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納入したソフトの検収を速やかに終えてもらう方法プロジェクトはなぜ失敗するのか(14)

皮肉なことに、プロジェクトと失敗とは相性がよい。納期どおりにできなかった、要求どおりにできないことが多い、機能を削減することが多いなど、もともとの目的、スコープから、後退したプロジェクトの経験を持つITエンジニアは多いに違いない。なぜ目的どおりにいかないのか。どこを改善したらいいかを本連載で明らかにし、処方せんを示していきたい。

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ソフトウェア開発は、いくらでもいちゃもんが付けられる

 残念ながら、ソフトウェア開発にはバグが付き物である。以前は、「コンピュータ業界はおかしい。欠陥(バグ)があるものを平気で納品する」などという非難をよく聞いた。いまでも同様な考え方をする人がたまにいる。ソフトウェアにバグが発生するのは、ある程度しょうがないということは、裁判所の判例でも認められている。1つ1つ手作りで違うものを作っていくというソフトウェア開発の特性を考えると、バグはやむを得ないことだとも思える。しかし一般の人にとっては、「バグがある」ということは、イコール「欠陥商品である」という認識が事実としてある。

 このギャップは、ソフトウェアが持つ特殊な性格を理解してもらうことでしか埋められない。これが不十分だと大きなトラブルに発展する場合がある。例えば、ソフトウェアを納めて検収作業を行ってもらったとする。この検収作業の過程で、いくつかのバグが出るのはある程度やむを得ないと納入者は思うのだが、顧客は欠陥商品が納入されたと考える恐れがある。当然、納入者は指摘されたバグを速やかに修正するが、その後、顧客がすんなり検収してくれるかというと、そんなことはない。「このような欠陥がすぐに出るようなソフトウェアであれば、しばらく使用してみないと検収はできない」というようなことをいい出す始末である。その後3カ月ぐらい使用してもらったとする。この間にまたバグが1つや2つは出てくるだろう。すると顧客は、「こんなバグが出るようでは、まだ様子を見ないと検収はできない」といい、検収を先延ばしするかもしれない。こんなことを繰り返していると、結局いつまでたっても検収が終わらない。

検収基準は明確に

 それでは、ソフトウェア開発の契約において、どのような条件を満たせばすぐに検収してもらえるようになるのか。契約上で検収条件が明確になっていない場合、顧客と納入者との間で、請負に関する契約関係は民法の規定に従うことになる。しかし、民法では検収に関する規定が定められていない。従って、検収基準は契約の中で明確にしておくしかない。もし、契約で検収条件を定めていなければ、検収に対する双方の認識の違いを調整するのが非常に難しくなる。

検収基準の定め方

 検収基準はどのように定めるのがよいか。まず大事なことは、検査仕様書の作成を契約書で明確にし、この仕様書に沿った検査に合格した時点で検収完了とすることを契約書に明記することだ。検査仕様書を作成することで、検収基準を満たしているか、いないかを明確にできる。

 検査仕様書を顧客が作るか、納入者が作るかは、顧客のITに関する能力によって決まると考えてよい。顧客にITの知識が十分あり、検査仕様書を作成する能力があれば、顧客が作る方がよい。しかし、顧客によってはITの知識が不足していて検査仕様書を作成することができない場合もある。この場合、納入者が検査仕様書を作成することになる。

 作成された検査仕様書は、相手方が承認することで双方の合意を得ることになる。つまり、顧客が検査仕様書を作成した場合は納入者が、納入者が検査仕様書を作成した場合は顧客が、検査仕様書を承認する。

 次に大事なことは、検収期限を定めることだ。例えば、納品後2週間以内に完了しなければ自動的に承認されたものと見なすことを契約で定めておく。不当に検収が先送りにされることを防ぐためだ。

 以上述べてきたように、検収基準を契約書に明記しておくことで、検収にまつわる多くのトラブルを回避できる。プロジェクトを開始する際には、ぜひ、この検収基準について注意を払っていただきたい。

顧客は神様か

 「お客様は神様」という言葉があるように、日本の社会では購入者である顧客の力が非常に強い。このことが不当な取引の強制につながる場合は多い。これを防ぐために、独禁法では「委託者による優越的地位の濫用行為」を禁止している。顧客を大事にすることはもちろん必要であるが、だからといって顧客が不当な要求をしてよいわけではない。ソフトウェアの検収についても、健全なルールに基づいて行われるべきであり、そのためには契約書において検収ルールをきちんと定めておく必要がある。

 具体的な契約書の作成方法は、経済産業省が公表している「情報システム・モデル取引・契約書」が参考になるので、ぜひ参照してほしい。このモデル契約でも、今回紹介したのと同じ方法が取られている。このような方法が定着し、検収に関する不要なトラブルが減ることを望む次第である。

著者プロフィール

落合和雄

1953年生まれ。1977年東京大学卒業後、新日鉄情報通信システム(現新日鉄ソリューションズ)などを経て、現在経営コンサルタント、システムコンサルタント、税理士として活動中。経営計画立案、企業再建などの経営指導、プロジェクトマネジメント、システム監査などのIT関係を中心に、コンサルティング・講演・執筆など、幅広い活動を展開している。主な著書に、『ITエンジニアのための【法律】がわかる本』(翔泳社)、『実践ナビゲーション経営』(同友館)、『情報処理教科書システム監査技術者』(翔泳社)などがある。そのほか、PMI公式認定のネットラーニングのeラーニング講座「ITプロジェクト・マネジメント」「PMBOK第3版要説」の執筆・監修も手掛けている。



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