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文化になるWebサービスを――リブセンス 村上太一特集:学生起業家たちの肖像(4)

学生起業なんて、うまくいくわけがない? 確かに、成功するのは簡単ではないだろう。だが、着実に売り上げを伸ばし、会社の規模を大きくしている「学生起業家」も存在する。技術の重要性を強調し、エンジニアリングとビジネスのバランスを取りながらWebビジネスを加速させ続ける若き社長のケースを紹介しよう。

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 「なくなったらユーザーに悲しまれるようなWebサービスを作っていきたいですね」

 「採用課金型」の料金形態と「採用祝い金」制度というユニークな特徴で売り上げを伸ばしたアルバイト情報サイト「ジョブセンス」を運営するベンチャー企業、リブセンス。早稲田大学の大学生が2006年2月に設立した会社は、すでに25人の社員を抱える規模にまで成長した。

 Webの世界にほれ込み、エンジニアリングの重要性を強調する若き経営者、同社 代表取締役 村上太一氏の考える「エンジニアリングとビジネスのバランス」について聞いた。

大学の起業家講座で優勝し、オフィスを手に入れる

 小学生のころから「将来は社長になる」と決めていたという村上氏は、高校のころから実際に起業するための準備を始めた。

 「簿記2級やシステムアドミニストレータを取ったり、起業家のイベントに参加したり……役に立つかどうかは分かりませんでしたが」

 早稲田大学に入学後、村上氏は「ベンチャー起業家養成基礎講座」という講座と出合う。講座終盤に開催されるビジネスプラン発表会の優勝者には、大学のインキュベーション施設のオフィスが1年間、無料で使えるという特典があったのである。これ幸いと講座に参加し、優勝してオフィスを手に入れた村上氏は2006年、リブセンスを立ち上げた。最初は村上氏を含めて4人でのスタート。そのうち2人はエンジニアだった。

 「僕自身、小学生のころ、1995年に初めてパソコンを触ってインターネットにはまった世代。中学生のときにはJavaを触ったりしていましたし、Webサービスが大好きなんです。生粋のエンジニアというわけではありませんが、仕組みはある程度、理解しているし、エンジニアの気持ちも分かっているつもりです」

 アルバイト情報サイトからスタートし、現在も人材系のサービスが売り上げの大部分を占めるが、村上氏は「人材ビジネスだけをやりたいわけではない」と語る。あくまで、Webビジネスが軸なのだという。

村上太一氏
リブセンス 代表取締役 村上太一氏

「やめようと思った。でも、やめ方が分からなかった」

 本特集で登場したフォリフの熊谷祐二氏モバキッズの田村健太郎氏は、同世代で目標とする起業家に村上氏の名前を挙げている。大学生が立ち上げてまだ4年にもかかわらず、しっかりと売り上げが伸びていることは注目に値する。だが、村上氏は「最初は本当につらかった」と振り返る。

 「最初の1年はまともに売り上げが立たなかったんです。採用課金に採用祝い金と、それまでにないビジネスモデルでしたから、そもそも本当に成り立つのだろうかと不安でした。やめようと思ったことは何度もあります」

 なぜ踏みとどまれたのか。村上氏は「やめ方が分からなかった」と苦笑いをしながら答える。数少ないとはいえ顧客がいた。顧客がいる以上、責任がある。いきなり「やめます」とはいえなかったのだ。

 設立半年後から、5万円の給与が払えるようになった。2年目に入ったころから、売り上げが一気に上がり始めた。特にきっかけは思いつかない、と村上氏は話す。「コツコツとやっていたことが実を結んだんじゃないでしょうか」

エンジニアが働きやすい会社づくり

 村上氏は、Webビジネスにおける「エンジニアの重要性」を各所で強調している。

 「やっぱりWeb好きな人は、一度はプログラマにあこがれるものじゃないでしょうかね。僕もそうでした。僕は社長という立場を選びましたが、Webビジネスに優れたエンジニアと高い技術は不可欠です。だから、エンジニアが働きやすい会社になるよう努力しています」

 現在、25人の社員のうち、半数以上がエンジニア。村上氏は彼らが働きやすいような環境づくりに熱心だ。例えば、キーボードはプログラマからの評価が高い東プレのRealforceを導入している。

 単純な「労働環境」だけではない。村上氏は「期限を設けるものと設けないものの切り分け」という観点からも、エンジニアの働きやすさを追求する。

 「あるサービスを作る場合、個々のタスクに期限を決めていきます。でも中には、あまり期限を設けない方が良いものもあります。例えばわたしたちのサイトでいえば、検索モジュールなどは方法論の採用にあたって検証が不可欠ですので、十分に時間を取り、入念な選定をしています。その方が後々のサーバコスト、保守コストを考えると割安になる。期限があると、その場限りの考えで妥協してしまいがちですから」

 こうした切り分けは、「新しい技術の追求」という観点にも表れている。「きちんとビジネスになるWebサービスを作っていきたい」という考えから、村上氏は「利用する技術はあまり新し過ぎない、実績ができている技術が望ましい」と語る。だが、それは新しい技術を追いかけなくていいということを意味しない。

 「仕事では、新しい技術をどんどん使うわけにはいきません。でも、常に新しい技術を追いかけて、少しずつビジネスに取り込んでいかなければならないと思います。社員にも、両方のバランスを求めています」

 Webや新しい技術が大好きで、一方で安定したビジネスのことも考える。それがリブセンスの成長につながっているようだ。


ナンバーワンとオンリーワン、2つの軸

 村上氏は今後の事業について、2つの軸で考えているという。「ナンバーワンを取るサービス」という軸と、「オンリーワンを取るサービス」という軸だ。

 「ジョブセンスは求人サイトですから、すでに市場が存在します。つまり、ナンバーワンを取りに行く。一方で、まだ市場がないような領域のサービスを作ってオンリーワンを取りに行くことを始めたい」

 オンリーワン狙いの軸のみだと事業が成り立たない可能性があるため、危険だ。だから「両軸が必要」だと村上氏は繰り返す。

 「市場がない領域のサービスをヒットさせられれば、市場をつくれるだけでなく、その市場の代名詞になれる。いい換えれば、文化になるサービスに成長する。そういうサービスを作りたい」

 社員の中で最年少の経営者は、エンジニアリングとビジネスのバランスを巧みに取りながら、次のステップへ進もうとしている。彼らが「文化となるようなWebサービス」を生み出せるかどうか、注目したい。

オフィスにて
以前のオフィスは手狭になったため、2009年12月にオフィスを移転した内装のデザインは友人にお願いしたそうだ

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