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HCIは“ハイブリッドクラウドインフラ”と捉えるべきだ――NetAppHCIのメリットは、オンプレの運用負荷低減だけではない

国内でも毎年、倍々の勢いで企業導入が進んでいるHCI(ハイバーコンバージドインフラ)だが、導入目的のほとんどはオンプレミスの運用負荷低減とコスト削減にある。だがクラウドファーストも浸透しマルチクラウドに取り組む企業も増えつつある今、HCIも“オンプレミスに閉じた視点”で捉えたままでよいのだろうか。

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 デジタルトランスフォーメーション(DX)のトレンドを背景に、インフラ運用にはビジネス展開に追従できる一層のスピードと柔軟性が求められている。だが周知の通り、数年前にコスト削減目的で導入した仮想環境の運用管理に手間取り、運用負荷に悩んでいる企業が多いのが現実だ。

 こうした中、仮想環境の運用負荷低減やコスト削減に効くとして、2年ほど前からハイパーコンバージドインフラ(HCI)が企業導入を伸ばし続けている。IDC Japanの調べによると、2017年の国内ハイパーコンバージドシステム市場の支出額は約160億円。2016年、2017年と連続で倍近い伸びを示しており、2022年には402億円に達すると予測している。登場当初はVDI基盤など特定用途で導入されるケースが多かったが、昨今は従来の仮想環境の置き換えとして使われるケースが一般的となるなど、一過性のブームなどではなく、企業インフラの選択肢として定着したといえるだろう。

 これに伴い、HCIに寄せられる期待も高度化しつつある。数年前に導入したHCIでは要件を満たせず、システム更改のタイミングで製品の見直しを図る企業も増えつつあるようだ。では今、HCIにはどのような要件が求められているのだろうか。DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進やマルチクラウド化に取り組む企業も増えている中、ハイブリッド環境でのデータ管理を容易化する概念「データファブリック」を打ち出しているNetAppに、これからのHCI像を聞いた。

管理のシンプル化が必要なのは、オンプレミスだけではない

 NetAppが2017年11月に発売したハイパーコンバージドインフラ「NetApp HCI」は、その独自の仕組みで企業の注目を集めた。一般に、HCIは汎用的なx86サーバにSDS(ソフトウェアデファインドストレージ)を組み合わせた検証済みの仮想環境として納品される製品だが、NetApp HCIはオールフラッシュストレージ「NetApp SolidFire」をベースに、コンピュートノードを統合した製品となっている。

 一般的なHCIでは、コンピュートリソースとストレージリソースを個別に拡張できないため、用途によっては一方に余剰リソースが生じやすいという課題があったが、ストレージとコンピュートを分離した仕組みとすることでこれを解消している他、アプリケーションごとに性能の上限・下限を設定できるQoS機能を持つなど、専用ストレージ装置「SolidFire」の機能を生かせることを特長としている。

 またHCIの適用基準として、「ストレージにどれほどのデータサービスが求められるか」によってSDS搭載のHCIか、専用ストレージを使う三層構造のアーキテクチャかを判断するという考え方もあるが、専用ストレージの場合、リソースを拡張する際にRAIDの再設計が必要など専門スキルが求められる。その点、NetApp HCIはそうしたスキルは不要であるなど、専用ストレージの高度な機能とHCIのシンプルさの“いいとこ取り”をした後発ならではの製品となっている。NetApp シニアバイスプレジデント ゼネラルマネージャーのブラッド・アンダーソン氏は昨今のHCIトレンドについて次のように話す。

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NetApp シニアヴァイスプレジデント ゼネラルマネージャーのブラッド・アンダーソン(Brad Anderson)氏

 「数年前に登場したHCI第1世代は、サーバ、ストレージ、ネットワークという3Tierのインフラを簡素化したい、運用負荷を低減したいというニーズに応えたという意味では企業に大きな価値をもたらしたと思う。しかし現在は、パブリッククラウドの各種サービスやクラウドネイティブなアプリケーションを自社に取り込みたいという企業が増えている。そのためには、オンプレミスの運用負荷低減だけではなく、オンプレミスとのハイブリッド環境/マルチクラウド環境でも、アプリケーションやデータを共通かつシンプルな方法で管理できることが重要になる。NetApp HCIもハイブリッド/マルチクラウド環境管理のシンプル化を見据えて開発・提供している」(アンダーソン氏)

 そのポイントの一つとして、NetApp ヴァイスプレジデントのブレット・ロスコ―氏は、「ハイブリッド/マルチクラウド環境におけるデータ管理・活用・移動・保護をシームレスに行う」という概念、「データファブリック」にNetApp HCIを包含させたことを挙げる。「これにより、オンプレミスとパブリッククラウドをまたがったデータ管理が容易にできるようになる」(ロスコ―氏)

 具体的には、レプリケーション機能を提供する「NetApp SnapMirror」の対応範囲を拡大。NetApp HCIと専用ストレージ「NetApp FAS」シリーズなどとの相互レプリケーションを可能にしている他、NetApp SnapMirrorを介して、クラウド上で稼働するストレージOS「NetApp Cloud Volumes ONTAP」と連携させ、AWS、Microsoft Azure、Google Cloud Platform(GCP)など、各種パブリッククラウドとNetApp FAS間での相互レプリケーションも実現できる。これにより“HCIを含めたオンプレミス”とクラウドをまたがった一元的なデータ管理を実現している格好だ。

簡単さを求めた先行導入企業が、新たなインフラを検討する理由

 だが周知の通り、日本では「HCIを核にハイブリッド環境を構築する」という考え方より、オンプレミスの運用負荷軽減、コスト削減を目的にHCIを導入し、取り組み自体も既存の仮想環境を移行しただけで終わってしまう傾向が強い。

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NetApp ヴァイスプレジデント ブレット・ロスコ―(Brett Roscoe)氏

 ロスコー氏は、「確かに第1世代のHCIは、グローバルでも、リソースもインフラ管理者も少ないという企業がメインターゲットだった。だが、その利便性を実感し、多くのアプリケーションを載せるようになってくると、混在したワークロードを効率良く管理しなければならなくなる。この点で、本格導入するに従い、HCIならではの簡易さやコスト効率が低下してしまい、より高度な管理効率を自ずと求めざるを得なくなる例が増えている」とコメントする。

 例えば「コカ・コーラ」ブランドを展開するCentral Bottlingもそうした事例の一つだという。同社は当初、第1世代のHCIを導入し、運用の簡素化を実現していたが、製造系アプリケーションを追加するほどパフォーマンスが低下。ついには製造ラインに影響が及び、システムのパフォーマンスを担保するためにチューニングが必要なほどになってしまった。

 「だが彼らのコアコンピタンスは製造であり、ITではない。マルチテナント、マルチワークロードを1つのインフラで効率良く管理したい、アプリケーションごとのパフォーマンスも担保したい――そうしたニーズを“製造ビジネスのために”実現する必要に迫られてNetApp HCIに全アプリケーションを移行した。つまり、当初は利便性や効率のみを求めて導入したとしても、使っているうちにHCIにどのようなケイパビリティが必要なのか、おのずと気付くケースが増えてくると考える」(ロスコ―氏)

 サービスごとのSLAが問題になったケースとしては、オーストラリアのクラウドサービスプロバイダーの事例もあるという。同社はエクイニクス社のデータセンターのコロケーション環境にHCIを置き、複数のパブリッククラウドと専用線でつなげたハイブリッドクラウド環境をサービスとして企業に提供していた。

 だが、HCI上には多数かつ多様なワークロードのアプリケーションが載ってくる。当然、アプリケーションごとに顧客企業と交わしたSLAを担保しなければならないが、そのために多数のハードウェアを追加せざるを得なくなってしまった。結果、HCIに期待していたコスト効率が大幅に低下したため、サービス提供そのものを停止。その後、PoCを経て、NetApp HCIで運用をシンプルにするとともに、ハードウェアを無駄に追加することなく、サービスごとにパフォーマンスを担保できることを確認したという。

 ロスコ―氏は、「HCI製品の中にはSDSのストレージコントローラを稼働させるだけで約25%ものコンピュートリソースを消費するものもある。QoSを保証する手段としては仮想環境をパーティショニングする方法もあるが、vCenterで行うには管理が複雑になってしまう」と補足する。

 「確かにシステム構成や運用管理をシンプルにすることは重要だ。だが、重要なのはシンプルさだけではない。HCIのケイパピリティを向上させることで、オンプレミスでもパブリッククラウドのような管理ができることや、AWS、Azure、GCPなどとのハイブリッド環境も効率良く運用できることに、もっと目を向けるべきだ」(アンダーソン氏)

「NetApp Kubernetes Service」でクラウドにもHCIにも自由にデプロイ

 重要なのは、両事例とも「運用現場の効率化」のみに閉じず、「ビジネスを推進させるための効率化」という視点でHCIを捉えていることだろう。実際、NetAppにおいては、「AIなどを使って新領域のSoEサービスを作りたい、データを使って新たなビジネスを作り、カスタマーエンゲージメントを高めたい」というモチベーションの下、ハイブリッド環境やHCIを検討する企業が多いという。

 これに応え、同社がもう一つの注力分野としているのが、「アプリケーションアジリティ――開発・デプロイの高速化や、仮想環境/コンテナ環境管理の柔軟性の向上」だ。具体的には、クラウド上で稼働するNetAppの各種データサービスを「as a service」として提供しているマーケットプレイス「NetApp Cloud Central」でこれに応えている。

参考リンク:NetApp Cloud Central

 NetApp Cloud Centralは、前述した「NetApp Cloud Volumes ONTAP」や、クラウドネイティブのファイルストレージ「Cloud Volumes Servives」、クラウドとオンプレミスのストレージ間のデータ同期を行う「NetApp Cloud Sync」など、ハイブリッド環境で“データファブリック”を実現するための各種マネージドサービスをラインアップし、一部有償で提供しているサービスポータルだ。このNetApp Cloud Centralに、2018年9月に買収したばかりのStackPointCloudが提供してきたKubernetesのマネージドサービスを「NetApp Kubernetes Service」として近日発売予定としている。

 「クラウド上で開発したアプリケーションをコンテナ化して、AWS、Azure、GCPなどへデプロイするのと同じように、オンプレミスのNetApp HCIにも展開できる。NetApp Kubernetes Serviceの一つの管理画面を通じて、クラウドにもHCIにも迅速・簡単にデプロイできるとビジネスにどのようなメリットがあるのか、ぜひ想像してみてほしい」(ロスコ―氏)

HCIは、もはや「ハイブリッドクラウドインフラ」と言うべきだ

 とはいえ、一般的な日本企業においては、運用管理の省力化は望んでも、既存のプロセスが変わることを忌避する傾向も強い。HCIのより高度な活用はこれからという段階だろう。これに対してアンダーソン氏は、「もちろん“HCIを核とするハイブリッド環境”の構築を、ただいたずらに勧めるわけではない」と話す。

 「ワークロードによっては、パブリッククラウドが合っているものもあれば、そうでないものもある。肝心なのは、アプリケーションの特性や重要度に応じて、HCIとパブリッククラウド、それぞれの正しい適用を企業にコンサルテーションすることだと考えている」(アンダーソン氏)

 具体的には、オンプレミス環境を可視化する「NetApp OnCommand Insight」や、クラウド環境を可視化する「NetApp Cloud Insight」などを使ってシステムの現状を把握し、各アプリケーションやデータをHCIを含めたデータファブリックのどこに置くのが最適か、現場の課題やニーズを基に、運用効率、コスト効率の両面から「ベストな環境をアドバイスする」という。

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「正確な現状把握の下、クラウドに向くアプリケーション、HCIに向くアプリケーションを仕分けした上で、データファブリックのうちどこに各アプリケーションやデータを配置するのが適切なのか、きめ細かなコンサルテーションの下、ビジネスにとってベストなハイブリッド環境を提案していく」と異口同音に語る両氏

 「先ほどの事例のように、簡単さに着目してHCIを導入したが、その後要件が増えてインフラの改善を考えるケースが増え、HCIの市場そのものが成長していくと思う。特にビジネス要件に応じて複数のインフラを使い分けることが求められている今、もはやHCIというより“ハイブリッドクラウドインフラ”と名前を変えてメッセージングした方がいいのかもしれない。インフラのモダナイゼーションについて日本企業は進展が遅いという声も一部にはあるが、われわれは企業の現実的な課題を見据えつつ、あるべきインフラに向けて、製品開発と知見の提供を丁寧に続けていきたいと考えている」(アンダーソン氏)

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