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教えて! キラキラお兄さん「AIは転職エージェントの職を奪いますか?」プロエンジニアインタビュー(8)(2/3 ページ)

グーグルのインターンを経て、英エディンバラ大学大学院で機械学習を学び、ベンチャー支援の経験も積んだ島田寛基さんは、機械学習を駆使した人材マッチングサービスを提供する「scouty」の代表取締役だ。島田さんが自らの進路をどう作り上げ、どのような筋道で起業に至ったのかを聞いた。

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機械学習を軸に事業案を考え、HR分野に焦点を絞る

 起業するに当たり、島田さんは技術を使って「新しい何か」をやらなければ勝てないと考えた。事業のアイデアは、当然のようにAI(人工知能)/機械学習を軸に考えた。アイデアをたくさん書いた。さまざまな事業アイデアを検討し、その中からHR(人事)分野を選んだ。

 島田さんが考えた筋道は次のようになる。ITを取り巻く業界では働き方が変化してきている。フリーランスも増えたし、新卒採用を取りやめた会社もある。求人広告ではなく紹介に基づくリファラ採用も増えた。そのような人材採用に関する最新事情をヒアリングする中で、転職エージェントたちが人を探す部分に多くの時間を費やすにもかかわらずマッチングがうまくいかないことが分かってきた。

 この状況を「一昔前の広告業界と一緒だ」と島田さんは表現する。インターネット広告の分野では、広告をターゲットの属性に合わせて機械的にマッチングして表示する技術(アドテク)が浸透しつつある。広告とメディアをマッチングする上で、人間の経験や判断ではなく機械的な処理を活用する動きが進んでいるのである。

 現状、多くの人材採用の現場では、「人探し」は転職エージェントの仕事だ。IT分野では、エンジニアがソーシャルメディアで自らのエンジニアとしてのスキルに結び付く情報をインターネットで公開している場合が多い。それを参考にすれば、「探す部分は機械に任せられる部分があるのではないか」と島田さんは考えた。そうすれば、転職エージェントが、説得やクロージングの部分により多くの時間を費やせるようになるのではないか――。

 このような考えが、scoutyのサービスに結び付くことになる。

雇用のミスマッチをなくしたい

 島田さんがscoutyのサービスによって解決したい問題は「雇用のミスマッチをなくすこと」だ。

 友人の進路を見ると、デザインやプログラミングの才能があるのにExcelの書類作りに追われているなど、雇用のミスマッチの問題を感じる場面が多々あったのだ。その人の資質に会った転職機会を多数の選択肢の中から提案してくれるサービスがあれば、世の中の雇用ミスマッチを減らし、本人も知らないようなより良い環境や職場への転職が可能になると考えた。

 エンジニアがソーシャルメディアなどに残した痕跡から、より良い選択肢を提示できるようになれば、そしてそれがスケール(規模拡大)できるなら、雇用のミスマッチはなくなっていくはず。それに社会に影響を与えるという点でも面白い──島田さんはこう考えた。

 scoutyという名称が示すように、サービスの基本的な枠組みはスカウトだ。求人企業が採用したい人材をデータに基づいて探しだし、転職を薦めるメールを送る。スカウトのメールそのものは人事担当者が書くが、その材料となる情報はscoutyのサービスが提供する。例えば「この人はRubyの能力が高く、スキルセットが自社の採用要件にマッチしている」といった情報を教えてくれる。メールは頻度が多いと迷惑に思われるので、同じ人にメールを送信する回数に制約を設けている。

 前述したように、人探しのために活用するのは主に公開されているデータである。インターネット上の複数メディアの情報を手掛かりに、求めている人材を探せることがscoutyの強みだ。例えば、オープンソースソフトウェアのソースコードを公開するGitHubでの活動、TwitterやFacebookのようなソーシャルメディア、技術情報を投稿できるQiita、IT勉強会サイトconnpassの情報なども見る。エンジニアの場合は特定の技術の「クラスタ」の中で似た人が集まっている場合があるので、ソーシャルメディア上のつながりも重要な情報になる。

 機械処理により人探しをする上で重要なことは、人材の属性を機械処理できるように表現することだ。scoutyではエンジニアリングのスコア、ビジネス経験のスコアなどを数値として表現し、評価尺度として使う。scoutyに基づく転職活動の実績が蓄積されていけば、その情報もscoutyが学習するデータとなる。つまりサービスが使われるほど、サービスの推薦精度は上がっていく仕組みだ。

 scoutyの仕組みで興味深い機能が「退職率予測」だ。機械学習により、過去のデータに基づき退職傾向を予測する。会社により平均在職期間が違うが、その点も考慮に入れる。個人についても、例えば「2年ごとに転職している人」はそれが考慮材料になる。

 scoutyによる人探しのターゲットとなるのは、今のところエンジニアに限定している。将来的にはエンジニア以外の職種にも対応する予定だ。もちろん海外展開も視野に入れている。

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