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Gartner Insights Pickup(73):

ソフトウェアのサブスクリプションモデルへの移行、先行ベンダーからの教訓

ソフトウェア業界では、誰もがサブスクリプションモデルへの移行を進めなければならなくなっている。だが、実際の移行過程ではさまざまな課題が発生する。先行ベンダーが自社の経験から学んだ教訓をお届けする。

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ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップ。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 「ソフトウェア業界は、ライセンスと保守サービスによる従来の収益モデルから、サブスクリプションベースの収益モデルに移行するのか」に関する議論は、とうの昔に決着がついている。今ではSaaS(Software-as-a-Service)が広く普及している。実際、従来のエンタープライズソフトウェアプロバイダーの多くは、SaaSへのシフトを余儀なくされてきた。

 「SaaSはソフトウェア市場を破壊しているわけではなく、急速な拡大をもたらしている。その躍進に押されて、従来型のソフトウェアプロバイダーはSaaSという選択肢を提供しなければならなくなった。さもないと、市場から脱落してしまう恐れがある」と、Gartnerのリサーチディレクターを務めるローリー・ワースター氏は語る。

 Gartnerは、2020年までに新規参入ベンダー全社と既存ベンダーの80%が、ソフトウェアをどこに置くかにかかわらずサブスクリプションベースのビジネスモデルを採用するようになるだろうと予想している。「数年前にごく少数のベンダーが散発的に始めた取り組みが大きな流れになり、ベンダーが競ってサブスクリプションビジネスモデルに移行しようとしている」と、ワースター氏は説明する。

 サブスクリプションビジネスモデルへの移行に成功したITベンダーは(手掛けるソフトウェアのカテゴリーがオンプレミス、ホステッド、クラウドのいずれであるかとは関係なく)、移行の過程で多くの共通課題に対処してきた。以下では、ワースター氏への取材を基に、こうしたITベンダーが学んださまざまな教訓を紹介する。その中には、常識的な内容の教訓もあれば実践するのがやや難しいものもある。

サブスクリプションモデルへは、徐々に移行する

 全ての顧客や製品を新しいサブスクリプション製品に一度に移行させる必要はなく、従来モデルによる製品販売をやめる必要もない。“サブスクリプションファースト”戦略に基づくオプションや新製品を顧客に提供し、徐々に変更を進めていけばよい。移行の過程では、既存の製品と顧客のために従来モデルも維持する。

 サブスクリプションモデルへの移行にかかるコストを低く抑えるには、新しい製品や顧客契約でまずサブスクリプションモデルを推進し、続いて既存顧客の転換を図る。必ず柔軟なライセンスオプションを提供しなければならない。また、移行戦略を策定する際には、必ず次のようにする。

  • 既存顧客の50%の転換を目指す。これを特定の期間内に実現すれば、財務への影響を最小限に抑えられる。
  • 戦略の策定は機能横断型チームで行う。成功を確実にするには、全ビジネス部門にわたり部門内外のステークホルダーが策定に加わることが重要だ。可能な場合は、常にサブスクリプションモデルの経験者を策定メンバーに加える。
  • 営業担当者やパートナーの報酬制度を再設計する。これにより、サブスクリプションへの移行を積極的にサポートする行動を奨励する。必要に応じて、再教育や個人目標の見直しを行う。

ソフトウェアの価値を高める

 無料トライアルプログラムや従来モデルでは通常提供されない機能モジュールの追加により、顧客や見込み客の購入を容易にする。これらはいずれも、新規および既存顧客に新しい機能を提案するのに最適だ。例えば、SaaSソリューションにアクセスするユーザーの希望に応じて、機能のオン、オフを切り替えればよい。

 無料トライアルプログラムや追加機能オプションの提供は、SaaSモデルの差別化やソフトウェアの価値向上、キャッシュフローの予測性向上にも役立つ。

 「サブスクリプションモデルではエントリーレベルの料金を安く設定できる上、顧客が成熟したり当初のエクスペリエンスから価値を得たりしてから、機能を追加できるようにすることも可能だ」とワースター氏は語る。

 「このことは、新規参入ベンダーにとって特に重要だ。彼らは、顧客が新技術を導入する際の金銭的な障壁を低くするとともに、持続可能で経常的な収入源を創出したいからだ」(ワースター氏)

 ワースター氏によると、ソフトウェアの価値を高める他の方策として以下が挙げられるという。

  • クラウドやホステッドサブスクリプション/SaaS製品が、従来の製品より高い柔軟性を提供するようにする。
  • エンドユーザーコミュニティーを対象とした分析を利用する。
  • 新機能の提供を成長計画に組み込み、平均課金額の増加とユーザーの拡大につなげる。

パートナーやリセラーの収入源を確保する

 サブスクリプションモデルへの移行の価値を、営業担当者、顧客、パートナーに示す準備を行う。営業担当者は、長期にわたって従来以上の成果を達成できる保証を受けたいと考える。パートナーは、収入を生んできたサービスや手数料がサブスクリプションモデルによって不要になったり縮小したりして、バリューチェーン(価値連鎖)から排除されてしまうわけではないことを確認したいと考える。

 「ベンダーは、『パートナーと直接営業チームの両方を教育しなければ、サブスクリプション料金は、誤解のせいでパートナーと顧客に全く受け入れてもらえない恐れがある』と認識している」と、ワースター氏は説明する。

 これは、ITベンダーが移行において最も苦労した点の一つだ。誤解が生じないようにするには、以下の方策を講じるとよいという。

  • 営業チームとパートナーのフィールドチームを直接教育する。これらのチームが、どうすればSaaSモデルでこれまで以上の成果を挙げられるかを理解できるよう支援する。
  • パートナー専用の継続的コンテンツとツールを提供する。これにより、パートナーは不要になった実装や構成の業務に代えて追加の付加価値サービスを展開できる。
  • 従来のライセンス料を補う有力なビジネスモデルを提案する。ライセンスの再販をビジネスの柱としているパートナーのためにこの方策を講じる。例えば、新しいSaaS製品に関連するトレーニングやマネージドサービスを既存顧客に提供するビジネスが考えられる。

 「こうした教訓の中には、常識的な変更を伴うだけの簡単に見えるものもあれば、実践するのがやや難しいものもある。いずれにしても、これらの教訓はITベンダーにとって、サブスクリプションモデルに移行するための確固たる出発点になる」(ワースター氏)

出典:Moving to a Software Subscription Model(Smarter with Gartner)

筆者 Christy Pettey

Director, Public Relations


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