高知編:経営のプロが本気で取り組む地方活性化――高知で芽吹くITとコンテンツ産業ITエンジニア U&Iターンの理想と現実(55)(2/3 ページ)

» 2019年01月18日 05時00分 公開
[加山恵美@IT]

経費削減のためだけの地方拠点では、現地の人が幸せになれない

 2018年12月、東京以外の働き方を支援する「シビレ」が開催した「シビレバー」で、高知をよく知る2人が、「IT・コンテンツ産業×高知の未来」をテーマに語り合った。

高知県IT・コンテンツ産業振興アドバイザー 武市智行氏

 武市智行氏は高知県高知市出身、現在は高知県IT・コンテンツ産業振興アドバイザーの肩書で、高知の活性化をライフワークとしている。

 四国銀行から「スクウェア」(現スクウェア・エニックス・ホールディングス)へ出向し、後に社長を務めた。社長時代に出した「ファイナルファンタジー」の7から11辺りで、音楽担当の植松伸夫氏やグラフィックデザインの野村哲也氏など、高知出身者が活躍していたという。

 武市氏は(スクウェア社長時代に)「植松さんや野村さんのように才能のある人がいるはずだから、高知に開発拠点を作りたいと思っていた」と明かした。その願いは今、IT企業の誘致やエンジニアのUIターンという形で実現しつつある。

 武市氏が「AQインタラクティブ」(現マーベラス)の社長時代に経営企画室長をしていたのが石井武氏だ。石井氏は武市氏のことを「経営の大先輩、メンター」と慕う。

 現在石井氏はソーシャルゲームやITサービスを手掛ける「オルトプラス」で代表取締役 CEOを務める。

オルトプラス代表取締役 CEO 石井武氏

 石井氏は「ゲーム会社にとってサポートやデバッグ(品質管理)はコストセンター」だと話す。経営的観点からすると、経費は安く抑えたい。だからといって経費削減だけを目当てに地方に拠点を構えるなら、「現地で働く人が幸せになれない」と、石井氏は思っている。

 そこでソフトウェアテスト(検証と修正)を本業とする「SHIFT」と組んで、2015年に合弁会社「SHIFT PLUS」を高知県に設立し、武市氏が会長として就任した。

 SHIFT PLUSはゲームやアプリの問い合わせ対応や品質保証に加え、AIのチャットbotを採り入れた自動解決チャットサービス「AICO」を提供するなど、先進的な取り組みも行っている。高知の人材活性化にも積極的で、転職支援サービス「SHIFT PLUSエージェント」や高知県で働くことを応援するメディア「BUNTAN」で情報発信をしている。

BUNTAN」は高知の果物「文旦」にかけている

 驚くべきは雇用創出と若手の発掘だ。2015年の設立以来、3年間で100人以上を採用している。社長を20代の松島弘敏氏が務めているのも目を見張る。SHIFT PLUSに続き、2018年3月に設立したゲーム開発及び運営を行う「オルトプラス高知」の代表取締役も、20代の石川哲大氏だ。まだ発足して1年たたないが、現地採用やUターン中心に採用を進めている。

 SHIFT PLUSらの快進撃は高知の雰囲気を少しずつ変えている。

 一般的に地方の優秀なエンジニアは東京に出る傾向がある。そのせいか、高知でも当初はIT企業が発足したことに懐疑的な人も少なくなかったという。しかし今では「うまくいくと思ったよ」と応援してくれる人が増え、好循環が生まれつつある。若手リーダーを応援する機運も高まっているという。

四万十川の豊かな流れ

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