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「ハイブリッドIT」におけるアーキテクチャとその意義、変革への3ステップ基幹業務のSoRはどこまでクラウド化できるのか(2)(1/2 ページ)

「ハイブリッドIT」が具体的に「どのような形態を持つものであり、企業にとってどういった意義があるのか」を述べるとともに、ハイブリッドITへの変革の鍵となるクラウドマイグレーション&モダナイゼーションの手法を紹介する。

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 「基幹業務をはじめとする既存アプリケーションを、どのような観点でクラウドプラットフォームへ移行すべきか」を探る本連載「基幹業務のSoRはどこまでクラウド化できるのか」。今回は、前回取り上げた「ハイブリッドIT」が具体的に「どのような形態を持つものであり、企業にとってどういった意義があるのか」を述べるとともに、ハイブリッドITへの変革の鍵となるクラウドマイグレーション&モダナイゼーションの手法を紹介します。

企業におけるクラウド活用が、基幹業務に限らず増加傾向にあるが……

 前回記事において、さまざまなデータを参考に、企業におけるパブリッククラウド(以下、クラウド)の活用が基幹業務に限らず増加傾向にあると考察しました。

 一方で、ガートナー ジャパンのレポートによると、「日本のIT市場において、クラウドはオンプレミスの倍以上の投資意欲を集めているにもかかわらず、ここ数年の企業におけるクラウドの採用は微増にとどまっている」という調査結果が出ています(参考)。

 加えて、「IaaSやハイブリッドクラウドの利用率と利用増加率は、他のクラウドサービス(SaaS、PaaS、プライベートクラウドなど)と比べると低い」という傾向も見られています。

 これは、企業によるクラウド活用が進む一方で、基幹システムを含む従来型IT環境をクラウドへ移行するといった活動が、現時点ではまだ本格化していないことを示唆しているといえます。多くの企業では、「具体的に既存システムをクラウド環境にどのように移行していくべきか」「そのアプローチや実現方法はどうすべきか」について、課題を持っているのが現状なのではないでしょうか。

 本稿では、このような課題への解決策として、クラウド活用における最適解としてのハイブリッドITと、ハイブリッドITへの変革の鍵となるクラウドマイグレーション&モダナイゼーションの取り組みを紹介します。

「ハイブリッドIT」のアーキテクチャ

 前回、ハイブリッドITとは、「クラウドコンピューティングと従来型のコンピューティングの両方のスタイルを使って、全てのITサービスを提供する環境」であると記しました。このハイブリッドITという用語は、基本的には「基盤」の形態の在り方を述べていますが、クラウド移行を「基盤」の側面のみで捉えると、「クラウド利用によるコスト削減」という要素に目が行ってしまいがちです。

 一方で、クラウドはもはや、「アプリケーション」の側面、「ビジネス」の側面においても必要不可欠です。アプリケーションの側面ではAI、IoT(Internet of Things)、ブロックチェーンといった技術が、ビジネスの側面では、オムニチャネル化や異業種連携、API経済圏への参加といったテーマが、それぞれクラウドと切り離しては議論できないものとなっています。

 これらへの対応を目指す企業においては、まず「クラウドの活用を前提としたアプリケーションアーキテクチャ」への変革を目指すことが重要です。

 具体的には、図1の例のように、企業にとってのお客さま、ビジネスパートナーや外部エコシステムとつながるためのSoE(Systems of Engagement)、データの確実な記録のためのSoR(Systems of Record)、ビジネスにつながる新たな洞察を得るためのSoI(Systems of Insight)、そして、それらを統合(Integration)するシステムに分けられます。これらの機能特性に整理したアプリケーションアーキテクチャを目指すべきと考えられます。


図1 ハイブリッドITにおけるアーキテクチャの概要

 そして「クラウド時代のアプリケーションアーキテクチャへの変革を実現する」ための手段の1つとして、クラウドマイグレーション&モダナイゼーションがあります。

クラウドマイグレーション&モダナイゼーションとは

 マイグレーションやモダナイゼーションといった用語はさまざまなシーンでさまざまな使われ方をされるため、ここで、本連載で用いる「マイグレーション」と「モダナイゼーション」という用語を定義しておきます。

 マイグレーションとは、「オンプレミスに代表される従来型IT環境上のアプリケーションを、その基本的なアプリケーション構造を変えずに、そのままクラウド環境へ移行するアプローチ」のことを指します。

 このアプローチは、「既存のアプリケーションをクラウド上で稼働可能にする」意味で、クラウドイネーブルド(Cloud-Enabled)とも呼ばれます。また、既存アプリケーションを、そのままフォークリフトに載せてクラウドへ移すというイメージから、リフト&シフト(Lift&Shift)とも呼ばれます。


図2 マイグレーション

 一方のモダナイゼーションは、「クラウド環境へのアプリケーション移行に際して、既存のアプリケーション構造を変革し、クラウドに最適なアプリケーション構造に作り変えていく」アプローチです。

 マイクロサービス、API、サーバレス、コンテナなどのキーワードに代表されるように、クラウドにはクラウドに適したシステムの在り方、アーキテクチャが存在します。モダナイゼーションでは、それらクラウドに適したクラウドネイティブ(Cloud-Native)な構造に既存アプリケーションを変化させながら移行を行います。


図3 モダナイゼーション

クラウドマイグレーション&モダナイゼーションにおける2つのポイントと全体像

 クラウド時代のアプリケーションアーキテクチャへと変革するには、クラウドマイグレーション&モダナイゼーションという2つのアプローチを適材適所で使い分けながら、企業の既存システムの適切な配置先を決定していきます。

 その上でポイントとなるのは、「個別最適ではなく全体最適で進める」そして「基盤的な側面だけではなくビジネスとアプリケーションの視点でも検討を進める」の2つです。

 全体最適の視点が重要となるのは、個々のシステム更改や新規システム構築でのクラウド活用や、事業部門主導でのクラウド活用といった「個別最適のアプローチの積み重ね」では、クラウド環境上で、あるいは複数のクラウド環境に跨って、現在のレガシーシステムで問題になっているような「アプリケーションのサイロ化、スパゲッティ化」といった問題が発生する懸念があるためです。

 「基幹システムを含めた既存システム群で、どのようにクラウドを活用し、移行していくか」を検討する場合には、クラウド活用を前提とした「全社レベル、全体最適」の視点によってIT戦略とアーキテクチャを策定し、ガバナンスを効かせる「トップダウンアプローチでの取り組み」が重要となってきます。

 加えて、TCO削減としてのクラウド活用だけではなく、アプリケーションとビジネスの側面から、「どこにクラウドを活用した新たなビジネスを展開・投資していくか」という視点でも検討することが重要です。


図4 クラウドマイグレーション&モダナイゼーションの全体像
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