケーション開発の課題も解説されている。

 研究者は次のように語っている。

 「われわれはこうしたネットワークを(6段階のうち)より高度な段階に進ませたい。だが、量子ソフトウェア開発者は、アプリケーションプロトコルの要件を軽減することを求められてもいる。より低い段階の技術でもアプリケーションを実現できるようにするためだ」

 エンドツーエンドの量子ビット伝送が可能な最初の量子ネットワークは、数年後に構築される見通しだ。それが大規模な量子インターネット開発の幕開けを告げることになる。

 研究者は今回の論文が、物理学やコンピュータサイエンス、エンジニアリングにまたがる非常に学際的な分野である量子ネットワーキングの分野において、共通言語を提供することを期待している。

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