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なぜDevOpsは正しく理解されてこなかったのか?〜ベンダーキーパーソンが徹底討論〜(前編)「DevOps」が誤解されてきたこれだけの理由(1/4 ページ)

IoTやFinTechトレンドの本格化に伴い、DevOpsが今あらためて企業からの注目を集めている。だがDevOpsは、いまだ正しい理解が浸透しているとは言いがたい状況だ。そこで@IT編集部では、国内のDevOpsの取り組みをリードしてきた五人のベンダーキーパーソンによる座談会を実施した。前後編に分けてその模様をお伝えする。

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「DevOpsとは何か」というフェーズに終止符を

 市場変化の加速、スピーディなサービス開発・改善により収益向上を狙うIoTトレンドの本格化などに伴い、2015年はあらためてDevOpsが見直される年となった。こうした中、欧米ではFinTechも追い風に、金融、製造、流通など幅広い業種でDevOpsの適用が進んでいる。だが多くの日本企業は、その重要性を認識していながら、正しい理解、実践には至っていないのが現状だ。グローバルではDevOpsを収益・ブランド向上に役立てる事例が相次いでいる以上、日本企業もこれ以上、この動きを傍観しているわけにもいかないのではないだろうか。

参考リンク:

 2013年9月よりスタートした本特集。DevOpsの実践企業を中心に、さまざまなキーパーソンにインタビューしてきたが、その間、DevOpsの重要性は着実に浸透しつつも、いまだ情報が錯綜していることも事実だ。

 そこで@IT編集部では、日本のDevOpsトレンドをリードしてきたベンダー所属のキーパーソンによる座談会を実施。直接、ユーザー企業に接してきたそれぞれの経験を基に、「DevOpsが誤解された理由」から「正しい理解」「具体的な進め方」まで、“情報が錯綜してきた部分”を中心に議論を交わしていただいた。これにより、日本国内で長らく続いてきた「DevOpsとは何か」というフェーズに終止符を打ちたい考えだ。

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DevOpsトレンドをリードしてきた主要ベンダーのキーパーソンが一堂に会し、今あらためて「正しいDevOps」を議論

座談会メンバー(順不同)

  • 渡辺隆氏 日本CA DevOps&Application Delivery ディレクター
  • 藤井智弘氏 日本ヒューレット・パッカード ソフトウェア事業統括 シニアコンサルタント
  • 川瀬敦史氏 日本IBM クラウド・ソフトウェア事業部 DevOpsエバンジェリスト
  • 長沢智治氏 アトラシアン シニア エバンジェリスト
  • 牛尾剛氏 米マイクロソフト シニア テクニカル エバンジェリスト DevOps

 座談会は長時間におよび内容も多岐にわたったため、前後編の二回に分けてお届けする。今回は「DevOpsが誤解された本当の理由」と「正しい理解」「何ができればDevOpsなのか」までを紹介しよう。

一般企業、SIerに、正しい理解が浸透しつつあるDevOps

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日本ヒューレット・パッカード 藤井智弘氏 ともすれば“How to”の議論に終始しがちな新しい開発スタイルに対して、いまこそ「品質へのこだわり」を再度盛り上げるべきと思う昨今。『ディシプリンド・アジャイル・デリバリー』監訳者

編集部 昨今、IoTやFinTechのトレンドも受けて、市場ニーズを基に、ITサービスをスピーディに開発、リリースする動きが重視されています。こうした中で、今あらためてDevOpsが国内で注目されていると思います。昨今の企業の受け止め方を、皆さんはどう見ていますか?

藤井氏 昨今は、DevOpsを「ごく当たり前のこと」と思っている人たちと、「まったくイメージが湧かない」という人たちで、完全に二分しているように思います。ただ「DevOpsについて、もう少しリアリティある形で知りたい」という人は着実に増えてきた感があります。

 しかし取り組みを始めた企業を見ていると、「きちんと中身を理解した上で推進できているか」というと、必ずしもそうではない例が多いですね。Web上でDevOps関連の情報を見て、それが「自分たちの組織ではどう生きるのか、生かせるのか」までは咀嚼できておらず、とりあえずJenkinsやChefを入れてみて「これがDevOpsなのかなぁ」と漠然と思っている方々が多いのではないでしょうか。特に大企業では、そうした段階かなと感じます。

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米マイクロソフト 牛尾剛氏 マイクロソフトDevOpsテクニカルワーキンググループ。黎明期からアジャイル/DevOps実践者、コンサルタントとして、多くの企業のアジャイル/DevOps導入を支援。海外講演も多数

 ただ、以前に比べて「トレンドが大きく変わった」という実感はないものの、質問は増えており、「知りたい」という欲求は確実に高まってきていると感じます。

牛尾氏 トレンドという意味では、国内に紹介された当初は大きな山がありましたね。2012年、 Infrastructure as codeの考え方が入ってきた時に、エッジな人たちの間でDevOpsの考え方がとても盛りがっていた。今はそうした人たちの盛り上がりは収まりましたが、大企業での注目度が高まり、エンタープライズへの導入が始まっているなという実感があります。

 以前はツールや技術面ばかりがフォーカスされていましたが、DevOpsで実現できるのが「企業活動への貢献」だということに、多くの人が気付き始めたのが今ではないでしょうか。

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アトラシアン 長沢智治氏 開発プロセス、業務改善のエバンジェリズム活動に従事。無料での出張講演や現場訪問を前職である日本マイクロソフト時代から継続中。『C#実践開発手法』監訳者

長沢氏 以前は技術的には沸いても「ビジネスとのリンク」がなかったですよね。私が「日本ではDevOpsが、まだ決定的なムーブメントにはなっていない」と感じてきた理由もそこにあります。ビジネス的な動機がないまま、小手先の技で満足している人が多かった。

 しかし、今はビジネスにDevOpsが必要な理由が、ようやく少しずつ浸透してきた。ビジネスとシステムが直結しているWebサービス系やスタートアップはまた事情が違うんですが、「ビジネスの在り方が変わってきている」「クラウドやデバイスを使って、サービスをより多くの人に、迅速に届けることが必要になっている」といった認識を背景に、だんだん一般企業でも「DevOpsが不可欠なのかな」と感じる人が増えてきた。「本格的に取り組もう」と地に足を着けて活動しているところはまだそんなにないとは思いますが。

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日本CA 渡辺隆氏 2014年より現職。継続的デリバリーやテストの自動化など、DevOpsを支援するツール群の日本での事業責任者を担当。以前は、Rational SoftwareやIBMで開発ツールやプロセスの製品マーケティングを担当

渡辺氏 「具体的に取り組み始めたい」という人が増えてきたというのは同感ですね。2014年まではDevOpsというと、「うさんくさい」(笑)と見られたり、「うちには関係ない」という声が目立ったりという状況でした。

 ただ、「DevOpsをやりたい」という話をよくよく聞いていると、やりたいと言っていることが「継続的デリバリー」であったり、「継続的インテグレーション」であったりすることもあります。あるいはもっと具体的に、「ChefとJenkinsを使いたい」といった声も。つまり、理解はまだ十分に浸透しているとは言えないわけですが、「正しい理解」をしている方も着実に増えつつあり、「そのためにはどうすればいいのか」という話から、プロセスの話、ツールの話に落ちていくケースも増えてきた。SIerもアンテナを強く張ってきている。それがこの2015年だったかなと思います。

編集部 「ビジネスに必要なものだ」という認識が着実に深まってきたという見解は、皆さん共通のようですね。

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日本IBM 川瀬敦史氏 複数の外資系ITベンダーにて“Dev(開発)”と“Ops(運用)”に関わるソリューション提案や導入支援を数多く実施。その経験を生かし、顧客のビジネス成功に向け、顧客と二人三脚でDevOpsの展開をサポート中

川瀬氏 DevOpsの研究会、検討会を実施している企業も増えていますし、渡辺さんがおっしゃったようにSIerの関心も高まっています。また、これまでDevOpsに関心を持つ層は開発系の人が中心でしたが、昨今は運用系でも興味を持つ人が増えてきた。従来はDevOpsというと「作り手」の話でしたが、運用も含めた全社的な「ビジネスの全体の話」として浸透してきたかなと感じています。

編集部 運用の人たちも興味を持ち始めたというのは、クラウドの進展など、スピーディな開発・リリースのネックになりがちだったデプロイ先を迅速に整えやすくなってきた、という背景もあるのでしょうか。

川瀬氏 インフラの技術面もそうですが、「DevOpsの本質はビジネスへの貢献にある」という認識を持って、単純な「現場の効率化」ではなく、「自分たちがどうビジネスに貢献できるか、自分たちの運用部門はどう生き延びていくのか」という考えを基に、その一手段としてDevOpsを検討するといったケースが出てきたと思うんです。藤井さんもおっしゃっていた、「リアリティを持って取り組む」という企業が増えていることを強く感じます。

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