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» 2018年12月14日 05時00分 公開

ITの教室:【USB】第6回 USB充電を大きく変える新規格、USB PDとは? (1/3)

USBは、さまざまな機器で電力供給のために利用されている。スマートフォンなどの充電にもUSBが利用されているのはご存じの通り。しかし、このような使い方は当初想定されていなかったものだ。そこで、新たにUSBの電力供給の仕様「USB Power Delivery」が作られた。今回は、この「USB Power Delivery」について解説する。

[塩田紳二,著]

ITの教室」は、ITに関わる規格や仕組みなどを簡潔に紹介するコーナーです。まずはUSBについて、その概要を解説します。


USB PDの概要

 USB Power Delivery(以下、USB PD)は、USB Type-Cの電力機能を拡大し、最大100W(20V/5A)の供給を可能にするオプション仕様である。メーカーはUSB PDを採用することで、複数機種のACアダプターを同一のものとすることが可能であり製品管理上のメリットがある。

 携帯電話では電源仕様や充電コネクターを統一することで買い換え時に前の機種の電源アダプターが利用可能である。そのため、充電器を別売とするような形態になったという事例もある。最近でも安価な機器でマイクロUSBを電源として利用できる機器では、電源アダプターを省いてコストダウンしているものも見掛ける。

 USB PDにより、より大きな電力を必要とする機器でも電源が共用できるようになるため、他のデバイスでもこうした状況が生まれる可能性もある。いまのところ、本体、電源ともにUSB PDに対応するコストは小さくないが、今後、コスト低下とともに電源はUSB PDに収束し始めるのではないかと思う。

USB PDに対応したUSB Type-Cコネクター USB PDに対応したUSB Type-Cコネクター
HP x2 210 G2背面カメラ付きのUSB PDに対応したUSB Type-Cコネクター。横のUSB Type-CコネクターはUSB PDに未対応である。

 現在有効な仕様では、USB PD専用のUSB PD Type-A/BコネクターとUSB Type-Cコネクターで利用可能だが、事実上は、USB Type-Cのみの仕様になりつつある。本記事はUSB PDの解説ではあるが、同時にUSB Type-Cコネクターでの話となり、従来のUSB Type-A/Bコネクターやそれを使うUSB 2.0〜3.2の話ではないことに留意してほしい。

 USB PDは、接続時や動作中に電力供給方向の切り替えを可能にし、USB Type-Cの機能強化としても利用されている。E-Markedケーブル(俗にいう認証チップ内蔵ケーブル)の利用や、ホストとデバイスの役割切り替え、Alternate Modeなどに関わる仕様でもある。

 仕様としては、USB Type-CとUSB PD、さらにはUSB 2.0/3.2、USB Battery Charge(以下USB-BC)とも独立しており、USBの実装では、それぞれを組み込むことが可能である。例えば、USB 3.2とUSB-BC/USB PD/USB Type-Cという全ての組み合わせが可能である。

 USB PDの機能が有効になるのは、USB PDを実装したポート同士が接続されたときのみで、当然ながらUSB PDを実装したポートとUSB PDを実装していないポートの組み合わせではUSB PDの機能は利用できず、通常のUSBとしての動作しか行われない。

 USB PDの登場により、100W以下のモバイルデバイスなどでは、USB Type-C+USB PDの導入が急速に進む。スマートフォンでは通常USBポートが1つのみというハードウェア構成が多く、USB Type-CとUSB PDそしてAlternate Modeなどを使うことで、1つのコネクターに多数の機能を載せることが可能になる。

 また、PCでも給電をUSB PDとしたものが増えてきている。PCの場合、バッテリーの大容量化に応じて、電圧を上げて充放電の電流を低く抑えることが行われてきた(電圧にかかわらず、大電流が人体などに危険なため)。このために、USB標準の5Vは、電圧が低過ぎてPCの充電には向いていなかった。

 しかしUSB PDでは、仕様上最大20Vを出力させることが可能で、PCの電源にも利用可能になった。これまでにもサードパーティーのACアダプターは、販売されてきたが、メーカーや機種ごとの多数のプラグを切り替えるようなものだった。

 現状、USB Type-CでUSB PDをサポートするためには、追加の半導体デバイスなどが必須となるため、PCなどでは必ずしも全てのUSB Type-CポートでUSB PDがサポートされているわけではない。

 なお、USB PDをサポートしたポートやプラグには、「第1回 知っているようで知らないUSB」で示したような電池をイメージするシンボルを付けることができるが、現状、USB PDのシンボルはほとんど見掛けない。

USB PDの概要

 ここから、USB PDについて解説を行っていこう。ベースにしているのは、最新の仕様書「USB Power Delivery Revision 3.0 Ver.1.2」である。仕様書(英語)は、USB ORGのWebサイトから入手可能である。

そもそも「電力」って何?

 ここでは、本文理解のために最低限度の解説として「電力」を解説しておく。すでに理解されている方は読み飛ばしていただいて構わない。

 「電力」とは、電気が行う仕事、電気が持つエネルギーのことである。単位はW(ワット)で、「W数」とは電力を表す数値を意味する。電力と電圧、電流の関係は、「電力[W] = 電圧[V] × 電流[A]」となっている(直流の場合)。

 電圧の単位はV(ボルト)で、電流の単位はA(アンペア)である。例えば、5Vで1Aが流れている場合、電源は5Wの電力を出力していることになる。なお、電気のエネルギーで主導的な役割を持つのは電流である。電力は、電力を出力する「電源」と電力を消費する「負荷」が接続されたときに存在するもので、電源だけ、負荷だけの場合には、電流が流れないために電力そのものが存在していない。

 ただし、電流は負荷側の状態で決まる。このときの電力を「消費電力」などという。電圧は電源装置の仕様で決まるが、電流は負荷側の仕様、動作で決まることに注意されたい。ただし、全ての電源には、出力できる最大電流(あるいは最大電力)があり、例えば、5V最大1Aの電源があったとき、出力電流は、負荷によって決まるが、電源側の仕様により最大1A(電力にすれば5W)までしか出力できない。

USB Type-CとUSB PDの関係

 USB PDは、簡単にいうとUSB Type-Cコネクターの電源機能を強化するオプション仕様である。オプションとはいえ、USB Type-CとUSB PDは密接に関係しており、USB Type-Cの特徴として喧伝(けんでん)される機能のうちの幾つかは、USB PDとの組み合わせでのみ実現できるものも少なくない。

 例えば、USB Type-Cの特徴の一つであるAlternate Modeは、USB PDが実装されているUSB Type-Cコネクターの機能である。Alternate Modeとは、USB以外の仕様(ゲスト仕様と呼ばれる)の信号をUSB Type-Cポートから出力する機能だ。このゲスト仕様の信号への切り替えなどをUSB PDのデバイス間通信で行う。

USB Type-CとUSB PDの関係 USB Type-CとUSB PDの関係
USB PD 3.0は、USB Type-Cコネクターの電源機能を強化する仕様である。

 USB PDの最大の特徴は、その名前にあるように電力供給能力を拡大し、USB Type-Cコネクターを介して最大100Wの電力を扱えるようにすることだ。ただしUSB PDは、USB PD対応ポート同士が接続した場合のみに有効となり、接続しているポートの片側がUSB PDに対応していなければ、従来のUSB 2.0/3.2、USB Type-CやUSB-BC(Battery Charge)といった仕様に基づいて電力供給が行われ、この場合、出力電圧は5Vのみとなる。

 USB PDでは、必ず5V/9V/15V/20Vの固定電圧出力が可能で、5V/9V/15Vの場合には、最大3Aの出力が行える。また、20Vでは最大5Aの出力(この場合に100Wとなる)が可能になるが、この際にはeMarker(認証チップ)を搭載した5Aケーブルを利用しなければならない。通常のUSB Type-Cケーブルでは、3Aまでの出力が行える。また、オプションで電圧を変更できるプログラマブル電源、独自の給電方式などをサポートできる。

 ただし、USB Type-Cポートの全てがUSB PDを実装しているとは限らない。USB PDは、USB Type-Cに対してはオプションという位置付けになるからだ。USB PDを使ってUSB Type-Cコネクターから給電を受けるPCでも、全てのUSB Type-CポートがUSB PD対応しているわけではない点に注意したい。

USB PDの歴史

 USB PDには誤解が多い。というのも、USB PDの仕様が成立する過程で複数の互換性のない方式がいったんは正式な仕様となったからだ。ここでは、USB PDの成立過程を見ていくことで、何が正式な仕様で何が現在の仕様でないのかを解説する。

 USB PDの仕様書は、大きく「Revision」(リビジョン、版)で区別される。「USB PD 3.0」という名称は、「USB Power Delivery Revision 3.0」という仕様書に対応する。また、同じリビジョン内で改訂が行われた場合には仕様書のバージョンが上がる。

 例えば、最新のUSB PDの仕様書は前述の通り「USB Power Delivery Revision 3.0 Ver.1.2」である。一部のインターネット記事などで「USB PD バージョン3」などの表記を見掛けることがあるが、仕様書からいえば、この表記は正しくない。なお、本記事では、USB PDのリビジョンに関して「USB PD 3.0」(USB PD Rev:3.0)といった表記を行う。

 最初のUSB PD 1.0は、2012年に発表された。これは、USB 3.0(2008年)が発表された後であり、USB 3.1(2013年)になる前の年である。この時点でUSB Type-C(2014年)はまだ決まっていなかった。USB PD 1.0は、USB2.0/3.0のType-A/Bコネクターに対して定義された。

USB PD標準化の歴史 USB PD標準化の歴史
USB PDが現在の仕様になるまでには、長い時間がかかり、また、大きな変更が何回もあったため、少々混乱がある。

 ただし、Type-A/Bそのままではなく、接続検出などに特別なプラグ/レセプタクルが定義された(信号ラインはそのまま)。また、当時は、出力電圧に関しては、5V/12V/20Vの3種を想定しており、USB PD Rev:2.0 Ver.1.1まで電源の仕様を「パワープロファイル(Power Profile)」と呼んだ。このUSB PD 1.0は、対応するコントローラーデバイスなども発表されたが、実際には、ほとんど採用されなかった。このUSB PD 1.0では、従来のType-A/Bコネクターが対象で、USB PDデバイス同士の通信は、VBUSに信号を重畳して行っていた。

 2014年になるとUSB Type-Cコネクターが発表される。これに合わせUSB PDのリビジョンは2.0となり、USB Type-Cコネクターへの対応が行われた。ただし、初期のUSB PD Rev:2.0 Ver.1.0では、基本的な仕様はUSB PD Rev:1.0を引き継いでおり、コネクターとしてUSB Type-Cが追加されたのみだった。

 USB Type-Cは、最初からUSB PDの利用を想定していたため、CC信号ラインをUSB PDのために利用する。CC信号ラインを使って接続を検出し、デバイス間やケーブルが内蔵するE-Markedデバイスとの通信を行うようになっている。

 2016年になり、USB Type-Cケーブルのみに対象を限定したUSB PD Rev:3.0が登場する。これに合わせ、USB PD Rev:2.0が改訂されUSB PD Rev:2.0 Ver.1.2が作られる。Rev:2.0 Ver.1.0〜1.1ではType-A/Bコネクターも対象としているものの、USB Type-Cにも対応していた。Ver.1.2もType-A/Bコネクターに対応しているものの、USB Type-Cに関しては、パワープロファイルを廃してパワールール(Power Rules、後述)を導入した。

 つまり、USB PD Rev:2.0 Ver.1.2は、Rev:3.0の成立を受け、矛盾が出ないように作り直されたわけだ。これは、すでにUSB PD Rev:2かつUSB Type-Cを採用した機器が市場に出回り始めたため、Rev:2.0を廃止するわけにはいかなかったからだと推測される。このため、現時点でも2017年に発表されたRev:2.0 Ver.1.3(Ver.1.2の改訂版)は、有効な仕様であり、これに基づいた半導体デバイスなども販売されている。現時点でのUSB PDの仕様の違いをまとめたのが下図である。

USB PDの仕様の違い USB PDの仕様の違い
USB PD Rev:1.0、Rev:2.0、Rev:3.0の違い。USB PD Rev:2.0 Ver.1.2〜1.3は、USB PD Rev:3.0の成立を受けて改訂されたため、Rev:2.0 Ver.1.1までとは仕様に大きな違いがある。

 Rev:3.0は、Rev:2.0 Ver.1.2以上に対して上位互換性を持つ。実際の接続では、USB PD Rev:3.0デバイスとRev:2.0デバイスが接続される可能性がある。このとき、Rev:3.0デバイスは、Rev:2.0デバイスとして振る舞うことになっている。

 また、USB PD成立の過程で、USB Type-C側にも変更があり、一部の仕様がUSB Type-CからUSB PD側へ移る、あるいはさらに別仕様(例えばUSB Type-C Authenticationなど)となるといったことが起こった。このため、USB Type-CとUSB PD、関連仕様の境界があいまい、あるいは古い仕様のままで語られることも起こった。

 こうした歴史があるため、USB PDに関する記述は混乱している。一つには2015年以前のUSB PD Rev:1.0またはRev:2.0 Ver.1.1以下に基づく記述は現在では、過去の仕様であり、間違いではないものの、すでに有効ではない仕様(例えばパワープロファイルなど)である。

 このためインターネット上の記事を参照する場合には、執筆時期に注意する必要がある。おおむね2016年以降のUSB PD Rev:3.0 Ver.1.0や同Rev:2.0 Ver.1.2に基づく記事は、細かい部分は別にして現在のUSB PDについての話になるが、2015年以前のものに関しては、古い仕様を元にした話であり、必ずしも現在のUSB PDとは一致しない可能性がある。

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