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指示しないリーダー像:プロダクトオーナーは舵取り役開発チームを改善するためのスクラムTips(6)(1/2 ページ)

「スクラム」は、アジャイル開発の手法群の中でも、「チームとしての仕事の進め方」に特化したフレームワークだ。スクラムの知識を応用して、開発チームの日常をちょっとリファクタリングしてみよう。

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スクラムに指揮系統はない

 スクラムでは、「チーム」を重視します。これまでの連載では、下記のことを説明してきました。

  • 刻々と変化する状況に対応するため、チーム全員が目標を共有する
  • きちんとコミュニケーションできている状態を維持するため、チームの人数を適切に保つ

●解説記事

 スクラムでは、開発チーム内での「上司と部下」の関係や、「コマンド&コントロール(命令・指揮)」を用いたマネジメントは行いません。チームメンバー皆が情報を共有して理解し、チームの方針を決めていきます

スクラムにおける、2つのリーダー像

 そうはいっても、責任者がいた方が効率的な場合もあります。そこで、スクラムでは2つの異なるリーダー像を定義しています。なお、前提として、スクラムでは従来のリーダー像・マネージャ像を分解し、主な責任はチームに委譲しています。

  • プロダクトオーナー
  • スクラムマスター

 どちらもチームをサポートする役割ですが、機能は異なります。これから2回に分けて、2つのリーダー像を説明します。今回は「プロダクトオーナー」です。

プロダクトオーナー:プロダクトの方向性を決める舵取り役

 プロダクトオーナーは、チームが生み出す成果物(プロダクト)の方向性を決める「舵取り役」です。

 「オーナー」というと、日本語ではかなり強い権限を持った「所有者」という印象がありますが、スクラムではそれほど強い意味ではなく、「責任者」や「当事者」というぐらいの意味です。

役割は「方向性を決める」こと

 プロダクトオーナーの責務は、「方向性を決めること」です。具体的には、プロダクトバックログを記述し、常に最新の状況に合わせて、プロダクトバックログ内の項目の優先度を変更していきます。

 「チームに権限を委譲しているのに、なぜその方向性をチーム自身が決めないの? それじゃ通常のリーダーと変わらないじゃないか?」

 この疑問はもっともですが、通常のリーダーとプロダクトオーナーの違いは、「チームとの関係性」にあります。

チームを指示しない

 プロダクトオーナーは、チームに指示しません。あくまで、プロダクトバックログの編集を通じて、チームに情報を渡すだけです。プロダクトバックログに記載されたものがいつまでにできるかは、チーム自身の見積もりと計画によって決まります。

 プロダクトオーナーが渡す情報は、例えば以下のようなものがあります。

  • チームが開発する対象物はどのような価値があるか
  • 誰が使うのか、使う人々はどういう人で、いつ使うのか
  • 予算を出す人は誰で、お金を出すにあたって必須の条件、重要視していることは何か
  • チームメンバーは何のスキルを持っていて、チームはどのような状態か
  • チームの中の専門家はどういう見立てをしていて、それらすべてを生かして顧客の要望に応えるにはどのような順番で開発を進めるべきか

 こうしたことを、プロダクトオーナーが把握し、具体的な機能や作業のリストに落とし込み、プロダクトバックログとしてチームに提示します。

 ちょっと難しい概念ですが、感覚的にはサッカーの試合における「ゲームメーカー」に近いと思います。ゲームメーカーの役割を考えてみましょう。

プロダクトオーナーは、サッカーにおけるゲームメーカー

 サッカーのチームメンバーは11人です。ゴールキーパー以外の10人の選手には、特定の権限や役職はありません。選手同士で役割を決め、90分間のゲームを運営していきます。

 ゲームの状況は常に変化します。自陣のゴール近くでボールを奪われれば得点されれる危機ですし、逆に相手陣地でボールを奪えばチャンスになります。選手たちは、こうした最新の状況を常に確認し、自律的に、素早く方針を決める必要があります。

 野球と同じように監督はいるものの、試合中にチームの方針に直接介入する手段はありません。そこで活躍するのが、ゲームメーカーです。

 ゲームメーカーに、特別な権限はありません。広い視野を持ち、状況を確認し、瞬時に判断し、適切なタイミングでボールを蹴る能力のある選手が、チームに信認されてゲームメーカーとして振る舞います。

 2年連続で欧州最優秀選手に選ばれたリオネル・メッシ(スペイン/バルセロナFC所属)は、たった一度のボールタッチと体の動きだけで、相手チームの選手と味方チームの選手を一度に動かし、状況を一変させる力があります。彼はビジョンを体の動きで表し、それをコンセプトを共有しているチーム全員が認識するからこそ、有機的に動けるのです。

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