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» 2018年12月03日 13時30分 公開

Microsoft Tech Summit 2018基調講演レポート(2):あなたのAI活用成熟度はどれぐらい? 企業がAI活用の前に知っておくべきこととは

日本マイクロソフトは、2018年11月5〜7日の3日間、「Microsoft Tech Summit 2018」を開催した。Microsoft エンタープライズCTOが話す、企業がAIを活用する方法とは。

[柴田克己,@IT]

 日本マイクロソフトは、2018年11月5〜7日に都内のホテルで「Microsoft Tech Summit 2018」を開催した。同イベントは、2018年9月に米国で開催された「Microsoft Ignite」での発表内容をフォローアップしつつ、日本独自の内容や事例、展開を盛り込んだものだ。基調講演には、Microsoft CEOのサティア・ナデラ氏を始め、Microsoftのエグゼクティブが多数登壇した。

 本稿では、主にデジタルトランスフォーメーション(DX)とAI(人工知能)との関係について語った、Microsoft エンタープライズCTO(最高技術責任者)のノーム・ジュダ氏の講演内容を紹介する。

企業がAI活用の前にすべきこととは

Microsoft エンタープライズCTOのノーム・ジュダ氏

 ジュダ氏は、ナデラ氏の「全てのアプリケーションにAIが組み込まれる」という言葉を受け(前編参照)、企業がDXを推進し、AI活用を進めるために必要な「ステップ」について解説した。

 まずジュダ氏は「DXとAIは個別の概念だ」と述べる。

 その上で企業は、DXを複数のステップを経て実現していく必要があるという。初期の段階で行われるのは、紙のようなアナログメディアを使って記録、保存してきた「コンテンツ」のデジタル化だ。次の段階ではそれらのコンテンツを扱う業務の「プロセス」をデジタル化し、自動化していくことになる。業務にまつわるコンテンツとプロセスの双方がデジタル化され、その運用が組織に根付くと、企業はその基盤の上に、自社の強みを生かした新たなビジネスモデルを構築できるようになる。その状態がDXというわけだ。

企業がDXに至るまで

 ジュダ氏は、コンテンツとプロセスのデジタル化に取り組み、成果を上げている例として「あいおいニッセイ同和損害保険」の事例に触れた。同社は、「Microsoft Dynamics 365」の導入を通じて業務プロセス改革に取り組み、半年ほどのプロジェクトで、約4万時間の作業時間を削減し、業務効率の向上を実現したとする。

 「ビジネス基盤の『デジタル化』が進んだ企業は、その上でAIやロボットのような新たなテクノロジーを活用して、これまでとは全く違う形でビジネスを展開できるようになる」(ジュダ氏)

 では、企業はデジタル化したビジネス環境に、どのようにAIを組み込んでいくのだろうか。ジュダ氏は「AIサービス」「アジャイルAI」「AI成熟度の向上」「倫理的なAI」という4つのテーマに沿って、その取り組みの例を示した。

 「サービスにAIを適用できる代表的なケースは、AIが人間以上のパフォーマンスや正確性を発揮できる作業分野である」(ジュダ氏)

 例として挙げたのは、本人確認などにおける「認証」の分野だ。免許証やパスポートといった公的な身分証明書類は偽造されやすく、それに基づいて確認を行う際にも、判断する担当者で個人差が出やすい。オーストラリアの銀行「National Australia Bank」では、AIを用いた顔認証を、ATMでの本人確認に利用する試みを行っている。

 「このプロジェクトは、長期間かけて取り組んだものではない。少数のエンジニアが約2カ月で形にしたAIサービスであり、法律上の規制やプライバシーの問題もクリアしている」(ジュダ氏)

 「アジャイルAI」は、ビジネスへのAI適用をどのような組織体制で行っていくべきかというテーマだ。ジュダ氏は、最も重要なポイントを次のように述べた。

 「AIが価値を生み出すためには、ビジネス上の仮説と需要が必須だ。企業が抱えているビジネス上の課題を、どのようなアプローチなら解決できるのかという仮説があって、初めてAIというテクノロジーは力を発揮する。こういったビジネス側での需要を考慮せずに、ただテクノロジーを使いたいと考えるのは無意味である」(ジュダ氏)

 その前提で、現在のAIで広く用いられるようになっている「機械学習」のアプローチでは、「エンジン」「モデル」「データ」(トレーニングデータ)が企業の持ち得る中心的な資産であるとジュダ氏は言う。ここでのデータは、解決を求める課題にまつわるあらゆるタイプのデータを指す。既存かつ単独の業務システム内に蓄積されたものにとどまらず、ソーシャルデータやWebアクセスに関するデータ、IoT(Internet of Things)で取得したセンサーデータ、画像、映像データなども含まれる。これらのデータから、ビジネス上の仮説に基づいてモデルに学習させることで、課題を解決できる「ナレッジ」を備えたAIを作ることができる。

 米国のスーパーマーケットチェーン「Kroger」では、POSデータやスマホアプリのログデータ、店内の商品棚に設置したカメラで取得した映像情報など、多彩なデータを組み合わせて、商品マーケティングに関するナレッジの提供をビジネス化した。またデンマークの建設会社は、ドローンで撮影した画像データから、橋梁設備の損傷状態をAIで検出している。この建設会社のケースでは、約6週間という短期間でAIモデル作成が行われた。

 「これらは、アジャイルAIの良い例だ。集めた『データ』は、人間が持つ『ビジネス知識』と組み合せることで、有用な『ナレッジ』を生み出す」(ジェダ氏)

自社のAI活用成熟度はどの「ステップ」にあるのか

 ジェダ氏は、企業におけるAI活用の「成熟度」には次の4つのステップがあるとした。

第1段階 「AIとは何か」「それがどのように活用できるか」についての調査や検討をしている状態
第2段階 AIでできることを理解し、それを活用していくとコミットメントする「アプローチ」の状態
第3段階 企業が実験的な形でAIの活用を始めている状態
第4段階 最新のデータサイエンスをビジネスに生かしながら、AIモデルのライフサイクル管理も実現している状態

AI活用の「成熟度」

 Microsoftが欧州で行った調査によれば、企業の3分の2は、AI成熟度が「第2段階」までにとどまっており、成熟した第4段階にある企業は約4%にすぎなかったという。

 「企業によるAI活用は、グローバルで見てもまだ始まったばかりだ。だが、もし企業がこれからAIについて考えるなら、『AIと全く関わらない』という決断は戦略的とはいえなくなるだろう。自分たちのAI成熟度が現在どの段階にあり、どのようにステップを上がっていくかを決断する必要がある」(ジェダ氏)

 そしてジェダ氏は最後に、「全てのアプリケーションにAIが組み込まれ」「全ての企業が何らかの形でソフトウェア開発に関わる」時代において、ITベンダーだけではなくユーザー企業も「AIの倫理」と無関係ではいられなくなるとした。企業は、自分たちのビジネスにおいて、AIをどのように利用していくのかを「マニフェスト」として定め、実行する必要があるという。企業のAIマニフェストは、企業そのものの倫理基準にもつながり、それに反する行いをすれば、急速なブランド毀損(きそん)や消費者のモラル低下を招くと警告する。

 「いずれ、全ての企業はAIマニフェストを定める必要が出てくる。そのための取り組みは、今すぐにでも始めておくことを勧める。では、『倫理的なAI』とは何か。AIが出した結果の利用には、必ず人間による意思決定が行われ、かつ人間の創造性を高める形となるものだ。技術が正しく活用されることで、人はより多くのことを達成し、新たなものを生み出せるようになる」(ジェダ氏)

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